それって?

毎週月曜日の日経新聞朝刊に掲載されている「法務」のコーナーで、労働法制が取り上げられています。「人を生かす法律 震災後の時代に」とのタイトルで(上)とありますので、あと1回か2回は続くのでしょう。本日「上」のお題は「若者の正社員化、春の兆し」となっていて、紹介予定派遣で正社員採用された事例や、就労条件に関する裁判でアルバイトの主張が認められた事例などを紹介し「正社員の採用拡大や法解釈の厳格化が進み、若者を取り巻く雇用環境は改善しつつある」と結論づけています。いささか楽観的な感はありますが、次に続く「ただ、非正規雇用だけが問題ではなく、正規雇用になっても問題が残る場合がある。震災はそうした問題を助長してしまうとの指摘もある」とのフレーズが意味不明です。
記事は続けてダイキン工業事件をひいていて、

 ダイキン工業を雇い止めされた元有期雇用社員4人が昨年9月、従業員の地位確認を求めて大阪地裁に提訴した。ダイキンは大阪労働局の指導で、請負契約で就労していた約500人を直接雇用に切り替えていたが、原告らを期間満了で雇い止めしたためだ。
 原告らは直接雇用までの6〜18年間、請負契約で就労していたが、直接雇用の契約期間は最長2年6カ月間。原告側は請負契約と同様に直接雇用についても雇用契約を継続するよう求めるが、ダイキン側は期間満了による契約終了は適法との立場だ。
 労働基準法は、事業完了に必要な期間を定めるものを除き、労働契約は3年間を超えてはならないと規定する。法律上は最長2年6カ月間の労働契約は適法といえるが、原告らは直接雇用される代わりに長年の仕事を失った。
平成23年4月18日付日本経済新聞朝刊から)

これを受けて、こう述べています。

 製造現場の派遣社員は就労期間が原則1年間を過ぎると、法律上、企業に直接雇用の申し込み義務が発生する。このため、製造業では派遣社員の活用を避け、有期雇用社員を増やす傾向がある。製造業では非正規雇用よりも正規雇用の方が雇用が安定しない逆転現象が起きている。

これってひょっとして直接雇用・間接雇用と正規雇用非正規雇用とを混同してるんじゃありませんか。「製造業では間接雇用であり非正規雇用である請負労働より有期労働契約の直接雇用の方が雇用が安定しない逆転現象が起きている」なら、たしかにダイキン工業はそういう事例ですが…。その前の製造派遣の話も、派遣元の正社員である派遣社員に比べれば、有期契約の直接雇用のほうが不安定だということなら意味は通じます。前段の「非正規雇用だけが問題ではなく、正規雇用になっても問題が残る場合がある」についても、「間接雇用だけが問題ではなく、直接雇用になっても問題が残る場合がある」と読み替えればまだしも意味は通じます(依然としていささか妙な感じは残りますが)。
そもそも記事中に正規雇用に問題が起きていることを具体的に記述した内容はなく、間接雇用から直接雇用に変わって職を失ったダイキン工業の例が示されているのですから、やはり混同しているのではないかと。まさかそんなことは…と思うのですが、ほかにどう読めば意味が通じるのか、どなたかご教示いただければ幸甚です。いや混同しているにせよしていないにせよこんなわかりにくい記事デスクがなんとかしてよと申し上げたいところでもあり、ありていに申し上げていささかお粗末ではないでしょうか。
なおダイキン工業事件について、

 原告代理人の村田浩治弁護士はいう。「ダイキンに直接雇用を命じた大阪労働局の是正指導は原告らの雇用を安定させるという趣旨だった。長年の請負契約を有期雇用に切り替え、期間満了で雇い止めした経営判断は是正指導の趣旨に反する」

という原告代理人のコメントが紹介されていますが、これは違うと思います。いや裏をとったわけではないのでまったくの推測ではあるのですが、大阪労働局の指導はいわゆる「偽装請負」という違法状態の解消を目的としたもので(指揮命令したいなら直接雇用しなさい)あったと思われ、「雇用を安定させる」ことは直接的な目的ではなかったと思われます。いや原告の中には請負会社の正社員だった人もいたはずで(これもあらためて裏を取ってはいないので自信なし)、そういう人にとっては有期契約での直接雇用化がむしろ雇用を不安定にすることは、それこそ大阪労働局の職員であればわからないはずはないわけで。もちろんこれも取材した側の問題である可能性もありますが。