ごく初歩の公共政策に関する原理すら(ry

一昨日の日経から。派遣労働の「目の仇」ぶりは一段と強まっているようですが…。

 自民党細田博之公明党北側一雄両幹事長は十一日、派遣元や派遣先の会社が契約任期満了前に契約社員を解雇する場合、再就職をあっせんするよう法律に明記すべきだと表明した。
 北側氏はテレビ朝日番組で「再就職先のあっせんや住居の問題を法制化すべきだ。派遣先、派遣元の責任をきちんと連携させることは十分ある」と述べた。
 細田氏は記者団に、再就職のあっせん以外の対応策として「(非正規労働者の)住宅については(会社が解雇して)すぐ出ろと言うんじゃなくて、二、三カ月、あるいは次のメドがたつまで認めると義務化してもいい」と強調。対策の扱いは「与野党で調整する。(調整しないと)何カ月もかかっちゃう」と、与野党協議に積極的な姿勢を示した。
 与党は今週中に新雇用対策プロジェクトチーム(川崎二郎座長)を開き、具体的な法整備の検討に着手する。
(平成21年1月12日付日本経済新聞朝刊から)

しかも、この記事の見出しは「契約社員、任期満了前の解雇時 再就職あっせん「法律に明記を」与党幹事長、相次ぎ表明」となっています。うーん。「派遣先」「派遣元」という語がたびたび出てくるということは、これは派遣労働者のことを議論しているのだと思うのですが、見出しも記事もこれは「契約社員」の話だと言っています。「契約社員」というのは一般的に直接雇用の有期契約労働者のことだろうと思うのですが…。実際には派遣社員の労働契約はあくまで派遣会社とのものですから、派遣先が「解雇」するということはありえません。これはおそらく政治家の先生ではなく記者が混乱しているのでしょう(さらに住宅については、細田幹事長が言ってもいない(だろうと思いますが)のにわざわざ括弧に入れて「非正規雇用の」と書いています)。もう少し勉強して、整理して書いてほしいものです。
まあ、それはそれとしても、「派遣先、派遣元」が「再就職をあっせんするよう法律に明記」というのは、気持ちはわからないではないのですが、中期的・全般的にみると、本当に派遣社員一般にとって望ましい政策かどうかは難しいところです。まあ、足元の問題としては、現に派遣を期間途中で打ち切られた労働者にとっては、派遣先・派遣元がこうした義務を負うことはメリットがあるでしょう。ただ、少し長い目でみると、とりわけ派遣先にこうした義務を負わせることは、ただちに派遣契約期間の短期化を招くでしょう。現状では、よほどのことがなければこの先1年なり半年なり働いてもらうことになるだろう、ということであれば派遣先は派遣元と1年なり半年なりの派遣期間を設定するでしょう。ところが、「万一途中解除を余儀なくされた場合は、派遣先は再就職あっせんの義務を負う」ということになれば、派遣先はその「万一」に備えて、1年なり半年なりの契約期間を3か月、1か月に短縮するでしょう(派遣法改正法案が成立し施行されれば30日以下の派遣契約は原則禁止になるわけですが)。「万一」が起こらなければ契約を延長すればいいし、本当に「万一」が起こったら最大3か月、1か月我慢すれば「再就職あっせんの義務」は負わなくてすむわけですから。一般的に、登録型派遣の場合は派遣労働者と派遣元の雇用契約は派遣期間と同じ期間とすることが普通ですから、派遣契約の短期化は雇用契約の短期化につながります。半年の契約が3か月で解約されても、派遣労働者と派遣元との雇用契約は残り3か月続きますが、派遣契約自体が3か月になってしまうと派遣元との雇用契約も3か月で終了してしまいます。派遣労働者の雇用を安定させようと派遣先に再就職あっせんの義務を負わせると、中期的には派遣契約の短期化を通じてかえって派遣労働者の雇用の安定を損ねることになりかねないわけです。
こういうのを見ていると、福井秀夫氏の例の「ごく初歩の公共政策に関する原理すら理解しない議論を開陳する向きも多い」という嘆きにも一理あるという気がしてきてしまいます。まあ、少なくとも日雇派遣の禁止や製造派遣の禁止、あるいは派遣業のマージン規制といった手法に比べれば、まだしも派遣労働者の保護に比較的近い手法なので、その点では多少はマシかもしれませんし、参議院与野党が逆転し、いやおうなく任期満了での総選挙が迫っているなかでは、政治的にはとにかく足元の彌縫策に走るのが「正解」なのかもしれませんが…。