高年齢者雇用研究会報告書案

先日「たたき台」をご紹介した(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110511http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110512http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110513厚労省の高年齢者雇用研究会報告ですが、フルテキストの報告書案が厚労省のサイトに掲載されていました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001eu2c-att/2r9852000001eu3t.pdf
まあ基本的には「たたき台」に肉付けした内容なのですが、たたき台にはなかった内容も加えられていて、そのひとつが前回(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110512)「書いてないけれど重要なこと」として言及した若年雇用への影響に関する記載です。該当部分を転載します。

 新卒労働市場において厳しい状況が続く中、また、企業における人件費が限られている中で、高年齢者雇用を進めることにより若年者の雇用機会が減少するなど、若年者雇用と高年齢者雇用の代替性を指摘する意見がある。
 企業に対するヒアリングでは、専門的技能・経験を有する高年齢者と基本的に経験を有しない若年者とでは労働力として質的に異なるという意見や、新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく、景気の変動による事業の拡大・縮小等の見通しにより決定しているといった意見があった。
 若年者の失業問題に対処するために、例えばドイツでは年金の繰上支給や高年齢者の失業給付の受給要件の緩和が行われ、フランスでは年金支給開始年齢の引下げが行われるなど、高年齢者の早期引退促進政策が推進されたが、結局若年者の失業の解消には効果は見られず、かえって社会的コストの増大につながったとの認識が示されていることなどから、必ずしも高年齢者の早期退職を促せば若年者の雇用の増加につながるというものではない。
 また、労働力人口の減少が見込まれている中、将来的には、特に若年者の労働力供給が減少し、必要な人材の確保が難しくなると見込まれることから、長期的な視野をもち、年齢にかかわりなく意欲と能力のある労働者を適切に活用することが重要な課題となっている。
 いずれにしても、新卒労働市場では、未就職卒業者が発生している一方で、大企業と比較して求人充足割合が低く、若年者の確保に苦慮している中小企業もあることから、若年者の雇用問題の解決のためには、求人と求職のミスマッチの解消を更に促進していく必要がある。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001eu2c-att/2r9852000001eu3t.pdf

いやこれは若い人は本当に怒ったほうがいいと思います
もちろん若年者もいずれは高年齢者になるわけですし、年金と雇用の接続は必要なことですし、年金支給開始年齢までの定年延長は重要な課題だろうと思います。高年齢者が就労せずに福祉の対象となってしまうとそれは結局若年者を含む現役の負担を増やすことも間違いないでしょう。
いっぽうで、最初にこう書いてあるように、

 新卒労働市場において厳しい状況が続く中、また、企業における人件費が限られている中で、高年齢者雇用を進めることにより若年者の雇用機会が減少するなど、若年者雇用と高年齢者雇用の代替性を指摘する意見がある。

今現在、若年雇用の足元の状況が非常に厳しい中で、高年齢者の雇用増を行ったらどうなるか、を心配している人がたくさんいるわけです。これに対して、

 企業に対するヒアリングでは、専門的技能・経験を有する高年齢者と基本的に経験を有しない若年者とでは労働力として質的に異なるという意見や、新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく、景気の変動による事業の拡大・縮小等の見通しにより決定しているといった意見があった。

後半の「新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく、景気の変動による事業の拡大・縮小等の見通しにより決定している」というのは、まあそのとおりだろうと思います。年齢層のバランス(労務構成)に配慮して採用数を決めたいのはやまやまなのですが、現実には景気変動に対して人員規模を適正化する手段のひとつとして新卒採用数を増減させているのが実情でしょう。で、そういう採用をしている企業が多いとすれば、いま現在の「新卒労働市場において厳しい状況が続く中」、高年齢者の雇用を減らさない施策が新卒をはじめとする若年雇用にどんな影響を及ぼすかは明白だと思うのですが。
前半の「専門的技能・経験を有する高年齢者と基本的に経験を有しない若年者とでは労働力として質的に異なる」というのはそれはそれでそのとおりとしか申し上げようがないわけですが、しかしだから高年齢者の雇用減を止めても若年雇用に影響はありませんという意見はどのくらいあったんですか。あと、今回の報告書案のような施策をとった場合に温存される高年齢者雇用は、おそらくは「専門的技能・経験」が相対的に少く、「基本的に経験を有しない若年者」とはこの点では質的な相違が比較的小さいと思われることにも留意が必要でしょう。

 若年者の失業問題に対処するために、例えばドイツでは年金の繰上支給や高年齢者の失業給付の受給要件の緩和が行われ、フランスでは年金支給開始年齢の引下げが行われるなど、高年齢者の早期引退促進政策が推進されたが、結局若年者の失業の解消には効果は見られず、かえって社会的コストの増大につながったとの認識が示されていることなどから、必ずしも高年齢者の早期退職を促せば若年者の雇用の増加につながるというものではない。

「必ずしも高年齢者の早期退職を促せば若年者の雇用の増加につながるというものではない。」というのはまったくそのとおりだと思うのですが、なぜここでこれに言及したのか不明です。これでは「高年齢者の雇用延長を拡大しても若年者の雇用は減少しない」ということの説明にはなっていないと思うのですが違うのでしょうか。なんとなくそういう印象を与えるかもしれないとは思いますが。

 また、労働力人口の減少が見込まれている中、将来的には、特に若年者の労働力供給が減少し、必要な人材の確保が難しくなると見込まれることから、長期的な視野をもち、年齢にかかわりなく意欲と能力のある労働者を適切に活用することが重要な課題となっている。

年金がもらえるからそろそろ引退しようか、という話はあるでしょうが、それを除けば現在でも本当に意欲と能力のある労働者が年齢にかかわりなく適切に活用されていないのかということには疑問もあるのですが、それはそれとして、長期の課題として高年齢者雇用の一層の拡大が重要なことに異論はありません(その方法論として企業がすべて適職を提供せよと言われると反論はありますが)。ただ、ここで問題になっているのは何度も書きますが冒頭にあるように「新卒労働市場において厳しい状況が続く中」という足元の話なんですから。高年齢者雇用の拡大が長期的な視野で重要だから今現在の若年は泣いてちょうだいねというのは若年にあまりではありませんか。

 いずれにしても、新卒労働市場では、未就職卒業者が発生している一方で、大企業と比較して求人充足割合が低く、若年者の確保に苦慮している中小企業もあることから、若年者の雇用問題の解決のためには、求人と求職のミスマッチの解消を更に促進していく必要がある。

いや非常にわかりにくいのですが、要するに結論としては足元では高年齢者雇用の減少を抑制すれば若年雇用が減少するということなんですねこれ。だったらそうはっきり書けばいいと思うのですが。だから、「若年者の雇用問題の解決のためには、求人と求職のミスマッチの解消を更に促進していく必要がある」というわけで。しかし、高年齢者に対しては希望すれば全員がいま働いている企業で働けるようにするけど、若年は選ばなければ仕事はあるんだから文句をいわずにある仕事で働けというのはあまりに不公平ですし、率直に申し上げて職業安定局長の研究会の報告書としてはまことに淋しい記述ではないでしょうか。
まあ高年齢者雇用専門の研究会だから致し方ないことなのかなあ。パブコメとかあるのかどうか知りませんが、若年は怒っておいたほうがよさそうな気がします。