既報のとおり、ここ数年二桁上げが続いていた最低賃金ですが、今年はどうやら一桁にとどまりそうです。昨日の日経から。
2011年度の最低賃金の引き上げ額が26日決まった。賃上げの目安額は6円で、5年ぶりに10円を下回った。東日本大震災が企業に与える影響に配慮した決定だが、一部都道府県で最低賃金が生活保護水準を下回る問題は解決できなかった。
現在は9都道府県で最低賃金が生活保護の水準を下回っている。生活保護で受け取る給付額が最低賃金よりも高い場合、働かない方が得をする。結果的に生活保護への依存から脱却できなくなると批判されている。
…今年は東日本大震災の影響で経済活動が低迷。電力供給の混乱などで経済成長率が低くとどまる懸念もあり、賃上げは小幅にとどまった。このため生活保護との逆転解消は一部にとどまる見通しだ。
来年以降に逆転解消が進むかは不透明だ。経済が好転すれば再び10円以上最低賃金を引き上げ、差額を埋めることも可能だ。だが生活保護の給付水準も毎年上昇しており「逆転解消は“逃げ水”のようである」(企業側)との指摘もある。
労働経済学者の間では「貧困対策には最低賃金の引き上げではなく、給付付き税額控除の導入など他の政策をとるべきだ」との声も聞かれる。
(平成23年7月27日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)
繰り返し書いておりますが私も就労促進の観点からは最低賃金が生活保護を上回ることが好ましいと思っています。いっぽうで、やはり就労促進という意味では、生活保護を必要以上に上げることは問題だろうと思います。とはいえ、生活保護の水準もその趣旨が満たされるものである必要があることも当然で、やはりすべての都道府県で必ず最低賃金が生活保護を上回らなければならないと考えることに無理があるのでしょう。
「貧困対策には最低賃金の引き上げではなく、給付付き税額控除の導入など他の政策をとるべきだ」というのは同感で、貧困対策として最低賃金を引き上げるのはあまり筋のいい話ではないということはこれまで何度も書いてきましたので繰り返しません。最低賃金引き上げやそれが生活保護を上回ることに過度にとらわれず、給付付き税額控除なども検討すべきでしょう。これもたびたび書いていますが、私は就労促進的な勤労所得税額控除が好ましいと考えています。
記事は具体的な労働経済学者2人の具体的なコメントを掲載しています。
慶大・樋口美雄教授 最低賃金の引き上げ幅は低い水準だが、東日本大震災で非正規社員を中心に雇用が不安定な状況で、やむを得ない。
ただ、今年は震災による特別な年とみるべきだ。昨年の雇用戦略対話で政労使が決めた最低賃金引き上げ目標に来年度以降は戻る必要がある。それには中小企業の生産性を伸ばし競争力をつけるのが大事だ。
一橋大・川口大司准教授 最低賃金の引き上げを小幅にとどめ、被災地は地域の実情で柔軟に決めるという判断は現実的で評価できる。労働市場を踏まえない最低賃金の引き上げは雇用を減らす可能性がある。
たとえば北海道は4年間で654円から704円に50円上がることになるが、これほど急激に上げては主婦らの働く場が失われる可能性がある。
「中小企業の生産性を伸ばし競争力をつけるのが大事」というご指摘はまことにそのとおりで、雇用戦略対話の目標も「名目3%・実質2%の経済成長」が前提となっていたはずです。逆にいえば、それが達成されていない今年は目標に達しないのも致し方ないということでしょう。
川口先生は近時の調査で「最低賃金で働いている人の多くはパートで働く中年の女性」「最低賃金引き上げによって10代男性および既婚中年女性の雇用が失われ、在学中の高校生の就業率が上がる」といったことを見出しておられますので、それをふまえたコメントをされていますね。