一律規制の非(2)

一昨日の続きで、中部産政研の機関誌「産政研フォーラム」に掲載された小嶌典明先生の論考をご紹介していきたいと思います。次は派遣労働が取り上げられます。
http://www.sanseiken.or.jp/forum/89-tokusyuu1.html

…図2をみると、最近における不可解ともいえる派遣社員数の動きが浮かび上がってくる。端的にいえば、2010年のデータ(特に女性)は、通常の景気動向によっては説明がつかないという問題である。
非正規雇用者(男女計)全体でみると、2009年には2002年以降初めて、その数が減少を余儀なくされた(2008年の1644万人が1610万人に減少)とはいうものの、2010年には、ほぼ2008年の水準を回復する(1643万人に増加)に至っている。
 特に女性については、2009年には対前年比でわずかな減少をみた(2008年の1148万人から1142万人へと6万人減少)ものの、2010年には過去最高を記録(2008年を14万人上回る1162万人となる)しており、こうしたなか、なぜ派遣社員数だけが減り続けたのかが疑問として残る。
 専門26業務派遣適正化プラン(2010年2月公表、同年3〜4月に指導監督が集中的に行われる)に始まる、行政指導の厳格化。その背景として考えられるものといえば、こうした26業務をめぐる行政の動き以外にはない。
 事務用機器操作の業務(5号業務)の場合、従前は「1分間60ワード以上を操作できる程度の能力を必要とする」業務であれば該当するとされていた(このことは、労働者派遣契約書等の記載例として通達でも示されていた)ものが、「専門26業務に関する疑義応答集」(2010年5月30日公表)に至って、「単に迅速なだけや、単純に数値や文字をキー入力するだけの業務の場合は、第5号業務には該当しない」ことが唐突に宣言される。
 また、この「疑義応答集」によれば、お茶くみはもとより、26業務の実施に必要なものでないかぎり、電話応対もダメ(派遣社員による自発的な電話応対であっても、派遣先が黙認していれば不可)ということになった。「電話1本とれば、(派遣受入れ期間に制限のある)自由化業務」。そんな監督指導さえ、実際にあったのである。
 したがって、このような常軌を逸した行政指導の下では、派遣を受け入れるオフィスが激減したとしても、まったくおかしくはない。女性の派遣社員数がピーク時に比べ24万人も減少した(2008年の85万人が2010年には61万人まで減少)理由は、もっぱらここにある。こういっても、誤りではないのである。

適正化プランがいかに派遣の労働市場を混乱させたか、ということがよくわかる話で、まあそれでも失業が増えても間接雇用が減ることのほうが大事だ、という人もいるんでしょうか。
さて、たしかに小嶌先生も言われるように適正化プランには大いに問題があると私も思いますが、それはそれとして、私がここで大いに申し上げたいのは、行政の「電話1本とれば、自由化業務」という指導姿勢です。
いやたしかに「電話を取る前にはそれが26業務に必要かどうかはわからない」という理屈はわからないではありませんが(ヘリクツだとは思いますが)、とにかくルールとしては、26業務の実施に必要なものであれば電話をとってもなんら問題はないはずです。ところが、現実には26業務に必要・不要を問わずに「電話はすべてダメ」という一律な指導が行われる。これは要するに、指導の目的がとにかく「不適切なものを一切なくす」ということになってしまっているわけで、「電話一本とれば自由化業務」という指導をすれば、たしかに26業務の実施に必要ない電話をしたケースは洩れなくブラック判定できるわけですね。で、そのためにはあまたのホワイトがブラックになってしまうわけですが、たしかに役所も大臣もそれで困るわけではありません。役人は何例「適正化」したかで評価されるので(はないかと思うのですが)かえってうれしいなんてことは、まあないと信じたいと思いますが、いずれにしても困るのは職場と本人です。まあ役所も大臣もそんなの知らないよということなのでしょうか。似たような話はあちこちにあって、たとえばサービス残業の是正などでは、タイムカードを押して、休憩時間を除いた時間を一分単位ですべて労働時間としてカウントしなさいなどといった指導がされたという話も驚くほど珍しい話ではないわけで、これまた不払いは法違反ですが過払いは(少なくとも厚生労働省が取り締まるべき)法違反ではないということでそういう指導になるのでしょう。
もちろん、中には情報機器操作ということで派遣された人に5年間テレホンセールスやらせてますとか言ったとんでもないケースも多々あるようですし、サービス残業自体は由々しき法違反なので厳しく取り締まっていただかなければならないと思いますが、だからといって問題ないものまで取り締まるというのはいかがなものかと思います。