監督指導による賃金不払残業の是正結果

週末の日経新聞から。

 残業代を支払っていないとして労働基準監督署の是正指導を受け、二〇〇七年度に百万円以上の未払い残業代を支払った企業が前年度比約三%増の千七百二十八社と過去最多になったことが二十四日、厚生労働省のまとめで分かった。未払い残業代の総額も同約二〇%増の二百七十二億四千二百六十一万円で、過去最高だった。
 厚生労働省監督課は「サービス残業」が減らない背景について「労働時間管理が不徹底な企業が依然多い。経営者や管理職の意識改革も必要」と分析している。
 厚労省のまとめによると、労基署の是正指導後に残業代を支給された労働者は十七万九千五百四十三人。企業一社当たりの平均支払額は千五百七十七万円、労働者一人当たりの平均は十五万円だった。
 一社で一千万円以上の支払いがあったのは二百七十五社で全体の一六%。支払総額の七八%に当たる二百十二億四千十六万円がこの二百七十五社の支払い分に相当した。
 業種別で是正指導が最も多かったのは製造業の四百三十七社、次いで商業の四百三十二社だった。個別企業で支払額が最高だったのは、関西の家電量販店で三十億二千二百七十九万円だった。
 残業代を含め、割増賃金を支払っていなかったとして労基署が労働基準法違容疑で書類送検したケースは三十五件だった。
(平成20年10月25日付日本経済新聞朝刊から)

元ネタはこちらにあります。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/10/h1024-1.html
これは元ネタにもあるとおり、例の「四・六通達」以降、厚労省が精力的に取り組んでいるところです。過去の厚労省の発表をもとに、これまでの経過を表にまとめてみました。

期 間 是正企業数 対象労働者数 是正金額 (月あたり)
2001年4月〜2002年9月(18ヵ月) 613社 83,414人 約81億円 約4.5億円
2002年10月〜2003年3月(6ヵ月) 403社 63,873人 約72億円 約12.1億円
2003年4月〜2004年3月(12ヵ月) 1,184社 182,561人 約239億円 約19.9億円
2004年4月〜2005年3月(12ヵ月) 1,437社 169,111人 226億円 約18.9億円
2005年4月〜2006年3月(12ヵ月) 1,524社 167,958人 約233億円 約19.4億円
2006年4月〜2007年3月(12ヵ月) 1,679社 182,561人 約227億円 約18.9億円
2007年4月〜2008年3月(12ヵ月) 1,728社 179,543人 約272億円 約22.7億円

この7年間における状況は、是正企業数は8,568企業、対象労働者数は1,029,021人、支払われた割増賃金の合計額は1,351億1,743万円で、企業平均では1,577万円、労働者平均では13万円だということです。
みてわかるとおり、2003年度から2007年度までの4年間は、企業数は増えていますがそのほかの数字はそれほど変わりありません。当然ながら、監督署としても全企業を調査できるわけもなく、やればやるほど出てくるでしょうから、そういう意味ではこの数字は監督行政がどれほど気合を入れてやったか、ということを示しているわけです。過去最多、過去最多というのも、企業のサービス残業の実態が過去最悪というよりはまずは監督署の気合が過去最高という意味でしょう。意地の悪い見方をすると、2003年度から2007年度までは月当たり20億円程度という目安がまずあって、それに到達するように監督していたのかもしれません。そういう目でみると、年を追うにつれて「大口」の監督先が減少してきて、結果として是正企業数が増加しているようにみえなくもありません。まあこれは邪推ですが。
もうひとつ面白いのは、対象労働者一人当たりの是正金額も、2003年度以降は12〜14万円の範囲内で一定している(これは「過去最多」の2007年度も同じ)ことです。どのくらいばらつきがあるかわかりませんが、ひとり月1万円程度です。
この監督は当然「四・六通達」に沿って行われているのでしょうから、具体的にはタイムカードなどの記録と支払割増賃金とを照合し、そこに食い違いがあった場合に「これはなにか」ということでやっているのでしょう。それが労働時間なのかどうかはっきりしない、ということになると、監督署は当然割増賃金を払うよう指導するでしょうし、まあ企業としても「そうですね」ということで是正に応じるというのが容易に想像されるパターンです。現実にはさまざまな事情で(もちろん悪質なサービス残業も相当含まれるでしょう)タイムカードと割増賃金の違いは発生するでしょうから、基本的にこれからも監督すればするほど是正も出てくるだろうと思います。その金額が月1万円というのも、単純計算して時給2,000円の4時間分で、なんとなくそんなもんかなあ、という感じのする数字です(もちろん、これはバラツキがどうかなどといった問題がありますので、まったくの印象論にすぎませんが)。
いずれにしても、是正された中には低レベルな経営者や管理職がいいかげんな労働時間管理をしていた例も多いでしょうから、監督行政にしてみればやってもやっても終わらないやっかいな代物ではありましょうが、継続的に取り組んでいただく必要があるでしょう。いっぽうで、現行の四・六通達はかなり杓子定規な内容ですが、これを現場でも杓子定規に適用するとかえって人事管理がおかしくなってしまう危険性もありますので、法や通達に従って行うことは当然としても、実情に応じた適正な監督をお願いしたいものです。