非正規雇用削減も一様ではない

これは連合のこの文書に限ったことではなく、マスコミをはじめさまざまな場面で感じることなのですが、「非正規労働者外国人労働者等の契約打ち切りや雇い止め、新卒者の内定取り消し等の深刻な雇用問題が生じている現況に対し、非正規労働者を解雇してまで利益を配当に回す」と書かれていますが、「契約打ち切り」「雇い止め」「内定取り消し」「解雇」というのはそれぞれ具体的にどういう事象を指しているのでしょうか?ここが不明確だと、なかなか議論が進めにくいものがあります。まあ、この中で「内定取り消し」というのはそれほど紛らわしいものではないでしょうが…。
まず、「雇い止め」というのは、有期雇用契約の期間が満了したときに再契約、あるいは契約延長をしない、ということを指すことが多いのではないかと思います。これは期間満了で契約は終了するわけですからその時点で雇用関係にはなく、したがって「解雇」にはあたりません。ただし、長期・多回数にわたって契約更新が繰り返されていて労働者が今後も契約更新が続くことを期待するのが十分合理的である場合や、有期契約だけどなるべく長く働いてほしい、といった口頭での申し出があった場合などについては、その雇い止めは解雇に準じて取り扱う、という裁判例があることは周知のとおりです。
「契約打ち切り」、これはわかりにくい。まず直接雇用の有期契約従業員についていえば、契約期間が満了したので再契約せずにこれにて契約を打ち切ります、ということなら、これは上記の「雇い止め」で「解雇」ではありません。いっぽう、契約期間が残っているにもかかわらず、なんらの代償もなく途中で打ち切った場合、これは「契約打ち切り」であり「解雇」でもあるでしょう。
悩ましいのは、仕事はないので契約の残り期間はすべて休業とし、平均賃金の60%以上の休業手当を支払いますので、もう会社にはこなくてけっこうです、拘束もしませんのでご自由に行動してください、といったケースです。これは理屈上は「契約打ち切り」とまではいえず、「解雇」でもないでしょう(もちろん、契約そのものや適用される就業規則に休業日の根拠規定が必要といった手続上の問題はあります。また、根拠規定がない場合に、それでは残り期間を100%の賃金を支払ったうえで休日とすればいいのか、という議論もありそうです)。また、これについては、このところ失業した非正規社員の住居の問題が注目されていますが、契約上住居を提供することとなっている場合は、期間満了までは居住させなければならないと考えるのが自然でしょう。これらのケースは、賃金と住居を支給されたうえで職探しの時間もあるわけですから、代償なく解雇されるのに較べるとかなり手厚い対応といえそうです。
これが派遣社員となると、さらにややこしくなります。常用型派遣であれば、仮に派遣先から派遣を打ち切られたとしても、派遣会社の社員としての地位は残りますから、たしかに「派遣切り」であるにしても「解雇」とはいいにくい。
登録型派遣の場合は、派遣が終了すれば派遣会社との雇用関係も終了してしまうわけで、これについては直接雇用の場合と類似の問題が発生します。派遣先が契約期間中に一方的に「契約打ち切り」をした場合、これはもちろん契約違反になるわけですが、ここで派遣会社がなんら対応をとらず就労が終了してしまった場合は、これは「解雇」となりましょう。こうした場合の派遣先、派遣元の責任はあいまいで、かねてから問題視されているところです。さらに、それでは派遣先が予定されていた契約期間分すべての派遣料金を支払って派遣を期間中に打ち切るのは許されるのかとか、派遣会社は予定されていた派遣期間分の休業手当を支払えば責任を果たしたといえるのかとか、さまざまな問題がありえます。直接雇用の場合と同様、派遣先や派遣元が住居の提供を含む契約をしていた場合は、仮に就労は打ち切ったとしても予定の期間内は住居の提供がなされるべきですが、派遣先が提供まで打ち切った場合に派遣元が代わって提供すべきなのか、といった問題も出てきそうです。基本的には派遣元に責任があり、派遣先が契約違反をした場合には派遣元が派遣先に損害賠償を求めるというのが筋なのでしょうが、いたるところで責任の所在が不明確であり、きちんとした交通整理が必要と申せましょう。
いずれにしても、非正規社員の就労が終了して失業する場合にも、そこには非常に多様なパターンがあり、それをひとことで「解雇」というのはややずさんのそしりを免れません。このところだいぶ意識されつつあるようですが、マスコミなどにはぜひ正確でわかりやすい報道をお願いしたいものです。