若きキャリア官僚の秋

きのうから、日経ビジネスオンラインで「若きキャリア官僚の秋2009」という連載インタビュー記事がスタートしています。初回に登場するのは財務省主計局の高田英樹氏。聞き手はコンサルタントの佐藤ゆみ氏です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090907/204180/
自身のブログを運営したり(http://plaza.rakuten.co.jp/takadahmt/)、財務省の採用情報サイトに魅力ある先輩として登場する(http://www.mof.go.jp/saiyou/honsyo/senpai18.htm)などしているお方です。このインタビューも、全体を通じて、志の高さが感じられて好感が持てます。
少しだけ紹介しますと、

佐藤 ゆみ(以下、佐藤) 最近、官僚と言うと、天下りで大金を手にしているとか、埋蔵金を隠しているとか、いかにも“日本の悪”のようなイメージで表現されることが増えています。ただ、官僚のイメージが実態以上に悪く伝わっているところに、私個人としては疑問を感じざるを得ません。もちろん、癒着体質の方もいるでしょう。しかし、それ以上に、国家のために真摯に働く方々が多いはずですから。

高田 英樹(以下、高田) 多いというより、ほとんどの官僚が「我が国のために」という使命感を持っていると思います。最近の論調では官僚を叩くだけのものもあり、実際の働きよりも評価が低いのではと感じて残念です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090907/204180/?P=1

高田氏は後段で「「政府」という悪代官がいて、庶民からお金を巻き上げる一方でムダをしていると」「勘違いされている」とも述べています。実際、私は財務官僚とのおつきあいはあまりなく、以前財務省総研の研究会に参加したときに親しく交流したくらいのものですが、私の知る限りではみなさん強い使命感と責任感をもって仕事をしていると思います。他の省庁も含めて、ごく例外的な人を除けば全員そうではないでしょうか。
にもかかわらず、民主党マニフェストの先頭に「ムダづかい」の排除を掲げ、それによって消費増税なしに各種施策の巨額の財源を捻出できるとの主張を行いました。総選挙での圧勝を受けて、ますますそうした主張が強まることも考えられます。

佐藤 今後、民主党が何をもってムダと判断するかは分かりませんが、「天下りがムダ!」と官僚批判をかなり強めています。実際に天下った方々の人件費というのはいかほどなのでしょう?

高田 「天下り法人に何兆円ものお金が行っている」と言われていますが、人件費に何兆というわけではなく、そのごく一部だと思います。「天下り」に多々批判があるのは否定しませんが、「天下り」というのは公務員のキャリアの最後の部分に過ぎません。
 大事なのは、なぜそうした慣行があったのか、どうすればこれを改善できるのか、公務員のキャリア全体を見直すことだと思います。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090907/204180/?P=2

このブログでも繰り返し書いていますが、私は政府がムダづかいのカタマリであるかのような誤解を国民に与えている最大の理由は、大多数の国民から見て明らかなムダづかいが、ビジブルな形であからさまに放置されていることにあるのだと思っています。明白なムダが明らかになっているのになんら変わらないということが「他もすべてそうなのだろう」という印象を与えるのではないでしょうか。その最たるものが「特殊法人・外郭団体のトップ・幹部への天下り」なのでしょう。日比谷や銀座の一等地にオフィスを構え、専用車で移動し、10時に出勤して16時には退勤、仕事の大半は決裁と会議出席(もっとも、その内容は豊富な知識や経験、専門性を生かした高度なものも多いわけですが)で、数年で退職して巨額の退職金…という、民間ではおよそ考えられないような、池田信夫先生いわゆるところの「ノンワーキング・リッチ」の存在は、ムダづかいではないと言われて納得する人はほとんどいないでしょう。
もっとも、それに対する高田氏の指摘は、これは行政の立場からすればまったくの正論と申せましょう。キャリア官僚はわが国でも最高水準の人材であり、仕事内容は非常に高度で複雑(そうでない仕事もあるでしょうが)、かつたいへんな激務であるにもかかわらず、若い頃は給与の水準は高くなく、およそ能力や職務に見合ったものではなさそうです。その分を、中高年になってから天下りと高額退職金で埋め合わせ、生涯を通じて精算するという強烈な後払い賃金のしくみとしているわけです。これがまさに「なぜそうした慣行があったのか」その理由であり(すなわち、必ずしも100%ムダづかいとまではいえないとの考え方もありうる)、であれば「公務員のキャリアの最後の部分に過ぎ」ない「天下り」だけを非難するのではなく、「公務員のキャリア全体を見直す」のでなければ解決しないでしょう。
具体的には、年功賃金の見直しに取り組んでいる民間企業と同様、若〜壮年期の賃金を能力や職務に見合った適正な水準に引き上げるとともに、「年下の上司・年上の部下」を容認し、中高年期の賃金上昇を抑制し、専門職制度を設けるなどして定年まで省内で働けるような人事制度・人事管理を行うことでしょう(実際、1種と2種との間であれば年齢や年次の逆転は当たり前になっているわけですから、なぜ1種の中でそれが容認されないのか不思議です)。そうすればわざわざ外郭団体への天下りで若い頃の低賃金を埋め合わせる必要はなくなるはずなのですが。もちろん、これはこれで役所の風土を変える必要があり、官僚にはストレスかもしれませんが、しかしキャリアの最後の部分だけ取り上げられるよりはマシではないかと思いますが…。
さて、天下り以外にも「明白なムダ」はありそうですが、それについてどうかというと、

