政労会見

きのう、官邸で連合のいわゆる「政労会見」が開催されたそうです。

 麻生太郎首相と連合の高木剛会長は四日、首相官邸で政府と労働側の意見交換の場である政労会見を開いた。高木会長は非正規労働者の契約打ち切りや新卒者らの内定取り消しなどが相次いでいることを踏まえ、緊急的な雇用対策を要請。首相は「できるだけ知恵を絞りたい」と述べ、雇用対策を早急に取りまとめる考えを示した。
 政労会見は福田前内閣のもとで開いた五月以来、七カ月ぶり。高木会長は雇用対策を盛りこんだ今年度二次補正予算案の早期成立を求めるとともに、新卒者の内定取り消し問題で悪質な企業を公表すべきだとの考えを強調した。首相は内定取り消しについて「もってのほかだ」と応じた。
 総額二兆円の定額給付金を巡っては、高木会長が「今回の不況は(定額給付金を)一回だけやって景気がましになる状況よりもっと深刻だ。もっと大きな規模で減税などを考えたらどうか」と指摘。首相は「いい知恵があったら教えてくれ」と述べるにとどめた。
(平成20年12月5日付日本経済新聞朝刊から)

まず首相のほうですが、「もってのほかだ」ですか…。もちろん、隠れているだけで悪質な事例もあるだろうとは思いますが、とりあえずきのうのエントリで紹介した記事によれば「これまで厚生労働省が把握した企業については悪質さは認定できなかった」とのことですし、一昨日のエントリで紹介した記事で桜井経済同友会代表幹事が発言していたように「よほど厳しい企業」がやっているケースが多いのではないでしょうか(「だけ」とまではいえないと思いますが)。「もってのほかだ」と一刀両断するというのは、相手方(連合)に対するリップサービスが入っているにしてもちょっと…。
次に高木会長ですが、「総額二兆円の定額給付金を巡っては…もっと大きな規模で減税などを考えたらどうか」と指摘したとのことですが、できることなら首相もやりたいでしょうから、首相がこれに対して「いい知恵があったら教えてくれ」と言ったのも本音でしょう。
ただ、ここで連合が持参した要請書が連合のホームページにアップされていて、それをみると定額給付金と減税についてはこう書いてあります。

現在政府で検討されている2兆円「生活支援定額給付金」は、中低所得層等への物価上昇分の補填に限定する。

?物価上昇分に相当する家計支援策として、中低所得者層を中心に所得税減税を実施するとともに、生活困窮世帯に対する補助金制度を創設する。低所得層に対する「負の所得税」(給付つき税額控除)の制度創設について検討する。
?所得税の累進性や資産課税を強化し、税の所得再分配機能を高める。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/rengonews/data/20081204yousei.pdf

物価上昇分の給付金給付や減税を行うなら物昇分の賃上げを求めるのは二重取りになるじゃないか、というつまらないツッコミは置いておくとして、中低所得者を重視するのは労働組合としては当然というところでしょうか。「所得税の累進性や資産課税を強化し、税の所得再分配機能を高める」というのも、程度の問題はありますが必要な取り組みではないかと思います(特に資産課税の強化)。再分配はやはり税などで政府が行うべきものであり、最低賃金などで企業にそれを負わせることには慎重でなければならないでしょう(まったく負わせなくてよいというつもりもありませんし、事実上行われてもいますが)。また、給付つき税額控除についても、私はカナダのような制約なしの給付ではなく、米英で採用されている勤労所得税額控除や育児税額控除のように政策目的を持たせたほうが望ましいと思いますが、いずれにしても重要な検討課題ではないかと思います。このあたり、なかなか「いい知恵」があるような。「生活困窮世帯に対する補助金制度」というのが生活保護とどう違うのかはわかりにくいのですが、もう少し給付要件がゆるやかということでしょうか。先日のエントリでご紹介した高齢者雇用に関する会合で、継続就労困難な高齢者については年金給付開始までの間をつなぐ補助金制度を導入することも考えられると発言したら、労側のメンバーに猛反発を喰らってしまいましたが…。
ちなみに雇用保険に関しては「雇用保険の国庫負担を堅持するとともに、雇用保険料率および雇用保険二事業の料率引き下げは当面は行わない」との姿勢を維持しています。前段・後段は議論があるとして、中段の「雇用保険料率の引き下げは行わない」というのは私も妥当な意見と思います。二事業まで入れたのは少し強欲な気はしますが…。まあ、この要請書自体、あれも欲しいそれもよこせこれもくれというかなり広範囲な要請を含む網羅的なもの(当然ながら財源が心配になる)で、これは労働組合ですから致し方ないのでしょうが…。