厚労省が新人事制度

ちょっと古いネタなのですが、厚生労働省がこの6日に新しい人事評価制度を発表したそうです。どうやら長妻大臣の肝煎りとか。NIKKEI NETから。

厚労省が新人事制度 コスト意識や情報公開、高く評価
 長妻昭厚生労働相は6日、厚生労働省に新しい人事評価制度を導入したと発表した。コスト意識やムダ排除のほか、情報公開などに取り組む職員を高く評価する。長年放置された「消えた年金記録問題」などを二度と起こさないよう職員の意識を高める狙い。10月1日から実施し、来年夏のボーナスから順次評価を反映させる。

 新しい人事評価は年2回の業績評価と年1回の能力評価に分かれる。

 業績評価には厚労省独自の3つの視点(「コスト意識・ムダ排除」「情報収集・公開」「制度改善」)を取り入れた。これら3つの視点にもとづいて、すべての職員が3個以上5個以内の目標を決める。各目標の重要度を設定し、半期ごとに評価する。(13:33)
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20091006AT3S0600R06102009.html

厚生労働省のリリースが同省のサイトに掲載されています。

 人事評価における「コスト意識・ムダ排除」、「制度改善」、「情報収集・公開」の視点の導入について

1 平成19年に改正された国家公務員法に基づく人事評価について、厚生労働省としては本年10月1日から実施に移したところである。

2 人事評価は年1回の能力評価と年2回の業績評価によって行われる。このうち業績評価については、各職員が期間ごとに業務に関する目標を定め、期末における目標の達成状況等を勘案して評価することとしているが、厚生労働省では目標設定に当たって特に次の点に取り組むこととする。
 ・定量的な目標の設定に努めること。
 ・3つの視点(「コスト意識・ムダ排除」、「制度改善」、「情報収集・公開」)を踏まえて、課室長級以上の管理者自らが目標を立て、期間を区切って効果的に取組を推進することとし、課室長級以上の管理者が設定した目標(組織目標)を踏まえて、課長補佐、係長等の部下職員が順次それぞれの職位や役割分担に応じた目標に細分化・具体化する(組織目標をブレイクダウンする)こと。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/10/h1006-3.html

このあとに組織の役割別に具体例が列挙してありますが、まずは並々ならぬ意欲が感じられるように思います。
そこで、まず人事制度をみてみますと、厚労省の資料によれば能力評価は年1回、「発揮した能力」を評価するとされており、毎年の昇給および任用、昇格などに反映されるものです。これに対し業績評価は年2回、4〜9月と10〜3月の「挙げた業績」を評価し、各期の勤勉手当(民間でいえば賞与の一部)に反映されます。おおむね、昇給・昇進昇格は能力主義、賞与は成果主義ということで、民間企業の一般的な人事管理に近いものといえるでしょう。成果主義はやるなら賞与で、というのはだいたい定着したといえそうなので、これも「民間準拠」というところでしょうか。改正国家公務員法以前は、勤勉手当はほぼ欠勤日数の少なさに応じて決められていたとの話もあります(聞いた話なのでまったく自信なし)ので、だとしたらまことに長足の進歩と申せましょう。
評価の分布はどうするのか、評価によってどのくらいの差がつくのか、というのは不明で、興味深いところではありますが、まあボーナスのうち勤勉手当だけに反映されるということですから、それほど大きな差はつかないのでしょう。一般的に、目標管理制度によって業績評価をすると「達成容易な目標を設定する」「目標と無関係な仕事は手を抜く」といったことが成果主義の問題点として指摘されるわけですが、当然ながら大きな差がつけばつくほどこうした傾向が強くなることは容易に想像できるわけで、そういう意味では反映を賞与の一部にとどめたのは賢明な姿勢と申せましょう。
そこで今回の新制度ですが、いうまでもなく賃金制度は人事管理のポリシーを色濃く反映するものであり、メンバーに対するメッセージとしての強力な機能を持ち得ます。今回、大臣が「これを目標にする=これで評価する」という姿勢を打ち出したのは、「定量化」「コスト意識・ムダ排除」「制度改善」「情報収集・公開」を「しっかりやれ」という意思表明でありましょう。また、「課室長級以上の管理者自らが目標を立て、期間を区切って効果的に取組を推進することとし、課室長級以上の管理者が設定した目標(組織目標)を踏まえて、課長補佐、係長等の部下職員が順次それぞれの職位や役割分担に応じた目標に細分化・具体化する」というのも、これ自体はたしかに一般的な組織管理の手法と申せましょう。
ただ、このような目標管理、方針管理というものは、まずは組織全体の目標、方針があって、それを組織のありように応じて事業単位とか、地域単位とか、あるいは部門単位とか機能単位とかにブレークダウンし、それをさらに局とか部とかに細分化し、さらに課とか室とかに細分化し…最終的に個人の目標にまで落とし込んでいくものでしょう。厚労省の場合はその途中段階、中間管理職の「課室長級以上」に対して目標設定を求めているわけですが、果たして省としての目標を長妻大臣は設定しておられるのでしょうか?課室長級の目標を積み上げて局部長、政務官副大臣の目標とする…というボトムアップ方式もあり得なくはないのかもしれませんが、しかしうまく機能するかどうかはかなり心配ですし、そもそも行政府の目標や方針がそうしたものであっていいかどうかも議論があるでしょう。
また、いかに厚労相肝煎りとはいえ、笛吹けど踊らずでは意味がないわけで、そこをどう踊らせるかが重要です。そもそも厚労相ではこうした人事管理そのものの経験があまりないものと思われますので、うまく運用できるか心配がなくもありません。目標設定の例が非常に具体的かつ多数示されているのも、なんとか踊らせるための「振り付け」という意味も多分にあるのでしょう。ただ、これは逆に「こういう例が書いてあるから、これを下敷きにして達成可能な目標をいくつか作っておけばよい」という行動を助長しかねないという面もあるのがツラいところです。それを防ぐには目標をチェックする上位者が適切な目標設定がなされているかどうかが問題になりますが、その上位者もあまり経験がないうえに、「まあ、これは形だけ大臣が言っているようなものに整えておけばいいだろう」という姿勢だとすれば、せっかくの新制度も役に立たないということになりかねません。副大臣なり政務官なりが次官や局長の目標をしっかりチェックして適切なものとすることが第一歩ですが、その先はどうなるものやら…という感じではないでしょうか。
まあ、こうした取り組みは制度を入れたからすぐに思ったように機能するというものではなく、ある程度時間をかけて、必要なら見直しも行いながら徐々に浸透・定着させていくものなのでしょう。そういう意味では、まずはこの10月からスタートした新制度を徐々にきちんと運用できるようにしていくことが先決であり、そこにさらにいろいろな具体的内容を織り込もうというのはいささか気が早いのかもしれません。新政権や長妻大臣としてはある程度早い段階で目に見えた成果がほしいという要請もあるでしょうから、気があせる?のもわからないではありませんが…。