ゼンショー、労働環境改善に向けた第三者委員会を設置

産業競争力会議ネタを引っ張っている間に出てきたネタです。先月末の日経MJから。

 ゼンショーホールディングス(HD)は28日、牛丼店「すき家」の労働環境改善策を提言する第三者委員会を5月7日に設置すると発表した。久保利英明弁護士を委員長とし、国広正弁護士、経営倫理実践研究センターの村松邦子主任研究員の3人で構成する。
 すき家は今年に入って、人手不足のために一部店舗を一時休業しており、店舗の労働環境改善を目指して地域分社化と同委員会の設置を決めていた。
平成26年4月30日付日経流通新聞日経MJ)から)

いきさつはご承知のとおりですが日経新聞のウェブサイトから再確認しますと、

 外食チェーン最大手のゼンショーホールディングス(HD)は6月をメドに、約2000店を運営する牛丼店「すき家」を全国7つに分社化する。人手不足で一部の店舗が一時的に営業できない事態に陥っており、店舗のある地域の実情に合わせた採用や人材管理を徹底する必要があると判断した。
 新体制ではすき家を、北海道・東北、関東、首都圏、中部・東海、関西、中・四国、九州の7地域に分けて新会社を置く。それぞれが約300の店舗を運営し、約5000〜6000人のパート・アルバイトと、約70人の正社員を管理する。
 地域会社には社員やパート・アルバイトの採用や販売促進、店舗の統廃合などの権限を大幅に委譲。賃金体系は地域の実情に応じた仕組みを柔軟に採用できるようにする。求職者やすでに雇用しているアルバイト従業員が働きやすい環境づくりが狙いだ。
 背景にあるのは深刻な人手不足だ。すき家は今年に入り、店舗に従業員を配置できないことから最大123店舗で一時休業を強いられ、124店で午後10時から午前9時までの深夜・早朝営業を休止した。
 分社化と並行して、コーポレートガバナンスに詳しい久保利英明弁護士を委員長とする、外部の有識者による第三者委員会も設置する。同社はインターネットなどで労働環境が過酷な「ブラック企業」と批判を受けており、働きやすい環境づくりに外部の声を生かす。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDC1600D_W4A410C1EA2000/
(有料会員限定のページのようですがすでにあちこちに転載されているようなのでご勘弁ください)

三者委員会についてはゼンショーHDのニュースリリースにも記載されていて、「コーポレートガバナンスに詳しい久保利英明弁護士を委員長とする、外部の有識者による第三者委員会を設置し、店舗や本部などへの調査をもとに、労働環境改善に関する会社への提言を行います。/委員は久保利委員長に選定を一任し、4月中に決定する予定です。」となっていますので、予定どおり4月中に決定したということになります。
ということで人選は久保利先生のようですが、久保利先生と国広先生はリリースにもあるとおり企業統治や危機管理のエキスパートとして名高い先生方で、あまり労働環境改善の専門家という感じはしません。村松氏は日本TIで広報やCSRをやってこられた方で、ダイバーシティとかもやっておられたのでその面では労働環境改善にも取り組んでこられたことと思いますが、しかし今のすき家に求められる労働環境改善ってそれかなあと思わなくもありません。もちろん不良な労働環境は企業統治の面でも危機管理の面でも大問題には違いありませんし、そもそもすき家の現状が悪すぎて労働環境の専門家を招くようなレベルにも達していないということかもしれませんが…。
委員も3人だけで、もちろん多ければいいというものではないでしょうが、「店舗や本部などへの調査」が十分に行えるかどうか少し心配になります。まあ、これは別途各先生方のスタッフが実施するのでしょうか。
もちろん、久保利先生がやられることですから、やりましたというポーズだけというものには当然ならなかろうと思いますが、とはいえ、これは今朝の日経新聞で小さく報じられていたのですが、同業のワタミのニュースで、

 ワタミは6月、転勤がない「エリア限定社員」の制度を刷新する。福利厚生を正社員並みに引き上げ、賞与も出すよう見直し、店長まで昇格できるようにする。新制度の導入でアルバイトを対象に年約100人を登用する計画だ。
平成26年5月9日付日本経済新聞朝刊から)

