キャリア辞典「非正規労働」(1)

「キャリアデザインマガジン」第81号のために書いたエッセイを転載します。


非正規労働(1)

 昨年(2008年)末もおしせまった12月26日、厚生労働省は「非正規労働者の雇止め等の状況について(12月報告)」を発表した。これはもちろん、昨今の厳しい雇用失業状勢、とりわけ厳しいとされる非正規労働者の雇用問題をふまえたものだろう。それによれば「派遣又は請負契約の期間満了、中途解除による雇用調整及び有期契約の非正規労働者の期間満了、解雇による雇用調整について、本年10月から来年3月までに実施済み又は実施予定として、全国の労働局及び公共職業安定所で12月19日時点で把握できたものは、全国で1,415件、約85,000人となっている」とのことだ。
 非正規労働については、ほかにも非正社員非正規社員非正規雇用、非典型労働、非典型雇用など、さまざまな類似の用語がある。どれが定番なのだろうか。
 ウェブ上をみると、フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』に登録されているのは「非正規雇用」だが、検索エンジンgoogleを使ってこれら用語を「ぐぐって」みたところ、厚生労働省公認?の「非正規労働」が最も多く約2,440,000件、次いで「非正規雇用」が約1,260,000件、「非正社員」が約770,000件、「非正規社員」が約478,000件、「非典型雇用」が約102,000件、「非典型労働」が約88,600件という順となった(平成21年1月5日22:45検索実行)。
 また、日本経済新聞社のオンライン新聞記事検索サービス「日経テレコン21」を使って、今回の雇用調整局面である過去半年間における新聞記事での登場件数をカウントしてみると、こちらは「非正規雇用」が671件で最多、次いで「非正社員」が542件、「非正規社員」が444件で続き、意外にも「非正規労働」は99件にとどまっている。「非典型雇用」と「非典型労働」はこの検索ではヒットしてこない(検索対象は日経新聞朝刊・夕刊のほか読売・朝日・毎日・産経の各紙、平成21年1月6日検索)。間違いかと思ってサービス対象の全期間で検索しても非典型雇用は5件、非典型労働も20件しか登場していなかった。「非典型」は難解な印象があるのか、新聞報道では好まれていないようだ。
ちなみに、日経と朝日は「非正社員」の登場回数が明らかに多く、読売・毎日・産経は「非正規雇用」が明らかに多いので、新聞社によってある程度用語の基準が作られているのかもしれない。
 最近の動向として、昨年(2008年)10月には連合が「非正規労働センター」を設置しているし、厚生労働省も冒頭の発表で「非正規労働」との用語を使っていて、政労の足並みは一応揃ったといえるかもしれない。いっぽうで、使用者団体である経団連はというと、やはり昨年(2008年)末に発表された『2009年版経営労働政策委員会報告』をみると、「パートタイム労働」「派遣労働」「期間従業員」などといった個別の名称が使われていて、これらを一括した呼称は登場していない(一応「有期雇用従業員」というのがそれに近いかもしれないが、「非正規労働」とはややニュアンスが違うだろう)。雇用対策の重要性については政労使のコンセンサスになっているようだが、ここはまだ足並みは揃っていないようだ。