労働政策研究会議(続3)

さて昨日の続きで午後のパネルの感想を書いていきたいと思います。3番目に登場されたのはJILPTの堀有喜衣先生で、先生ご自身も参加されたJILPTの調査結果をもとに、前の2先生から一転して高卒者の就職指導について報告されました。
まず、従来一般的とされてきた「推薦指定校制」や「一人一社制」など、一定の成績や出勤率を学校推薦の条件として企業に対して人材の質保証を行い、かつ校内選考を実施して就職先を拘束し内定辞退をさせないことで、企業と学校の継続的な関係を構築する「伝統型就職指導」のモデルは雇用情勢が良好で一定数以上の求人が存在する場合のみ成立すると指摘し、進路指導のタイプをこれのほか「半伝統型」「半自由型」「自由型」に類型化しています。
「伝統型」は、求人開拓・地元企業との交流に積極的で、良好な就職先への第一次内定率向上を目標としていますが、これは全体の21.5%を占めるにとどまります。「半伝統型」は質保証はするものの校内選考はしないタイプで、進学志向が高く、良好な就職先から生徒に紹介する傾向があり、全体の28.6%を占めます。「半自由型」は質保証はしないが校内選考は行っているというパターンで、求人開拓に熱心で第一次内定率を上げることを目指してはいるものの就職先の良好さにはさほどこだわらないという傾向があり、全体の20.5%を占めるとされます。「自由型」は質保証も校内選考もしないというパターンで、進学志向が高いため就職には積極的には介入しない傾向があり、これが全体の29.4%となっています。
その上で、工業系・総合学科に「伝統型」が多く普通科で「自由型」が多いこと、就職人数が多い高校ほど「伝統型」になりやすいこと、製造業比率が高いと「伝統型」になりやすく低いと「自由型」になりやすいこと、県外就職比率が高いと「自由型」になりやすく低いと「伝統型」になりやすいことなどが示されています。
こうした結果をふまえて、従来の伝統的な就職指導を前提とした政策は修正が必要であり、就職者が少ない学校においてハローワークなどが就職指導に関与すること、雇用情勢の悪い地域におけるハローワークなどの一段の取り組みが求められるとのインプリケーションが提示されます。
報告内容は私にはたいへん興味深く面白いもので楽しく勉強させていただきました。また、たしかに求人がほとんど来ないような、就職希望者が例外的な進学校では就職指導がほとんどされていない可能性があり、まあ通常なら事実上高いレベルの質保証がされているのでそれでもそれなりの就職が可能なのでしょうが、雇用情勢が厳しい状況下ではハローワークが関与したほうがいいというのももっともだと思います。一方、雇用情勢の悪い地域に関しては第一のインプリケーションは雇用情勢の改善でしょうという感想は持ちました。例によって適切なマクロ経済政策・金融政策に、この場合は地域の産業振興と、労働政策としては広域移動支援でしょうか。もちろん、ハローワークにがんばってもらうことも大事でしょうが。
最後は明治学院の両角道代先生が、労働法ではなく、スウェーデンの若年雇用政策を紹介されました。その時はそういえば今日は労働法関係の報告を聞かなかったなあと思い、まあ午前中は大竹先生のセッションにずっといたしなあなどと思っていたのですが、ふと気になっていま改めて見てみたら京大の小畑史子先生のセッションも含めて労働法学の報告は全体でも一つもありませんでした。菅野和夫先生や諏訪康雄先生のお姿も見えましたし、労働法学界がこの学会に関心が低いということではないと思うのですが…。
さてそれはそれとして、スウェーデンの15-24歳の失業率は2011年4月で25.4%、20-24歳の若年の14%が教育も受けず就労もしていないとのことで、両角先生も率直に認めていましたが現時点では若年雇用対策は失敗しています。それを克服するための取り組みが紹介されたわけです。
具体的には高等職業教育(YH)のご紹介が中心で、スウェーデンでは大学に進学しない場合は中等学校(日本の高校に相当)で職業訓練を受けるものの、良好な就職に結びついていないということで、労働市場のニーズに応える高等職業教育を提供するYHが構想されました。大学や高専自治体、個人、法人など多様な主体が教育コーディネーターとなって理論教育と実地教育を組み合わせたプログラムを実行し、全体の少なくとも4分の1以上が要請されている実地教育については、企業・職場とコーディネータが連携して行うとされています。まあ日本でいえば要は年3ヶ月のインターンシップ付の専門学校というところでしょうか。内容は「経済・経営・営業」と「技術・製造」が各3割、ほか「看護・介護等」「コンピュータ・IT」が多いとのことです。費用はスウェーデンですから当然無償、国からの補助金と実地教育の一部は企業負担で賄われます。
その効果はというと、2009年修了者で1年後に就労していた人が8割、失業していた人が1割ということですから、失業率が20%優に20%を超えていることを考えればそれなりに成果はあったということなのでしょう。2002年にスタートした(試行は1996年)制度ということですから、評価にはもう少し時間をかけたほうがいいのかもしれません。
さて私の感想としては職業的レリバンス厨の方々が喜びそうなこらこらこら。いやこれは日本では企業がだいたい同じことをしてますよねというもので、もちろん理論と実地の割合は大幅に違いますが、ポイントは新卒者の訓練を誰がやっているかでしょう。日本では企業がコスト負担して(賃金まで支払って)やっているわけですが、企業が人材育成をしない国では政府がそれをやることになるのですね。あと若年失業率が3割に迫れば政府もカネを使わざるを得なくなるのは当然だとも思いますねえ。全体としてのパフォーマンスの格差を考えれば、少なくとも日本が全面的にスウェーデン方式に移行するのはやめておいたほうがよろしかろうと思います。もちろんYHのような長期インターンシップ付専門学校を作ったらどうかとか、いっそ既存大学でもそういう教育をしたらどうかとか、個別の議論の材料にはなると思いますが。
その後は会場も含めた質疑・ディスカッションとなり、面白かったのは神代和欣先生が来ておられ、堀先生の報告について「伝統的」職業指導というが昭和30年代から50年代にはまた異なるスタイルがあってわが国の「伝統的」職業指導というのはそちらではないかと発言されて大変興味深いお話だったのですが、それに対して堀先生が貴重なご指摘ですがでも私たちの年代にはこれが伝統的なんです(大意)と回答されたので会場は爆笑となりました。いや年齢のことをあまり申し上げるのは野暮というものでしょうが。
それから、議論の中で法政の佐藤厚先生が「企業が白い布採用をすることが若年雇用問題の元凶」という趣旨の発言をされ、私としても申し上げたいことがなかったわけではないのですがその場はスルーしました。これについては終了後のレセプションの席上で複数の先生方から「なぜ反論しないのか」と聞かれてしまいましたが、いや私もう人事担当者じゃありませんしというのもありますし、それもあって専門家の集まる学会の大会、それもパネルの席上であまりうかつな発言をして学会の品位を下げるのはまずかろうと考えました*1
ということで終了後のレセプションにも参加し、参加の各位に新しい名刺を配るというもうひとつの重要目的も達成して帰ってきたのでありました。

*1:実際ご指摘のように企業の採用態度が若年雇用に影響している部分もあるわけですし。まあ過大評価されているとは思いましたが、これについては佐藤先生もレセプションの席上では「あれは議論を起こすために極論に振った」と言っておられました。だったら釣られるべきだったのかもしれません。