高田 理想を語るのはたやすいけれど、800兆円もの借金をどうするかを避けては通れません。国の財政は、昭和40年頃まで赤字はありませんでしたが、その後、借金体質になり、バブルで税収がピークになった頃でさえ、毎年何兆円もの借金をしていました。
 今のままでは、それを次の世代に付け回すこととなります。今、福祉水準を上げたとしましょう。それを受益できるのは今の世代です。でも、その負担は将来の世代が負うのです。

佐藤 では、どうしたらよいのでしょう。

高田 まず、何が「ムダ」で、何が「必要」か、といった議論を国民がしなければなりません。よく勘違いされているのは、「政府」という悪代官がいて、庶民からお金を巻き上げる一方でムダをしているというイメージです。
 民主主義なのですから、国民vs政府ではなく、本来は国民=政府であり、政府の職員は国民の代弁者に過ぎないということを理解していただきたいのです。

佐藤 今回の総選挙で自分の1票が政権を動かしたと感じた方も多いと思います。1人ひとりの行動が政治を、社会を作っているはずです。

高田 財政とは、国民間の資源配分にほかなりません。政府の役人が国民から税金を取っていると思われがちですが、本当はそうではなく、国民Aに対する行政サービスのために、国民Bが税金を払っているのです。
 税金が行政サービスをまかないきれない場合に、行政サービスを減らすのか、それとも税金を増やすのか、それは国民Aと国民Bの間で解決しなければならない問題です。政治家や役人は、その仲介をしているに過ぎません。

佐藤 そう考えると、1人ひとりがもっと行政と政治についての理解を深めなくてはいけませんね。

高田 もちろんです。1人ひとりの税金からなる資源の配分は結局、民主主義の過程の中で決定されるわけですが、今日のその決定に加わることのできない、将来の世代のことも考えなければなりません。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090907/204180/?P=5

典型的な財務省の論理ということになるのかもしれませんが、高田氏は別のところでは「多くの人がムダに思うようでも、一部に必要としている人がいる予算があります。こうした予算を削るのであれば、必要としている人を説得しないといけません」とも語っています。民主党ならば(本当にそうかどうかは知りませんが、推測として)「既得権」と一刀両断しそうな話ですが、官僚としてみれば国会で議決されて法律になっているものを勝手に変えるわけにはいかないというのももっともな話でしょう。「明白なムダ」だって、決めたのは官僚ではなく政治家だ、と言われればそのとおりと申し上げざるを得ません(まあ、現実には官僚が専門性を生かして政治に「抵抗」したり政策を「骨抜き」にしたりすることなどはあるのでしょうが)。bewaadさんが福井秀夫(2004)『官の詭弁学 誰が規制を変えたくないのか』日本経済新聞社の書評(?)において、「民主政の枠内で合法な手続により決定される政策は、それが論理的でなく経済学的でなくても、行政はそれを遵守しなければならないし、また、その政策を覆すには、同様の手続により別の政策決定を行うことのみが必要十分条件」と述べられていたことが思い出されます(http://bewaad.sakura.ne.jp/archives/themebased/2004/challenge.html#Dec0704。このブログでもhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050208で取り上げています。そういえばbewaadさんはお元気だろうか)。
いずれにしても民主党は政権を獲得し、まさに「民主政の枠内で合法な手続により」従来の政策を覆すことができるようになったわけですので、「ムダづかい」排除の旗印のもとにどこまでのことができるか、注目されるところではあります。
この企画、どこまで続くのか知りませんが、厚生労働官僚の登場が楽しみです(笑)。登場しないかな。どんなものだろうか。