選択的夫婦別姓制度、紛糾

 選択的夫婦別姓制度を含む民法改正案には国民新党の亀井代表が強硬に反対していますが、民主党内でも対応をめぐって意見が分かれているようです。msn産経ニュースから。

 民主党は11日、選択的夫婦別姓を導入するための民法改正案について論議する議員政策研究会を国会内で開いた。同法案に対する賛成意見と反対意見が出て会合は紛糾し、今後も議員政策研究会で議論を続けることになった。
 会合では反対の立場で日大の百地章教授、賛成の立場で早大の棚村政行教授が、それぞれ意見を述べた。百地氏は「夫婦別姓制度の推進者のねらいは家族解体にある」と指摘。棚村氏は「日本における家族法の改正は急務だ」と主張した。
 出席した議員からは「世論調査では夫婦別姓に賛成は3割台で、通称使用を認めるべきとする意見と反対意見で6割台になる」として、性急な法案提出に慎重意見が出た。一方で、賛成派議員らは「法相の諮問機関が、(平成8年に)制度を導入すべきだという結論を出したことを尊重するべきだ」と求めた。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100311/plc1003111803010-n1.htm

夫婦別姓が「家族解体」につながる、というのは亀井氏もよく持ち出す論法ですが、「大企業のリストラのせいで家族の絆が崩壊して親族間の殺人が増えている」といった亀井氏の主張からは、父親が一家の生計費を稼得し、母親が育児や家事、父親の老親の介護などに従事すべきとする旧弊な家族観が見え見えです。これは女性の全面的な犠牲のもとに成り立ってきたものですので、今さら時計の針を逆に回すべきではなく、また回すこともできないだろうと思います。
「通称使用で十分問題ない」とする意見もあるようで、たしかに問題の相当部分は通称使用で解消するわけではあります。ただ、「通称」だけでなく「戸籍」、法制度上も別姓としたいとの強い思いを持つ人もいるでしょう。このあたりは個人の価値観をどこまで尊重するかという話になるわけですが、ことわが国の旧来の家族のあり方が女性に多大な負担を強いてきたことを考えれば、私は法制度上も別姓を認めることが好ましいと考えます(もちろんこれも私個人の価値観に過ぎません)。なお余談ながら、旧弊な価値観が根強い中には、男性のほうにこそ別姓に対する少数ながら切実なニーズがあるかもしれません(これこそ通称使用で相当程度解決しますが)。
ただ、今回の改正法案に問題がないかといえばそうでもなく、運用面では疑問を感じるところもあります。どこかというと、この改正法案では同姓とするか別姓とするかを婚姻前に決定しなければならず(決めないと婚姻届が受け付けられないらしい)、しかも一回決めた決定は生涯変更することができないとされています。さらに、別姓を選択する場合は生まれてくる子の姓についてもやはり婚姻の前に夫婦いずれかの姓に決定しなければならず、しかもこれはすべての子について統一して適用され、やはり生涯変更することができないとされています。もちろん頻繁な変更や兄弟姉妹間での姓の相違は混乱のもとではあるでしょうが、それにしてもこれはいかにも硬直的な感があります。
たとえば、夫婦はともに別姓で納得して合意しているにもかかわらず、夫の父親が旧弊な価値観を強硬に主張しているといったときに、当面は夫の姓で同姓としておいて、(不謹慎な話で申し訳ありません)夫の父親が鬼籍に入ったところで晴れて?別姓とする、といったことは、一種の「親孝行」として十分にありうるのではないかと思います。
また、今の世の中で戸籍上も別姓を選択するということは、残念ながら「旧来とは異なる価値観を持つ(特に妻が)」ということの強烈なシグナルとして機能してしまう可能性は否定できません。本人たちは覚悟の上でしょうが、子どもがそれを嫌ったり、実際に不利益を受けたりする可能性も残念ながら否定はできないように思われます。その際の便法として同姓に変更できるようにしておくことも必要な配慮ではないでしょうか。
子どもの姓についても、夫婦それぞれの親兄弟や親戚などがそれぞれの姓を主張して紛糾する可能性はあるわけで、第1子は妻の姓で第2子は夫の姓とか、男子は妻の姓で女子は夫の姓とかいうバリエーションがあったほうが好ましいでしょう。また、これについては当然子自身の選択も認められてしかるべきではないかと思われます。成人の際(やそれ以降)に、これは1回に限ってもよさそうですが、変更を認めてもいいのではないかと思います。
まあ、それを言うなら子どもにとっては(姓ではない)名のほうも自分で選んだわけではない、という議論にもなるわけで、法務省としてみれば氏名の変更は安易に認めたくないというのもわからないではありませんが、あまり硬直的にすぎると結局は事実上別姓を選択できないという使えない制度になってしまう可能性もあるわけで、まあそれでいいという人もいるのかもしれませんが、なるべく柔軟に考えてほしいものだと思います。