週刊ダイヤモンド「解雇解禁」(4)

 きのうのエントリを書きながら、そういえばこういう主張は池田信夫先生がお得意だったよなあと思い出しました。そこで先生のブログを見に行ってみたところ、案の定紹介しておられました。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51470391.html

 来週の週刊ダイヤモンドの特集は「解雇解禁」。といっても解雇が解禁されたわけではなく、解雇規制を解禁せよというキャンペーンだ。内容は、当ブログでも論じてきたように、中高年のノンワーキングリッチを過剰保護する解雇規制(および司法判断)が若年失業率を高め、世代間の不公平を拡大しているという話である。
 完全失業率は5%程度だが、今春の大学卒業生の「無業率」は2割を超える。さらに企業の海外逃避も加速し、パナソニックは新規雇用の8割、ユニクロは5割を海外で採用する。その原因の一つが、強化される一方の雇用規制だ。民主党政権の「雇用重視」の政策は、企業を海外に追い出す「カントリーリスク」になりつつある。
 社内失業を奨励して労働保持を増やす雇用調整助成金は、一昨年の10億円弱から昨年は6000億円以上に激増した。このため潜在失業率は、経産省の推定によれば…13.7%にのぼる。

 硬直的な労働市場は単なる労使問題ではなく、世代間の不公平を拡大し、人的資源の効率的配分を阻害して潜在成長率を低下させている。政治家が解雇規制の問題をタブーにしている限り、どんな「成長戦略」を打ちだしても日本は成長できない。それはデフレがどうとかいう問題より100倍ぐらい重要な、日本経済の最大のボトルネックなのである。
 90年代に不良債権の処理を先送りした結果、その規模がふくらみ、最終的には日本経済を壊滅状態に追い込んだように、いま日本経済の抱える最大の「爆弾」は、長期不況で積み上がった人的不良資産である。労働保持は、目先は労働者にやさしいようにみえるが、経営効率化を阻害し、企業が破綻したら失業は顕在化する。日本経済の最悪の時はこれからである。

最初に「来週の」となっているように予告宣伝をみて書かれたようで、必ずしも記事の内容に沿ったものにはなっておらず、池田先生がグラフ(略)まで掲げた雇用調整助成金については記事はあまり取り上げていなかったと思いますし、「(解雇規制は)人的資源の効率的配分を阻害して潜在成長率を低下させている」との説も記事では少なくとも主要な主張点ではなかったと思います。ということで、ことによるときのうご紹介したコメントは、池田先生のこのエントリをみてそのような内容が記事にも含まれていると誤解されたのかもしれません。違うかな。
さて池田先生のこうしたご意見にはこれまでもコメントしてきましたが、このエントリに関しては「政治家が解雇規制の問題をタブーにしている限り、どんな「成長戦略」を打ちだしても日本は成長できない。」とおっしゃられるけれど証拠はあるのかなあとか、それだけの制度変更となると移行コストが膨大で現実的じゃなよねえとか、労働市場でこれだけ需要と供給のバランスが崩れているときにさらに供給を増やすような規制緩和を実施して、それ見合うだけの需要増があるのかなあとか(もちろんこの手の論者はあると主張するわけですが)、「人的資源の効率的配分」が行われた結果低賃金労働が増加してマクロ経済に悪影響を与えることはないのかなあとか疑問は尽きません。もちろん企業の人事管理、人材戦略にはそれとは別に大きな影響があるでしょうし。
また、雇用調整助成金にしても労働保持にしても、今後生産量が回復したときに必要な人材をあらためて調達・育成するコストを考えれば、いまはがまんして人材を保持しておいたほうが将来有利だろうというそれなりに合理的な考え方によるものなのでしょうから、重要なことは「企業が破綻したら失業は顕在化する」といった事態に陥らないように適切な政策対応を行うことではないかと思います。「デフレがどうとかいう問題」がどれほど重要な政策対応なのかは私にはわかりませんが、名目賃金に下方硬直性がある中ではデフレが雇用を維持する企業の負担を重くすることは明らかです。だから私などはやはりデフレをどうにかすることが大切なように思われるのですが、解雇や失業が増えてほしい池田先生にとってはデフレはむしろ歓迎なのでしょうか(いや邪推というか、いいがかりですよ)。