「専門26業務」なんて粗雑な言い方

10月1日のエントリに関してhamachan先生からお呼びがかかったようです。私にしては反応が早いわけですがこれは通報してくれた方がいらっしゃったからで、なにを通報してくれたかというとこういうことなんですね。

 これを別の観点から論じているのが、ご存じ労務屋さんです。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20101001#p1(労働政策を考える(19)専門26業務適正化プラン)

 えー、まずそもそも「専門26業務」なんて粗雑な言い方をするところからして、素人が書いたとしか思えない行政文書であるわけですが、そういう労働法オタク的突っ込みではなくて、…
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-3281.html

通報者の方はこれを見て「hamachan先生が労務屋を素人扱いしてますよ」という意味のことをだいぶ異なる表現で親切にもご教示くださったわけですが、ちゃんと読んでくださいよこれ行政文書って書いてあるじゃないですか。実際適正化プランが始まったときのプレスリリース(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000048f3.html)でも「専門26業種」が連呼されているわけで、他にどう書けばいいんですか私。ということで、hamachan先生の苦言はこの「行政文書」を起草した職安局の担当者に向けられているのでぜひともそのようにお願いします>通報者の方。もっとも、hamachan先生の苦言もやや厳しすぎる感もなくはなく、このリリースが出る前から業界用語としては「専門26業務」が定着していたわけで、役所としてもまあ国民にわかりやすいという観点からは定着した用語を使わざるを得なかったのではないかということで同情の余地は大きいようにも思われます。だからhamachan先生も「労働法オタク的」と書いておられるわけでしょう。なお今般の正式名称「期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応」については実務の世界ではさらに短縮して「26業務適正化」とか「適正化プラン」と呼ばれることが多いようですのでご参考まで。ちなみに私も原稿では厚生労働省の正式略称(?)「専門26業務派遣適正化プラン」の「派遣」を省略しました。書いてみるとわかりますがこの略称を使うと「派遣」が頻出してけっこう煩わしかったので。
さてそれはそれとして、「専門26業務」がなぜ粗雑かということにご関心の向きもあるかもしれませんので、ご紹介したいと思います。
そもそもこの「専門26業務」というのがなにかというと、前出のリリースにも「労働者派遣法施行令第4条に掲げる専門26業務等を除き、派遣可能期間(原則1年、最長3年)の制限を超えて継続して提供を受けることはできない。」とあるように、派遣法施行令第4条にあります。それをみると、「法第四十条の二第一項第一号の政令で定める業務は、次のとおりとする。」とされていて、そこに26業務が列挙されているわけです。
そこでその「法第四十条の二第一項第一号」はといえば、こうなっています。

第四十条の二  派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(次に掲げる業務を除く。第三項において同じ。)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。
一  次のイ又はロに該当する業務であつて、当該業務に係る労働者派遣が労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわないと認められるものとして政令で定める業務
イ その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務
ロ その業務に従事する労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務

ということで、施行令4条にあげられた26業務には、「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」だけではなく「就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務」も含まれているわけです。しかるに、「専門26業務」という用語は、あたかも26の業務のすべてが前者の「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」であるかのような印象を与えるではないか、というのがhamachan先生の苦言であろうかと拝察するところです。実際、26業務の中には14号の「建築物における清掃の業務」とか16号の「建築物又は博覧会場における来訪者の受付又は案内の業務、建築物に設けられ、又はこれに附属する駐車場の管理の業務その他…の業務」などが含まれていて、いやもちろん就労している人たちはプロフェッショナルとしての専門性とプライドをもって働いておられると思いますが、でもまあ「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」だから「能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわない」と言うよりは、すでにこれら業務では派遣就労が社会的に定着していて「就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる」と考えたほうが素直でしょう。
さて話は変わりますが、今回の適正化プランで特に重点的に「適正化」されているのが5号(事務用機器操作)と8号(ファイリング)です。これはhamachan先生が前々から指摘しておられました(私も原稿に書きました)が、派遣法制定前に事務請負という形式で事実上事務職派遣が行われていたところ、派遣法制定によってそれは法違反であることが明確化されるため、それは困るよねということで加えられたという経緯があります。だからもともと矛盾をはらんだものであって、厳格に運用されればあらかたの事務職派遣は引っかかるだろうことは明らかだったというのがhamachan先生のかねてからの問題意識でした。
とはいえ、こうした厳格な運用はかえって労働者のキャリア形成を阻害しかねないというのが小野先生や私の懸念でありまして、それにはhamachan先生も賛同いただいているようです。さらには、そのせいで職場も派遣労働者もなんら不満なく就労しているにもかかわらず期間満了で不本意にも派遣就労となった(なりそうな)人の恨み節もウェブ上には散見されるようです。
まあ、いっぽうでは派遣元には事務職といいながら実際には営業をやらせるとか、事務職に退職・派遣会社への登録を求め、翌日からは仕事も制服も賃金も変わらない(いや高賃金業種の中には賃金が上がらない、賞与が抑制されるだけでも大きいというところもあるわけで)のに期間1年の派遣になりましたとかいった悪質な派遣先もあることも間違いないのでそういうのは大いにビシビシと取り締まってほしいわけですが、これまで事実上容認され、多くは特段の不満もなく利用されてきたものをいきなり杓子定規に厳格化するのは弊害のほうが大きいのではないでしょうか。
事務職派遣もこれだけ拡大し定着したのですから、もう5号や8号は「イ」ではなく「ロ」だということに変更して幅広く認めてもいいのではないかと思うのですがどうなんでしょうか。うーん、拡大したといっても労働市場全体に占める割合はわずかですし、まだちょっと危ないでしょうかねえ。