すでに流動的

本日の日経「経済教室」に一橋の深尾京司先生が登場され、わが国企業の全要素生産性(TFP)の向上を訴えておられます。労働に触れている部分をご紹介します。

 日本のTFPの伸び率を高めるには何が必要だろうか。
…90年代以降の日本が出遅れた、諸外国に比べ格段に少ない情報通信技術(ICT)投資やベンチャー企業を生み出しにくい金融システムのほか、組織改編や企業内職業訓練など無形資産投資の低迷、パート労働拡大による人的資本蓄積の停滞などの問題を解決する必要がある。
 また、これらの要因の多くは、労働市場の硬直性と密接な関係がある。セーフティーネット(安全網)を拡充する一方で、雇用の流動性を高め、また正規労働とパート労働間の不公正な格差をなくすなど、労働市場の改革を進めることが急務であろう。
 企業規模別に調べると、上場企業など大企業のTFPの伸び率は95年以降、90年以前よりむしろ高くなった。大企業にとってはせいぜい「失われた5年」であった。
 日本の生産性の問題は、多くの中小企業でTFPの伸び率停滞が続いたことにある。…一方、中小企業すべてが、生産性の面で停滞しているわけではない。比較的若い企業や、輸出、研究開発に積極的に取り組む企業は、TFPの水準でも上昇率でも高いパフォーマンスを達成している。
 筆者は最近、…どのような企業が雇用を創出・喪失しているかを分析した。その結果、雇用創出の原動力は、サービス産業を中心とした成長産業における若い独立系企業や外資系企業であることがわかった。
 米国でも同様に、…雇用創出の決定要因として企業の年齢が若いことが重要であるとの結果を得ている。て
 規制緩和などで優良な新規参入企業が成長できるような環境づくりや、マクロ経済政策の適切な運営といった条件が整えば、雇用創出と新陳代謝機能を促進できる可能性は高い。
 前述したように、労働市場流動性を高めることも新規参入企業による有能な人材の確保や、失敗した場合の予想退出コストの引き下げを通じて新たな参入を促すので、若い有望企業を育成するうえで有効であろう。
平成23年7月27日付日本経済新聞朝刊から)

要するに若くて元気な中小企業を増やしましょうということでしょう。それはよくわかるのですが、そのために「労働市場流動性を高める」と言われても、すでにそういった企業においてはわが国もかなりの程度流動的ではないかと思うのですが…。たしかに大企業においてはわが国では労働力が固定化している傾向はある(とはいえ出向・転籍といった形の労働市場を経由しない労働移動はかなり行われていますが)でしょうが、しかし大企業のTFPは上がっているわけですから、そこから人材を動かした結果そちらのTFPが上がらなくなるとそれはそれで困るのではないかと思いますが…。