NIRA政策レビュー「老齢学から加齢を再考する」・オピニオンペーパー「75歳まで納税者になれる社会へ」

総合研究開発機構(NIRA)の辻明子さんから(だと思う)、同機構の理事でもある柳川範之先生が取りまとめられたNIRA政策レビューNo.64「老齢学から加齢を再考する」と、やはり柳川先生の手になるNURAオピニオンペーパーNo.11「75歳まで納税者になれる社会へ」をお送りいただきました。ありがとうございます。
「老齢学から加齢を再考する」(全文がお読みになれます)
http://nira.or.jp/president/review/entry/n150130_757.html
「75歳まで納税者になれる社会へ」(紹介と目次のみ)
http://nira.or.jp/president/opinion/entry/n140925_742.html
「老齢学」は簡単に言えば加齢とともにすべての能力が衰えるというものではなく、衰えないものもあるし、衰えるにしても運動などそれを抑制する方法もあるという、心理学者とスポーツ医学者によるジェロントロジー研究の紹介です。ご関心のむきはリンク先をおあたりください。
「75歳〜」は全文は読めないのですが非常に短いもので、以下ポイントをご紹介します。

○もはや高齢者ではない
 日本では平均寿命が延びているだけではなく60代、70代の体力も確実に上昇傾向にあり、この15年で5歳程度若返っている。今のままでは年金がもたないことが明らかであり、60代、70代を「高齢者」と呼んで支えられる側と一方的に想定すべきではない。意識面でも4割以上の人が75歳までまたは働けるうちはいつまでも働きたいと考えている。「75歳まで納税者になれる」社会を構築すべきだ。
○働くことイコール被雇用ではない
 だから高齢者の雇用を増やすと考えるのは間違いで、企業に高齢者雇用を義務付けるべきではない。雇われずに農林水産業や自営業で働くことを積極的に考えるべき。近年60代の起業は増えており、一層起業がしやすい環境づくりが必要。高齢者ほど社会や地域への貢献を考えており、社会的起業を重視すべき。
○多様性を重視した政策運営を
 60代、70代は多様性が大きく一括りに考えるべきではない。また、今の65歳以上には就業経験のない人も多く(65-69歳女性の11.5%、50万人弱)、こうした人でも社会貢献を含めさまざまな活躍の場が与えられるよう教育訓練などを拡充すべき。ITを活用するなど、それぞれの体調や環境に合わせた働き方ができるような制度・社会システムの構築が重要。

感想を簡単に書きますと、まずはまたしても(笑)用語の問題で、高齢者雇用などの場面でもたびたび見かける表現ですが「75歳まで納税者になれる社会」という言い方にどうしても抵抗があり、いや法律で禁止されているわけでもなし、実際たとえば固定資産を保有していれば75歳までといわず何歳まででも納税者にならざるを得ないわけです。まあ私がこうした表現にイライラするのは「70歳まで働ける社会」というのがすぐに継続雇用とか定年延長とかいう話につながるからではあるのですが。実際には70歳まで働ける社会とか70歳まで働ける企業とかがあるのではなく、70歳まで働ける人と70歳まで働ける仕事がいる・あるだけだと思います。
さて柳川先生が雇われて働くことだけを考えると間違えると言っておられるのはまことにそのとおりなのですが、いっぽうで年金財政がという話とセットなので75歳までは年金を支給しないとか減額するとかいう話でしょうから、そうなるとその間の生計費を稼得するのに自営や農林水産業で大丈夫だろうかという心配はあります。もちろんそれなりの雇用機会はあるでしょうし、自営で十分に稼得できる人も多かろうとは思いますが、自営、特に起業するとなるとリスクも大きく、起業したものの商運つたなく失敗して負債が残ったうえに無年金という窮地に陥る人も出てきそうです。まあ生活保護でカバーすればという話かもしれませんが、とはいえやはり人と企業の双方に雇われて働き続けることを支援する政策は必要なように思います。一定以上の高年齢者を雇用する事業主には社会保険料を減免するといったインセンティブも必要かもしれません。
ちなみに今回はいつもの「75歳まで働くためには40歳定年で学び直し」という話は出てこなかったので安心して読めました。