失業給付の罠

今朝の日経新聞から。

 東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島で、雇用情勢がなかなか好転しない。厚生労働省が29日発表した10月の職業紹介状況によると、ハローワークでの求職者1人に対する求人の割合を示す「有効求人倍率」は、宮城が0.74倍、福島が0.68倍と前月比で横ばい。岩手県のみ0.65倍と0.06ポイント改善した。
 震災後、被災3県では失業者が急増したが、4月以降は復興特需が始まり求人も伸びた。10月の求人数も10万2000件と震災前の1.5倍だ。
 ところが求人と求職がうまく結びつかない。10月の就職件数は3県で1万3000件にとどまる。…ハローワークに寄せられる求人の多くは宮城県最低賃金(675円)に近い。労働契約もパートなど短時間労働がほとんどで手取り月10万〜11万円。「月12万円ほどの失業保険をもらって職探しを続けた方が得と考える人が多い」と窓口の担当者。
 職種の偏りも深刻だ。宮城県内の産業別新規求人数では建設業が2.5倍と大きな伸び。だが建設の求人票をみると月給こそ16万〜20万円だが、土木作業や4トン車の運転など体力や運転技能を求められる仕事が多い。
 「沿岸部の失業者の多くはできるだけ前の職場、前の職種で働きたいと思っている」と宮城労働局は分析する。厚労省は第3次補正予算で地域産業を復興し、安定雇用を生む事業を計画する。
 被災地雇用の立て直しには、新たな雇用の受け皿とともに、地場産業の復活と一定水準の賃金を支払える経営体力の回復も要る。長期失業者を増やさない知恵と工夫は、時間との戦いになる。
平成23年11月30日付日本経済新聞朝刊から)

「失業給付をフル受給してから再就職」というケースが多いことは以前から指摘されており、それを避けるために再就職手当制度があるほか、古くは給付日数が短縮されたこともありました。
東日本大震災による離職者等については、5月に最大120日(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/koyouhoken08.pdf)、10月にさらに最大90日(http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/koyouhoken10.pdf)と給付日数が延長されてきました。これはもちろん必要な施策だと思われますが、こうした手厚い施策が再就労を抑制するという側面も見え始めたということで、慎重な対応が必要でしょうがそろそろ出口戦略を意識しなければならないというところでしょうか。賃金が失業給付を下回るような求人については、特例的に部分失業給付のようなものも時限的に考えてもいいのかもしれません。
ミスマッチに関しては、土木作業や4トントラックの運転といった技能訓練によって解消をはかるという方法もありそうですが、しかし建設業の求人が伸びているのはおそらくは復旧作業の従事者が必要とされているからと思われます。となるといずれはなくなる仕事なわけで、なかなか長期的に安定した雇用にはなりにくいものと思われます。
ということで、記事にあるように良質な雇用機会が増えることで再就労が促進されることが望ましいわけで、そのためには復興特区を活用して企業による投資を促し、新たな雇用の受け皿を作ることが望まれます。また、地場産業の復活も、旧態に戻すのではなく、より高度化した形、付加価値の高まる形での再興をめざすべきでしょう。
今回の震災で明らかになったように、わが国のサプライチェーンは全国規模で拡がっています。「一定水準の賃金を支払える経営体力の回復」には、被災地あるいは東北のみならず、全国的に経済状況が好転することが必要でしょう。円高対策をはじめ、さまざまな施策が総合的に求められる状況といえましょう。