いかがなものか

読売新聞社の会員制ウェブサイト「ヨリモ」に、「いやはや語辞典」というリレーエッセイが掲載されています。「気になる言葉、嫌な使われ方をされる言葉、抵抗を覚える言葉……そんな言葉を通じて、「言葉の専門家たち」が今の日本人の意識も探ります」ということですが、そこに大竹文雄先生が登場しておられます。先生の「いやはや語」は「いかがなものか」。
会員制サイトですが、まあ無料ですし、短いものなので全文転載してしまいます。面白いと思われたならばぜひ会員登録をどうぞ。「いやはや語辞典」にも「仕分け」橋爪大三郎、「こじゃれた」栗木京子、「民意」諸田玲子などなど面白そうなコンテンツが並んでいます(以上敬称略)。読売の回し者かおまえは。

 相手の行動を批判する際に多用されるのが「いかがなものか」という言葉である。「このような態度をとるのはいかがなものか」、「その考えはいかがなものか」、「あのような発言はいかがなものか」、といった形で使われる。特に、政治家の発言や新聞やテレビで使われることが多い。
 「いかがなものか」が便利なのは、批判している相手の行動がなぜ問題なのか、どのようなところが悪いのかといった具体的な理由を示さなくても批判することができることである。また、疑問の形にしているので、反論された際に、自分は相手が悪いと断定しているわけではなく、「どうなんでしょう」と聞いているだけだ、という逃げ道もある。
 本来なら、「このような態度をとるのは問題だ。なぜなら……だからだ」という形で表現すべきことを、「いかがなものか」という形で、私は相手に反対する、あるいは、相手の行動が気に入らない、という態度だけを婉曲(えんきょく)に表現しているのである。
 政治家は、揚げ足をとられないようにできるだけあいまいな言葉を使いたいのはよく分かる。たとえ話を使ってわかりやすく話す政治家は、ときどき失言事件を引き起こす。悪意のある聞き手から話の一部を切り取られてしまうからだ。
 しかし、この表現のメリットである「批判する理由を明示しなくても使える」という点は、私たちが論理的にものを考えたり表現したりする必要性を減らしているのではないだろうか。気に入らないことは全て「いかがなものか」という表現でおしまいだ。特に、世論形成に大きな影響をもつマスコミがこの言葉を使うのはいかがなものか。
https://yorimo.yomiuri.co.jp/csa/Yrm0401_P/1221734592513

うーん、なかなか耳の痛いご指摘だなあと思うわけで、左上の検索窓に「いかがなものか」と入れて検索していただくと多数ヒットすることがおわかりいただけるかと思います(笑)。どうやら70エントリ以上で使っていて、引用部分とか論旨と関係ない部分(「同じネタを引っ張るのはいかがなものかと思うのですが」http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110117とかね)での出現を除いても60エントリくらいで使っていそうです。まあ全部で2000エントリくらいは書いていると思うので出現率としては3%程度で、愛用しているという感じではありませんが。
ただ、たしかに使い方としてはご指摘のとおり、理由を明示せずに批判している例が多々みられまして、たとえば

…もちろん、中には情報機器操作ということで派遣された人に5年間テレホンセールスやらせてますとか言ったとんでもないケースも多々あるようですし、サービス残業自体は由々しき法違反なので厳しく取り締まっていただかなければならないと思いますが、だからといって問題ないものまで取り締まるというのはいかがなものかと思います。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110415#p1

なんかは「なんでいかがなものかなんだよ」というツッコミはありうるでしょう。いやまあ説明しなくてもわかってもらえますよねという気持ちではあるのですが、たしかに明示的な理由までは示していない。「正直申し上げて大学の教員が「学生がバカ」と言い放つのもいかがなものかと思うわけですが」(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110113#p1)も「いけませんか?」と言われてもおかしくないですね。
まあ、一応それなりに「いかがなものか」の理由が説明されているエントリもあることはあります。

…雇用戦略対話の「早期に800円、2020年に1,000円」という合意の金額部分だけを強調するのはいかがなものかという感はあり、やはり「名目3%・実質2%の経済成長」についても一定のウェートがおかれてしかるべきではないかという印象はあります。経済成長、生産性向上*1の裏付けのない最賃引き上げは、まあ再分配機能の強化という側面はあるにしても、失業増などの副作用もあるわけですから。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20101015#p1

…これまで散々「大学教育には職業的意義が欠如している」と言っておきながら、企業に向かっては「適切に評価される…点があまりにも希薄」と苦情を述べるというのもいかがなものかと思いますが(笑)。企業としても欠如しているものを評価しろと言われても困るだろうと思うわけで…。まあそれはそれとして、これはたしかにニワトリと卵みたいな話ではあり、企業が評価しないから大学もやらないのだ、という関係もたぶんあるのでしょう。で、それは考えようによってはすでに「適切に評価」されているからそうなっているとも言えるわけです。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100915#p1

あるいは、ちゃんと「理由はないけどなんとなくそう思うんだよね」ということを明示しているエントリもありました。

…行政機関である検察庁が裁判例や学界の有力説を超えた運用を行うのはいかがなものかという感もありますが、どんなものなのでしょうか。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20101014#p1

うーん、しかし先生ご指摘のような理由明示なしになんとなく使ってるケースがやっぱり多いかなあ。今後気をつけます。