3閣僚遅刻「事務方のミス」 首相が官僚に責任転嫁

きのうのネタのフォローです。これはここまでくると完全に人事管理の問題という感じです。

 2010年度予算案参院審議の初日である3日、原口一博総務相ら3閣僚が参院予算委員会に遅刻した。国会審議への閣僚の遅刻は極めて異例で、事務局も「過去に例があるかどうかは調べようがない」と言うほど。鳩山由紀夫首相は同日夕、記者団に「申し訳ない」と陳謝しながら「かなり事務方のミスでもある。むしろ役人の中で緊張感が足りないのがいると思っていて、大変けしからんことが起きたと思う」と官僚に責任転嫁した。
 遅刻したのは総務相前原誠司国土交通相仙谷由人国家戦略相の3人。総務相は開会予定時刻の2分後、8時52分にはツイッターに「原口ビジョン」について書き込んでいる。「ツイッターで遅れたわけではない。事務方のミスだ」と釈明し、夕方になってツイッターにも「事務方の連絡ミス」と記した。
(平成22年3月4日付日本経済新聞朝刊から)

「役人の中で緊張感が足りないのがいる」「事務方の連絡ミス」だというのなら、なぜ従来も同様の遅刻が起こっていないのか、「過去に例があるかどうかは調べようがない」くらいに異例のことなのかのご説明がほしいところです。本当に事務方のミスだとすれば、民主党政権になって急に事務方がミスを起こしはじめるとは常識的には考えられませんから、同様のことが自民党政権においても1度や2度は起きていなければおかしいはずです。また、きのうも指摘したように「開始時刻が10分早まった」ことについて事務方の連絡ミスがあったというだけでは、15分も遅刻したことの説明にはなっていません。
そもそも、大臣であれば役所の秘書だけではなく、民主党の秘書や議員自身の秘書もついているはずで、これらのスタッフはなにをやっていたのかという疑問もあります。他の閣僚はきちんと変更された時刻に間に合っているわけですから、他の大臣の動向を把握していれば(これは少なくとも民主党の秘書であれば容易かつ必須だと思うのですが)この遅刻は防げたはずだと思われます。もっとも、遅刻の際に官房長官が3閣僚と連絡を取ろうとしても取れなかったという話もあるようですので、民主党の秘書の連携体制もかなりづさんなものなのかもしれませんが、それはそれでまた問題だと思いますが…
このように、「役人・事務方のミス」で片付けようにもなかなかそうはいかない状況であるにもかかわらず、現に遅刻した大臣ばかりでなく、官僚組織全体の長である首相までもが「役人・事務方のミス」として自らを免責しようとの姿勢をとることは、人事管理という面からみてもおよそ賢明な対応とは思えません。そもそも、このように「大臣は自身の予定変更を知らないのも当然で、しかし周囲は全員それを当然承知していてそれに従って行動するのが当然」という発想を持つ(報道をみる限りではそうとしか思えませんが)こと自体が自身の無能を露呈しているという感があるわけですが、それはそれとしてもこうした責任転嫁が組織の士気にかなりの悪影響を与えるであろうことは人事管理の初歩の知識と申せましょう。それすら欠如した人物が大臣、ひいては首相を務めているというのでは暗澹たる気持ちにならざるを得ません。
あるいは、首相と3大臣は、政治主導に抵抗する役人が民主党に対してサボタージュを行っていると宣伝したいのでしょうか。とはいえ、仮にサボタージュをするにしてももっとうまくやるはずで、役人が本当に「大臣、今日の国会は10分早まったんじゃなくて5分遅くなったんですよ、だから9時5分までツイッターをやっていても大丈夫ですよ」なんてことを言ったのだと国民に信じさせようというのは至難の業でしょう(大臣がそう言われてたらうのみにしてツイッターをやっていかねないということを国民に信じさせるのはあるいは可能かもしれませんが)。それはそれとしても、通常の組織であれば上司が代わったら部下の働きが悪くなったということであれば、まずは上司が自分のマネジメントに問題がないかどうか反省するのが普通でしょう。もちろん、公務員に服命義務があることは法律に定められているわけですが、だからといって閣僚や政務三役が誰であってその行動や指示がどのようなものであっても当然に全身全霊、誠心誠意働くだろうと期待するのは、建前としてはともかく現実には無理というものでしょう。部下の働きぶりがよくない、改善したいと感じるのであれば、上司はまず自らのマネジメント、動機づけなどに問題や改善の余地がないかを考えるべきでしょうし、あくまで自分のマネジメントスタイルを貫きたいのであれば、それにともなう部下の意欲の減退などの副作用は甘受するしかないのではないかと思います。
で、少なくとも遅刻は政治主導とは直接関係ないわけですし、「私のスケジュール管理が至らなかった、すべて私の責任であり部下に非はない」とでも言っておけば(実際もたぶんほぼそのとおりという印象もありますし)、それ以上の追求もないでしょうし(遅刻したから官僚を辞任しろとか任命責任がどうしたとかいう話にはならないでしょう)、部下の意欲や忠誠心という面でははるかに良好な結果につながると思うのですが、大臣ともなるとなかなか非を認めにくいのでしょうかねえ。民主党は相変わらず「官僚が悪い、官僚がさぼってムダづかいをしている」と言っておけば国民は納得すると思っているのでしょうか。たしかに前回選挙では奏効しましたが、しかしいまもその神通力があるのかどうか、あるとしてもこうした問題にまで通用するものなのかどうか…。