女性への過小評価と過大評価

昨日の続きになりますが、中央大学ワーク・ライフ・バランス&多様性推進研究プロジェクト成果報告会で出た話のうちワーク・ライフ・バランス管理職と直接関係ない話題をひとつ。なにかというとパネルの中でニッセイ基礎研の松浦民恵先生が「女性は過大評価か過小評価しかされない」という趣旨の発言をされてたいへん得心したという話です。
たしかに思い返してみると、ふだんは勤続が短いとかしたがってキャリアへの意欲が高くないとかいった調子で女性は「過小評価」され続けているわけですが、ひとたび好況で人手不足とか均等法とかいった事情で「今こそ女性の活用だ!」といった号令がかかると、一転して(まあそれまでの「過小評価」の反動もあるのでしょうか)女性の可能性はすばらしい、女性の活用こそ業績改善のキーワードだ、とかいう「過大評価」になる、ということが、今回の女性活躍も含めて3回くらいは繰り返されているのではないか、という感があります。
個人のレベルでみても、普段は能力も意欲もある女性であってもなかなかチャンスが得られないのに、「過大評価期」になると突如として「管理職候補の女性を探せ!」という話が持ち上がって抜擢が行われ、それだけではなくロールモデルとしての役割が期待され、さらには外のセミナーに出て行って女性活用の見本となったりもするわけで、もちろんそれがポジティブアクションというものだということでしょうから悪いことではないというかいいことだと思いますが、しかし等身大の評価ともいえないでしょう。
現実には、いかに支援制度を導入し託児所を作ったとはいえいまだに古くからある出産育児をどうするかなどといった問題はなくなったわけではありませんし、そうした現実を全体として等身大でとらえて女性の育成や活躍を考えてほしい…ということでワーク・ライフ・バランス管理職の話につながっていたように思います(申し訳ありませんが前後の文脈は必ずしも明確に覚えているわけではないので私の誤解・思い込みの可能性があります)。
今回の「女性活躍」局面でも依然としてそういう感は否めず、たとえば最近ときどきご紹介している大久保幸夫・石原直子『女性が活躍する会社』でも、第2章の後半をあてて、女性顧客の影響力が一段と高まっている中で、女性抜擢による商品開発が成功した例や(男性とは異なる女性の)リーダーシップの多様性がイノベーションに結び付いた例が紹介されているのですが、やはり「過大評価」だなあというか、もちろんそれ自身は実例なので過大でも過小でもないでしょうが、高確率でそうなるという話になると期待が大きくなりすぎて抜擢された女性も負担が大きいのではないかと思うわけです。
もちろんあらためて調べたわけでもなんでもないので事実高確率でそうなっているという証拠を見せられたときに上げる白旗は準備していますが、しかし常識的に考えて女性を抜擢して商品開発を行ったところはかばかしい結果が得られず、ああやっぱり女性活躍なんてダメじゃないかという話になってしまった例も少なからずあるのではないかと思うわけです。そこまで含めて等身大で見なければ、過度な期待をかけられてうまくいかなかった例が「私はああいう目にはあいたくない」という悪しき前例になってしまいかねないと心配するわけです。
あとこれはかなり下世話な話になりますが、同書にも類似の記載がありますし私自身もかつてたびたび耳にした「採用面接をしていると男性より女性のほうが優秀」という話があるのですが、私自身にはそういう実感はあまりなく、もちろん個人差は大きいのですが全体でみればそれほど変わらないねえというのが正直なところでした。それでも多数の人がそういうのでたまたま私の場合だけそうだったのかなあなどと思っていたのですが、これも松浦先生の言われるように「過大評価」によるところなのかもしれないと今さら思ったわけです。
なにかというと採用面接の場面において面接員は圧倒的に男性が多いと思われ、通常彼らは潜在的に女性を「過小評価」していることから、実際にはそうでもないという現実をみたときに「男性よりいいじゃないか」という「過大評価」をしてしまいがちなのではないか、ということです。もちろん、面接を受ける女性の側も、「過小評価」されているという自覚はないでしょうが競争上男性より不利であるという前提があるので、その分がんばる・がんばってみえるという話もありそうで、これらがあいまって「女性のほうが優秀」という感覚になっているのではないでしょうか。ちなみに上掲書でも該当部分を書いておられるのは男性である大久保先生です…が、どうもこれは男性担当者を説得するテクニックとして活用しておられるようでありさすがだなあ。ちなみにこう書いていてこれってことによると留学生と日本人学生の関係にもあてはまるんじゃないかと思いはじめました。こちらは私自身も「留学生のほうが優秀」という印象を持っていたのですが…。