今に始まったことでは

きのうに続いて休暇中のブログ記事からです。はい例によって休暇明けの定番で池田信夫先生のブログから。(「アゴラ」ではない)ご自身のブログの8月19日のエントリで、お題は「個人ブランドの時代」となっていますね。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51735444.html

 きのうのIT復興円卓会議では、今回の震災報道でメディアの果たした役割が話題になった。「マスコミ対ソーシャルメディア」とか「記者クラブ対フリージャーナリスト」などという図式は無意味で、誰が信用できるかという個人ブランドの時代になった、というのが私の意見だったが、佐々木俊尚氏などもおおむね同じ意見だった。

 今のようにマスコミとネットの境界が消滅すると、媒体や肩書きには意味がなく、情報の質は「広瀬隆氏と山下俊一氏のどちらが信用できるか」といった個人の専門性の問題に帰着する。これは佐々木氏のいう「キュレーション」に近いかも知れない。検索エンジンによる機械的な情報選択ではなく「あの人の選んだ情報だから見てみよう」というフィルタリングが価値をもつのである。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51735444.htmlから、以下同じ

同感ではあるのですが、昔から多かれ少なかれそうだったのではないかなと思うところもあります。むしろ、以前のエントリでも何度か書いたと思うのですが、かつてはたとえば「こんなに経済成長して暮らし向きが良くなっているのだから日本の官僚は信頼できる」とか「こんなすばらしい新製品が使えるようになったんだから日本のエンジニアは信用がおける」とかいった信頼、信用が広くあったのに対して、近年ではそれが薄れてきているという変化のほうが重要なような気がしています。振り返ってみても、私自身労働政策にかかわりだした当初は「誰が追試可能な事実と証拠にもとづいて議論する研究者か」を考えていたなあ。

 先日「まぐまぐ」の人が「メルマガの読者数をみると、上位はホリエモンのような個人メルマガで、『週刊**メルマガ』という類の有料メルマガはほとんど読まれない」といっていた。「アゴラ」でも筆者によってアクセスは大きく違い、PVの半分は上位2人で占めている。かつてのように一定の資本がないとメディアが発行できなかった時代には企業名がブランドだったが、個人メディアが可能になった時代には、固有名詞がブランドになるのだ。

いやいやいやいや「情報の質」というものは購読数やページビューで判定すべきものではないでしょう。まあそれも一種の質指標であるとは言えると思いますが、しかし少なくとも「誰が信用できるか」という質は購読数やページビューでは測れなかろうと思います(ホリエモンが信用できないと言いたいわけではない)。実際、池田先生が糾弾される(私もあれはひどいと思いますが)広瀬隆氏の記事だってたくさんの読者がいるわけですよ。週刊新潮(が信用できると断言するつもりはないが)よりは週間ポスト(が信用できないと言い切るつもりもない)のほうが部数が多いだろうなあとも思うなあ。要は信用おけなくたって面白ければ読まれるわけで、「アゴラ」にしたって藤沢数希氏のネタエントリ(これまたすべてがネタと申し上げているわけではない)を楽しく読んでいる人は多いでしょう。いや私だって過去何度も取り上げたように愉快に読ませていただいていますよ。信用してませんけどね。

 これはアップルや任天堂ユニクロのようなオーナー企業が高い付加価値を生み出すようになった傾向とも共通している。情報産業では市場や技術が急速に変化し、専門性が高いので、コンセンサスで動く日本型組織では、そのえスピードに追いつけない。突出した個性をもつ創業者が独断で引っ張ってゆく企業が、高い優位性をもつのだ。
 しかし日本の大企業は、依然として「終身雇用」の建て前を変えず、いろいろな部署を転々とするローテーションによって、世界で通用しない汎用サラリーマンを育成している。このような組織では専門家は育たないし、個人ブランドで競争することもできない。古い企業が没落し、世代交代することによってしか本質的な変化は起こらないのだろう。

これも最初の話と同じことで、これまでもそうだったんじゃないかなあ。スピード勝負の企業もあれば組織力を生かす企業もあるということで。というか、とりあえず今現在の任天堂がオーナー企業ゆえの意思決定の速さで高い付加価値、高い優位性を実現しているといわれてもピンときませんね。で、スピード勝負だと当然失敗のリスクも大きいわけで、うまくいった例だけを持ち出されてもあまり恐れ入る気分にもなりません。いや実際、十数年前にちやほやされていたあの会社とかあの会社とかあの会社とか、今どうなってるんだろう。光通信みたいに企業としては立ち直った会社もありますけどねえ。