それぞれの意見(続)

一日開いてしまいましたが、東京海上日動社長の隅修三氏のインタビュー記事を取り上げてみたいと思います。まずは記事を再掲します。

 ――就職活動の長期化が問題になっている。
 「日本企業は採用期間を長くしたり短くしたり、規約を作ったり自由にしたりを繰り返してきた。学業に専念できなくなっているから問題だという議論だが、短くしたから解決するという次元の話ではない」
 「むしろ問題は職業観や生き方を十分に考えず、とにかく内定を取って就職先を決めようという学生が大勢いる点だ。企業も新卒一括採用の流れの中、人材を確保するため、相手をよくわからないまま採用せざるを得ないのが現状。この結果、平均的には新卒者が入社3年で3割も辞めるという事態に陥っている」
 ――解決策は。
 「日本経団連の倫理憲章で定める枠を外して、海外のように長期間のインターンシップ(就業体験)を採用活動に活用してはどうか。就職を希望する職場で働くことを通じ、仕事や企業が見えてくる。企業も相手への理解を深め、これはと思えば採用すればいい。お互いを知ることで、齟齬(そご)は減るはずだ」
 「日本企業はグローバル化せざるを得ない。採用も国内と海外でやり方を分けてきたが、人事交流が深まるにつれ整合性が取りにくくなっている。海外人材の秋季採用にはすでに取り組んでいるが、今後は通年採用や能力別といった柔軟な採用活動が加速する」…
平成23年5月12日付日本経済新聞朝刊から)

もちろん、インターンシップやトライアル雇用の積極的な活用は大事だと思います。なにもそんな難しいことを言わなくても、アルバイト先で気に入り・入られてそのまま就職しちゃいましたなんて話は古くからよくあるわけですし。このブログでも時折紹介しているものつくり大学のように、2〜3年次で約2ヶ月、4年次では就職も念頭に4ヶ月のインターンシップを実施して成果を上げている例もあります。ものつくり大学は大学卒としては異例の現業系職種の育成をめざしており、一昨日のエントリとも関連しますが「大卒なのだから大企業ホワイトカラー」というこだわりがない事例でもあります(就職実績をみると、大企業への高度技能者候補としての就職はそれなりにあるようですが)。
ただ、どこまで期待できるかというと限界はあるだろうなとも思うわけで、隅氏は「相手をよくわからないまま採用せざるを得ないのが現状。この結果、平均的には新卒者が入社3年で3割も辞めるという事態に陥っている」というわけですが、たとえばhttp://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h21honpenhtml/html/b1_sho2_2.htmlなどをみると、バブル期の大卒の定着は明らかに良好で、この時期はもっと「相手をよくわからないまま採用」していたような記憶もあります。つまり、就職戦線が厳しくて不本意な就職をする人が増えたことが定着の悪化につながっているように思われるわけです。
となると、失業情勢が悪くて就職が厳しい時期には良好な求人が不十分で、トライアル就労しても不本意な求人ばかりで結局は不本意就職になって定着が十分改善しない、あるいは失業が増えるといったことになりかねず、もちろんそれなりに効果はあるでしょうが、過度な期待はできないのではないでしょうか。
というか、新卒就職先にフィットせずに退職し、再就職してまたフィットせずに…といった若年者の適職探しのプロセスというのは一般的にみられるわけで、これも同様に好況で雇用失業情勢が良好であれば第二新卒市場などに良好な求人が多数存在し、そこへの定着が進みやすくなるでしょう…ということはこれまで何度も書いたと思います。
ただ、「日本経団連の倫理憲章で定める枠を外して、海外のように長期間のインターンシップ(就業体験)を採用活動に活用してはどうか」というご提案ですが、現にものつくり大学のような例もあるわけで、なにも倫理憲章で定める「4月以降」の枠を外さなくても十分にできるでしょう。さすがに3年生のうちから採用選考として1年間のインターンシップとかやられた日には大学もたまらないだろうと思うわけで。いやそれでいいという大学はそれでもいいのかとも思いますが、しかし常識的な時期や期間というものもあるかなと思います。しかし就職人気ベストテン常連の東京海上日動さんは、3年から1年間のインターンシップで働いてもらって採用を決めようとお考えなのでしょうかね。
「通年採用や能力別といった柔軟な採用活動が加速する」というのは注目の発言で、通年採用はともかく「能力別採用」というのはどういうイメージなのでしょうか。まあ職種別採用を記者が書き間違っただけという気もしますが、高能力採用と中能力採用といったコース別採用をお考えなのであれば興味深いアイデアだと思います。教養教育大学→高能力ファストトラックコース、職業的レリバンス大学→中能力スローキャリアコースという流れができていく可能性があるからです。まあ日本人の価値観にはなかなかなじみにくいのかなとも思いますが、ワークライフバランスとかQOLを考えればありうる考え方かもしれないと思うからです。