第2回雇用政策研究会資料

1月27日に開催された厚生労働省の雇用政策研究会に連合の團野副事務局長と二人で呼ばれ、「目指すべき雇用システムとセーフティネット」ということでヒヤリングを受けてまいりました。その際の資料などが厚労省のホームページにきのう掲載されましたので、ご紹介させていただきます。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/s0127-12.html
報告内容は基本的に私があちこちで言っていることと同じですが、ちょっとひねったのはあえて旧日経連の自社型雇用ポートフォリオを持ち出したところかなぁと思っています。もちろん、その意図するところは、先日のエントリhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100126でご紹介した「連合見解」の以下のような記述:

 今日の大きな社会問題である「格差問題」、「非正規労働者問題」の背景には、95年に旧日経連が発表した、いわゆる「雇用のポートフォリオ」の考え方があることを言及しておきたい。この報告はそれまでの長期勤続という雇用慣行を使用者側から崩壊させるための主張であり、これをターニングポイントに大きく非正規雇用増へと踏み出したのである。

…にもみられるように、以前から自社型雇用ポートフォリオが長期雇用を放棄するものだというような誤解があるからです。というか、まさにこの場でも團野さんがその所論を持ち出されたのには正直驚きました。
しかし、私の資料には書き込んではいないのですが、95年の『新時代の「日本的経営」』を読み返すと、自社型雇用ポートフォリオに関連して「これまでに確立された長期継続雇用が崩壊する方向にあるとみる向きもあるが、それは正しい理解の仕方ではない」「それ(新しい雇用慣行)は長期継続雇用の重視を含んだ柔軟かつ多様な雇用管理制度」など、長期雇用を引き続き重視する姿勢を明示しています。その上で「雇用調整システムの存在が長期継続雇用の慣行を支えてきた」と述べています(以上引用はpp.30-31)。つまり、使用者側としては引き続き長期継続雇用を大切にしていきたいんだけれど、それを維持するためにはどうしたって非正規雇用、とりわけ雇い止めが可能な有期契約(「雇用柔軟型」)や、一時的な専門性のニーズに即応した「高度専門能力活用型」が必要になってくる。ただ、基本はやはり長期継続雇用=長期蓄積能力活用型であり、やたらに雇用柔軟型を増やすと弊害も大きいから、そこは各社が自社にとって最適な割合を実現するようにしましょう、それは当然産業・企業によって異なるだろうから「自社型」雇用ポートフォリオになるわけです。
つまり、これが長期勤続を崩壊させるための主張だというのは実はまったく正反対で、これは長期雇用を維持させるための主張だったわけです*1
したがって、雇い止めができるからこそ非正規労働が長期雇用を維持するために必要になるのであり、その「雇い止め可能性」を確保するために、「反復更新された有期契約の雇い止めには解雇権濫用法理を類推適用」といった裁判例がある中では企業は3年程度でいったん予防的に有期雇用を終了せざるを得ず、それがかえって非正規労働者の雇用の安定や能力の向上(最長でも3年でいなくなる有期雇用では企業が教育訓練を行うインセンティブが働きにくい)を阻害している、であれば通算雇用期間や更新回数の如何にかかわらず契約期間満了時には一定の手続き(適切な期間をおいた予告や雇い止め時の金銭給付など)のもとに疑問の余地なく雇い止めができるという明確で予測可能性の高いルールにしたほうが、一見保護が後退して非正規労働者に不利なように見えるかもしれないけれど、現実には予防的な雇い止めが回避できて雇用期間が長くなることでかえって雇用は安定するし、4年、5年と勤続する可能性があるのなら企業もそれなりに教育訓練を実施するだろう、したがって非正規労働者にもメリットのほうが大きいのではないか…という報告をしたわけです。…が、はたしてモリタク先生や宮本先生にご理解いただけたかどうか。いやもちろんすでに理解はしているでしょうが、納得や同感はしておられないでしょうか。
そのあとは例によって雇用形態多様化論へと進み、賃金決定についても雇用形態などに応じて異なる決定になるから横断的同一労働同一賃金とかにこだわっても意味はありませんよ、という話になり、その中でも「雇用形態に応じた」の例としてもう一度自社型雇用ポートフォリオを持ち出してみました。ま、ハナから自社型雇用ポートフォリオが諸悪の根源と思い込んでいる石頭な方にはその趣旨は伝わりにくいわけではありますが、この研究会のご参集者の先生方は当然ながらそんなことはないだろうと思いますので。
報告のあとは興味深い質疑応答などがかわされましたが、いずれ議事録が公開されると思いますので、その際にご覧いただければ幸甚です。

*1:これは研究会では申し上げなかったのですが、これがターニングポイントになったかというとこれまたそうでもなく、実はそれまで10%程度だった非正規労働比率は80年代から徐々に高まりはじめ、90年代には20%を上回り、趨勢的に上昇していました。95年の『新時代の「日本的経営」』はこうした状況を事後的に整理・追認したものというのが実態に近いのではないかと思います。90年代前半には比較的緩やかだった非正規比率の伸びが後半には大きくなったのは、むしろバブル崩壊とその後の就職氷河期(1993年以降ですが、雇用の動向は通常少し遅れますので)が「ターニングポイント」になったとみるべきでしょう。