ILO「実体経済への投資」を求める

26日、27日とパリでG20雇用・労働相会合というのが開かれたとのことです。asahi.comから。

 国際労働機関(ILO)は26日、20カ国・地域(G20)は、政府による政策方針の変更がなければ、来年末までに「大規模な雇用不足」に陥る可能性があると警鐘を鳴らした。
 ILOは報告書のなかで、2008年の金融危機以降、G20全体で2000万件の雇用が失われたと指摘。現在のペースが持続すれば、短期的な雇用の回復は不可能であると同時に、来年末までに新たに2000万件の雇用が喪失するリスクがあるとの見方を示した。
 報告書は、パリで行われている20カ国・地域(G20)雇用労働相会合向けに経済協力開発機構OECD)と協力して作成された。
 ソマビアILO事務局長は声明で「雇用創出はマクロ経済政策の最優先事項とされるべき」と述べた。
 報告書によると、G20諸国の労働者数は2010年以降、1%増加した。しかし、2015年までに金融危機以前の水準に回復するためには、年率で1.3%の伸びが求められている。
 ILOは、世界の景気減速に加え、複数のG20加盟国で経済成長低迷が予想されていることを踏まえ、雇用の伸びが1%を下回る可能性も排除できないとし、「2012年末までに雇用の伸びが0.8%のペースにとどまる可能性が鮮明となるなか、G20全体での雇用不足はさらに2000万件増加し、4000万件に達する恐れがある」とした。
 とりわけ人口大国であるインドと中国の雇用の伸びが遅行していることが指摘された。ただ、両国の数字は、最新のデータに基づいていない。
 他のG20加盟国で雇用が1%を下回る伸びとなっているのは、イタリア、フランス、南アフリカ、米国の4カ国。日本とスペインは、雇用全体の伸びがマイナスになった。
 また、スペイン、南アフリカ、米国は2008年初頭以降、G20諸国で雇用の落ち込みが最大となった。失業率の上昇が最大となっているのも、スペインと米国。
http://www.asahi.com/business/news/reuters/RTR201109260080.html

小宮山大臣ではなく牧副大臣が出席したらしいのですが、これは国会会期中だからということでしょうか?いやしかし先週の財務省中央銀行総裁会合には安住財務相が参加してますね。
たしか会期中の大臣の外遊は野党の同意を要するというのがルールだと思いましたので(少数会派の扱いは知りませんが)、安住大臣は野党が合意したが小宮山大臣はしなかったのか、あるいは同意を得ようとしなかったのか。ざっと探した範囲では今回の他国の参加者はわからなかったのですが、昨年ワシントンDCで開催された際の参加者をみると(http://www.g20.utoronto.ca/2010/g20labpart0421.html、なぜトロント大学?)、まあ副大臣もいなくはありませんがほぼ全員大臣です。そんな場で日本だけ副大臣ということだと、他国から「日本はいいよね失業率も低いし雇用問題なんて大したことないんだよね」と思われかねないのではないかと余計な心配もしたくなるわけです。いや待てよ、大臣が出て行くと危なくて仕方ないから野党は合意せずに副大臣が行くようにした…なんてことはありませんよね安住大臣だって十分危ないわけですしこらこらこら。いや安住大臣は無難にこなされたようでご同慶です。まあ昨年もリンク先のように細川大臣ではなく長島副大臣の出席でしたので、会期中だから大臣の外遊を自主規制したのでしょう。ただまあ、外交儀礼上も大臣が出たほうがいいのではないかとは思うのですが。
さて余談が長くなりましたが、重要なのは「雇用創出はマクロ経済政策の最優先事項とされるべき」であり「政府による政策方針の変更」が必要だ、ということでしょう。ILO駐日事務所のサイトにILOの報道発表の邦訳が掲載されていますが、それによると「雇用成長の鈍化を逆転させ、雇用の喪失分を埋め合わせるには今行動しなくてはならず、ディーセント・ワーク、実体経済への投資を優先させることが絶対的に不可欠であり、そのためには決然とした地球規模の協力が必要」ということで、依然としてよくはわからないのですが、その前のIMFの会合に対する声明には「私たちが今過ごしている決定的に重大な瞬間を、主として金融市場の信頼性の危機と読み違えるのは深刻な間違い」「現下の優先事項は、実体経済への投資をする政策及び措置を導入し、政府、世帯、企業による、借金を財源とした持続不能な金融操作につながった機能不全的政策を逆転させるのに必要不可欠な世界的な金融業界の改革を実行すること」「実体経済への生産的な投資の増大に加え、事務局長は、中小企業の支援、勤労世帯の所得支援」「より実体経済の役に立つ方向に向けた金融部門の改革、社会的に責任ある財政強化の実行」などと述べられています。言わんとしているのは金融危機下で各国政府や企業が投資を抑制しているのは誤りであり、雇用を生む投資を積極的に行うべきであるということなのでしょう。「社会的に責任ある財政強化の実行」というのは、財政健全化も大事なんだけれどそれは支出抑制や大衆課税ではなく富裕層課税によるべきだということでしょうか。「ディーセント・ワーク」や「勤労世帯の所得支援」を連呼するのは、まあILOですから当然ですが、「金融業界の改革」とセットになっているということは大衆減税というよりは配当減らして賃金に回せという話かな。給付付き税額控除みたいなものも含まれているのでしょう。まあ配当も雇用を生む投資に回るのであればそれはそれで悪くはないと思いますが。
これがいいかどうかとかそもそも成り立つのかとか言った議論は国により状況により異なるだろうとは思いますが、いずれにしても雇用を増やすにはまともな経済成長が必要でありそのための政策をやれというたいへん当たり前な話をしていることに違いはないでしょう。