やるのであればこの程度までは踏み込む必要はあるのではないかとも思うところで、となると福利厚生をどうするとか賞与の水準はとか人事制度をどう作るとかいう具体論もしないわけにはいかないでしょう。ふつうの会社なら大きな方向性を外部有識者が示して具体論は各社のスタッフが、ということもあるでしょうが、ゼンショーはそこがダメだったから第三者委員会を作っているわけで、となるとやはり労働や人事管理の専門家が必要ではないかと思うことしきり。まあ無理に委員に入れなくても、必要に応じてその道の専門家の意見を聞けばいいということかもしれません。
それにしても記事を読む限りの印象ではありますがゼンショーというのはかなり奇妙な会社のようで、そもそも深刻な人手不足になって今更のように「賃金体系は地域の実情に応じた仕組みを柔軟に採用」とか言い出すというのは一般的な人事管理からはかけ離れたものではないかと思います。つまり、普通に考えてこれまでは地域や店舗レベルでは賃金を上げられなかったということでしょうが、店舗の立地によって賃借料が異なるのと同様、アルバイトの賃金というのもかなり狭い範囲のローカルなマーケットで決まってくるわけで(まあ賃借料ほどの差はないでしょうが)、地域相場が上がってくれば採れない地域が出てくるに決まっています。アルバイトの賃金を牛丼1杯250円で売れるように割り出して全国的にそれ以上はまかりならんとキャップを決めていたとしたら、そりゃブラックと言われるのも仕方ないよなと。とりあえず現時点ではすき家のウェブサイトのアルバイト募集をみても地域・店舗によって時給は大きく異なっていて、銀座あたりの店舗では1,100円からというのも多い一方、地方では700円からとかいうのもザラなので、一応分社化の効果は出たということかもしれません。ちなみにこれは大人の時給で、高校生はさらに低く最賃ジャストという店舗もちらほらと散見されます。いやもちろん悪いわけではありませんしブラックと言われて気にして最賃より少し上にするよりかえって潔いという見方もあるかもしれませんが…。
また「約300の店舗を運営し、約5000〜6000人のパート・アルバイトと、約70人の正社員を管理」というのもすげえなと思ったところで、70人の正社員というのがすべて店舗要員だとしても一人あたり4〜5件の店舗を受け持つ計算です。さすがに材料什器の調達(これは全国一律かな)や管財、設備保全や店舗改装などを担当するスタッフは別途いるのだとは思いますが、それこそアルバイトの採用やらシフト・ローテーションの作成やら店舗の採算管理やら近隣地域住民対策やら日常的な営繕の発注やらは店舗担当スタッフの仕事でしょうから、かなり大変だなあという感じです。かなりの程度アルバイトもやってるのかなあ。地方に行くと店舗の立地も県庁所在地や中核的な都市に数店舗、あとは各市や観光地などに各1〜2店舗という感じで、移動だけでも大変ではないかと思うのですが…。
ということで、先月ご紹介した(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20140402#p2ユニクロもそうでしたが、やはり労働環境改善といったことで君子豹変せしめるには人手不足が最も効果的ということで、経済活性化こそが最大の雇用労働問題の改善策だということが言えるのではないかと思います。いやいやそれではまた不況が訪れたら同じことが起きてしまう、やはり根本的に構造を変革しなくてはダメだという意見は右からも左からも出てくるわけですが、そんなに簡単にできるならとっくにできているはずで、やるにしても良好な経済環境を維持しながら漸進的に、ということではないでしょうか。景気はめぐるものなのでまたいずれは後退期があるでしょうが、それでもいずれまた人手不足が来ると思えば、企業はそれほど後戻りはしないはずです(たとえばアルバイトの時給は需給関係で下がるにしてもアルバイトの人事制度や研修制度までなくしたりはしないでしょう)。したがって企業経営者がそう考えられるような環境づくりが重要で、そういう意味では現政権の「世界で一番ビジネスのしやすい国へ」というスローガンは、具体論や実現性は別としても方向性としては適切だと思いますし、その方向性がこれからも続いていくという見通しを企業経営者に持たせることが大事なのだろうと思います。