パートタイマーの待遇改善

週末の日経新聞から。人手不足を反映してか、パートタイマーの処遇改善が進んでいるようです。

 小売りや外食の大手企業のうち半数以上が仕事の内容や責任が正社員と同等の「正社員並みパート」を雇用していることが日本経済新聞社の調査で分かった。来年四月には正社員との差別的待遇を禁じる改正パートタイム労働法が施行されるが、正社員並みパートを雇用している企業の五割は待遇を改善済みと回答、さらに「一般パート」では全体の九割超が待遇改善の意向を示した。パート依存率が高いこれら業種は人手不足感が強く、待遇改善をテコに人材の確保・定着を図る狙いがある。
 調査は小売りや外食などを中心に大手企業百社強を対象に実施し、八十三社から有効回答を得た。一般にパートの待遇改善はコストアップ要因となるが、法改正に加え景気拡大で激化する人材獲得競争に対応するため待遇改善が避けて通れなくなっている。
 八十三社が雇用するパート労働者は合計七十二万人で、対象企業の全従業員の七五%を占めた。パート人数が最も多かったのは日本マクドナルドで九万六千人。二位はすかいらーくで八万五千人、三位はイオンで六万二千人だった。
 全従業員に占めるパート比率でも、すかいらーくマクドナルドの二社がともに九五%台で一位と二位、三位も牛丼チェーン「すき家」などを運営するゼンショー(九四%)が入るなど総じて外食はパート依存度が高い。マクドナルドの平均的な店舗では従業員は三十―四十人に対し正社員は一―二人となっている。
 正社員並みパートについては「いる」と回答した企業は五四%で、このうち正社員並みパート比率が高いのは家電量販店のベスト電器(四七%)や靴店エービーシー・マート(四六%)など。イトーヨーカ堂や東急ストアなどは一%未満だった。これら企業の半数が賃金制度を改めたり正社員並みの教育制度を取り入れるなどして待遇を改善済みと答えた。逆に正社員並みパートは「いない」とした企業は高島屋ヤマダ電機、ローソンなどだった。
 改正法では一般パートも仕事内容や能力、経験などを踏まえ、正社員とバランスのとれた待遇を確保する努力義務が課せられる。これまでにイオンは正社員と資格制度を統一し賃金格差も縮小しているほか、大手生活雑貨専門店のロフト(東京・渋谷)は来年三月にも賃金と契約期間の両面で正社員とパートの区別をなくす制度の導入を打ち出すなどしている。
 調査では一般パートについても五一%の企業が待遇を改善済みとし、四〇%が同法施行までに改善すると回答。「改善の予定はない」は九%にとどまり、一般パートの待遇改善にも前向きな企業が多いことがわかった。改善の内容は「賃金の改善」と「教育訓練機会の提供・拡充」がいずれも五三%で最も多く、次いで「福利厚生制度の導入や拡充」と「厚生年金制度を適用」が四〇%に達した。
(平成19年9月23日付日本経済新聞朝刊から)

何回めか忘れましたがまた書きますと、改正パート労働正社員(通常の労働者)との差別的取り扱いが禁止されるのは「通常の労働者と同視すべき短時間労働者=職務同一短時間労働者」、具体的には「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度からみてその職務の内容が当該事業所における通常の労働者と同一の短時間労働者であって、当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの間において当該通常の労働者と同様の態様及び頻度での職務の変更が見込まれる者」であって、「仕事の内容や責任が正社員と同等の「正社員並みパート」」ではありません。
それでは「仕事の内容や責任が正社員と同等の正社員並みパート」はどうなのかというと、これが「正社員と職務と一定期間の人材活用の仕組みが同じ」にあたるのであれば「賃金を正社員と同一の方法で決定する」ことが努力義務となります。記事中にある「イオンは正社員と資格制度を統一し」とか「ロフトは来年三月にも賃金と契約期間の両面で正社員とパートの区別をなくす」というのはこれにあたるものと考えられます。ロフトの事例については以前のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20070705)でも紹介しました。

  • このあたりについては、アンケートの設問があいまいだったり、回答者の知識が不十分だったりする可能性があることを念頭においておく必要があるでしょう。同じ家電量販店のベスト電器ヤマダ電機で、正社員並みパートがかたや47%、かたや「いない」というのは明らかに不自然で、これはたとえばベストの回答者は「正社員並み」を幅広く捉えたのに対し、ヤマダの担当者は厳格に「職務同一短時間労働者」にあたる人はいない、と考えて回答した、という可能性が考えられそうです。

なお、記事のいわゆる「一般パート」の賃金については「正社員との均衡を考慮し、職務の内容、成果、意欲、能力、経験等を勘案する」ことが、また、教育訓練については「正社員並み」「一般」問わず「正社員との均衡を考慮し、職務の内容、成果、意欲、能力、経験等に応じてパート労働者の教育訓練を行う」ことが努力義務となります。
記事によると、正社員並みパートについては「企業の半数が賃金制度を改めたり正社員並みの教育制度を取り入れるなどして待遇を改善済み」とのことですから、「賃金制度を改める」ところまで踏み込んでパートタイマーの人事管理を高度化しているのは半数のうちのさらに一部ということでしょう。一段の進展が期待されるところですが、このあたりはパートタイマーがどの程度基幹的な役割を担っているかにもよるでしょうし、あるいは外部労働市場の動向にも左右されるでしょう。
また、一般パートについても「五一%の企業が待遇を改善済みとし、四〇%が同法施行までに改善すると回答」とのことです。内容的には「「賃金の改善」と「教育訓練機会の提供・拡充」がいずれも五三%で最も多く、次いで「福利厚生制度の導入や拡充」と「厚生年金制度を適用」が四〇%に達した」とのことで、「賃金の改善」が単に人員確保のために相場を見ながら時給を上げた(上げる)というだけのことなのか、賃金制度まで見直した(見直す)のかが気になるところです。また、厚生年金の適用を拡大することは非常に好ましいと思われますが、これまた労働条件改善としてのものが多いのか、単に厚生年金加入要件(フルタイムの4分の3以上)に達する人が多くなった結果自動的になったものが多いのか、気になるところです。
いずれにしても、人手不足状況になればなるほど、こうした労働条件や人事管理の改善は進むわけですから、パートタイマーにとっては今が待遇改善のチャンスといえましょう。