労働講座「労基署調査の対応と景気低迷期の人件費対策実務」

宣伝する気はないんでリンクは貼りません(主催者名も書きません。ルール違反かもしれませんがご容赦を)が、こんなセミナーを見つけました。

 「労基署調査の対応と景気低迷期の人件費対策実務−不払残業の遡及支払いの対応とこれからの人件費対策」

 近年、労働基準監督署による立ち入り調査(臨検)が急増しております。特に労働者からの労働基準監督署への申告(告発)での調査が増えつつあります。

 最近の申告調査や定期調査では、労働時間管理、サービス残業問題(=賃金不払い残業:時効2年)についての監督・指導が重点的に全国で行われております。

 監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成19年度1企業当り合計100万円以上となったもの)
是正企業数1728企業
是正金額272億4,261万円
対象労働者数179,543人
全企業平均では1,577万円、労働者平均では15万円
(詳しくは講座にて)

 このように今まで隠れていた債務がある日突然表面化し、数百万から数千万円のコスト負担を企業経営者は強いられることになります。

 「このサービス残業や賃金不払残業の問題は大手企業だけの問題だ」と思わないでください。
 この賃金不払い残業の問題は中小零細企業から大企業まで、すべての企業経営者本人の問題なのです。
 実際に、数名程度の企業でも遡及の是正勧告が出されています

 特に下記に該当する企業様はお気を付けください。

給料には時間外手当が込みになっていると思っている。
年俸制なので時間外手当は必要ないと思っている。
主任以上は役職者なので時間外手当は必要ないと思っている。
営業手当を出しているから時間外手当は必要ないと思っている。etc・・・・

 今回の講座では、労働基準監督署の調査の実際と対等方法をはじめ、残業コストなど景気後退期の人件費コントロールについて解説をいたします。

なんかすごいなぁ。ちょっと聞いてみたい気も(笑)それはそれとして、こういうセミナーを参加料払って聴講しようという人がいるということは、それが世間の実態だということなんでしょうね。
サービス残業の是正で倒産したという話は今のところ聞いたことがありませんが、小規模企業の経営者としてみれば、たとえば従業員20人×平均15万円で合計300万円の支払をある日突然求められたとしたら、資金繰りが…という心配をする人もいるかもしれません。まあ、残業代を取り返したはいいけれど、それで会社が倒産して失業してしまった…ということでは困るでしょうから、そこは分割払いにするとか、なんとかくふうするのでしょうか。
それにしても「給料には時間外手当が込みになっていると思っている」というのは、もちろんかなり程度の低い話ではありますが、しかし経営者としてはかなり本質的な部分でもありそうです。要するに、残業がいくらあろうとも、払える給料は総額でこれだけだ、逆にいえば残業が少なくても総額でこのくらいなら払ってもいい、というのは、経営上、人件費管理のベースには必ずあるはずだからです。
ですから、あとは人事管理としてきちんとやればいいだけの話で、具体的には労働時間管理をきちんとやって、残業時間を把握する。そして、それに対して割増賃金を支払ったとして、それでも総額人件費が経営上許容できる範囲内に収まるように賃金水準を設定する。賃金だけでこれをやろうとすると、賃下げが必要になってしまうケースも多いでしょうから、まずは残業代の総額が予定以上に増えたら賞与の総額をその分減額するというのが現実的でしょう。個人ベースでこれをやるとかなりまずいわけですが…。賃金水準のほうは、当面は賞与で調整しつつ、時間をかけて中期的に調整していくしかなさそうですが、それでは人材が確保できないよ、ということであれば、そこは設備投資なり、生産性向上をはかって高い賃金を提示できるよう努力すべきだ、ということになるでしょう。
こう言うと、経営者の中には「残業代目当てでダラダラと残業しているとしか思えない奴もいるのだが、そういう奴にたくさん残業代を払うのは真面目に働いている社員に申し訳ない、納得いかない」という人もいるでしょう。たしかにそれは経営サイドとしてはある種の正論?かもしれませんが、しかし法律的にできることとできないこととはきちんと区別する必要があります。現行法制下では、ダラダラ働く低生産性社員に対しては、まずは生産性向上、能力向上への動機づけを行うのが第一であり、それでも改まらない場合には、残業を減らすよう繰り返し指導するとともに、昇給や昇格を抑制し、賞与も低額にとどめるといった対応を行うのが手順というものでしょう。
年俸制なので時間外手当は必要ないと思っている」とか「主任以上は役職者なので時間外手当は必要ないと思っている」とかいうのも同じことで、現行法制下でどこまでできるのかを正しく理解し、できないことはしない、というのが当然でしょう。会社の制度と、労働法制上の管理監督者裁量労働制対象者にあたるか否かといった問題とはまったく別物です。労働者自身が労働時間管理のない年俸制を希望するケースもそれなりにあるのではないかと思いますが、だからといって法規制を免れることはできません。
「営業手当を出しているから時間外手当は必要ないと思っている」についても、経営者としてみれば外回りに出れば映画を見たりパチンコをしたりもできるわけで、労働時間を計算して給料を払うのはおかしいじゃないか、と言いたくもなるのは情においてやむを得ないところもあるでしょう。とはいえ、これまた事業場外みなしが適用できる範囲はかなり限られています。適用できない人に対しては、残業代計算のベースになる基本給はなるべく抑制し、売上に応じた歩合を大きくするなどの方法を採るべきでしょう。


と、いうようなことを教えてくれるのでしょうか、このセミナーは?


たしかに、現行の労働法制には実態に合わない部分が多々あり、それが労働者の能力向上や創造性発揮を妨げている現実もありますが、そういう場面よりは、きちんと遵守されてしかるべき内容の方がはるかに多いわけです。労働法の規制緩和はもちろん必要ですが、必要な保護は担保されるように行われなければなりません。
とりわけ現実的な議論としては、かなり乱暴な言い方ですが、「給料には時間外手当が込み」とか「年俸制」とか「主任以上は役職者」とか「営業手当を出している」とか言うときに、それではいくら出してるんですか、というのは、かなり重要なポイントなのではないかと思います。もちろん、他にも大切なポイントはいくつもありますが、働く人の立場としては「法律に文句をつける前に出すものを出せよ」と言いたい、というのも本音としてかなりあるのではないかと思います。もちろん、カネさえ出せばなんでもあり、というのはまずいわけですが。