生活安全保障

きのうの経済財政諮問会議に「「安心」と「活力」を両立させる生活安全保障の確立に向けて」という民間議員ペーパーが提出されていて、雇用問題への言及があります。

1. 雇用を軸とした「安心保障政策群」の再構築

高度成長期には、年功序列的賃金体系の下、特に、大企業を中心に、若年者への人材投資と中高年世代への「後払い式」所得配分が図られてきた。しかしながら、企業を巡る環境条件が変化し(競争や不確実性の増大)、雇用形態が多様化する中で、若年世代に対する人材投資が低下し、同時に雇用の不安定性が増している。「公」が役割を果たすことにより、多様で柔軟な労働市場の構築と若年世代への人材投資の抜本的強化を両立していかなければ、日本経済の未来は開けない。

(1) 経済危機の荒波を最も受けている「非正規等の失業者」

 これまで十分でなかったセーフティネットを高めつつ、訓練や就業へのインセンティブを高めるアクティベーション措置(失業者を積極的に労働市場に戻す措置)を強化する。また、非正規から正規への転換促進や非正規雇用の待遇格差の是正を進める。さらに、労働法制改革についても着実に推進することが重要である。
<具体策>
雇用保険を受給していない離職者に対する、職業訓練中の生活支援給付については、今後3年間の手当てを行うこととなっているが、こうした対応(「雇用・生活保障セーフティネット」)の整備・改善について、財源のあり方を含め今後検討する
・ 業種ごとの職業能力評価と実践的な職業訓練支援の強化(ジョブカードの拡充等)
(注)イギリスやスウェーデンなどでは、近年、若年層・子育て世代に対する社会保障・労働政策・税制の主軸は、高失業率を背景としたセーフティネットによるモラルハザードを防ぐ観点から、労働参加を高める「就業支援」に置かれ、各制度は就業へのインセンティブ付与の考え方が貫かれている。

(2) 働けど働けど暮らしが楽に成らない「子育て・低所得の就業者」

就業や子育てを前提に、「働いても生活がよくならない」世帯について、格差の固定化や少子化を改善するような支援が重要である
<具体策>
子育て・低所得就業者など、ターゲットを絞った負担軽減の仕組みの検討(税制抜本改革の中で検討することとなっている給付付き税額控除等を含む)

(3) 子育てと就業が両立しない「子育て家庭」
就業支援及び少子化対策の両面から、子育て支援対策を抜本的に強化する必要がある
<具体策>
育児休業の拡充(特にゼロ歳児育児のため)、保育サービス整備

(4) 「修学困難な高校生・大学生」
親の所得等によって修学できないことで生まれる格差を放置することは、希望喪失社会につながる。努力によって自己実現が可能となるよう、公立学校の質を向上させて公平な教育機会を確保することはもとより、負担を軽減する必要がある
<具体策>
親の所得の関係で修学困難なものの、勤勉な学生を支援する観点から、授業料免除や奨学金制度の質的充実及び拡大
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0519/item6.pdf

なんか行政の文書にしては石川啄木みたいな文学的な表現が目立ちますが、かえって信頼性を損ねてしまうのではないかというのは余計なお世話でしょうか?民間議員の顔ぶれを見る限りこういう表現をしそうな人はいないので(本当か?)、内閣府の詩心のある官僚が書いたのでしょう。まあそれはそれとして。
「「公」が役割を果たすことにより」というのは、またぞろ日経新聞あたりは気にくわないかもしれませんが、必要な役割は当然果たしてもらわなければいけないでしょう。「法律を作って企業に強要する」という短絡的な役割に張り切られても困りますが…。
そこで内容ですが、アクティベーション措置の強化は必要でしょう(効果に過度の期待は禁物ですが)。ただ、具体策のところに、一般財源で行う3年の時限措置について「整備・改善について、財源のあり方を含め今後検討する」と、わざわざ「財源のあり方」と書いているのは怪しげです。これはさすがに一般財源マターではないかと思うのですが、雇用保険特別会計でやりたいという魂胆が見え隠れ…。
そのあとの「また、非正規から正規への転換促進や非正規雇用の待遇格差の是正を進める。さらに、労働法制改革についても着実に推進することが重要である。」というのは一般論すぎてなんのことかよくわかりませんが、とりあえず具体策がジョブカードの拡充ならそれなりにやる価値はあるかもしれません。こちらも過度な期待は禁物ですが…。
「労働法制改革についても着実に推進」については、その前の「非正規から正規への転換促進や非正規雇用の待遇格差の是正」との関係で、企業に対して必要のない人を雇えとか、仕事がないのに契約を更新しろとか、なんとなく差があるから非正規の賃金を上げろとかいった短絡的な発想でないことを祈りたいところです。企業の内外での訓練・能力開発や、現在の二極化した雇用契約の中間に多様な雇用契約を可能とする規制緩和によって非正規労働者のキャリアを開発し、より付加価値の高い仕事に従事することで待遇も上がり、格差も縮小(「是正」ではない)する、というまっとうな方法を後押しする法改正を期待したいと思います。


(5月26日追記)
このエントリは出張先の空き時間にフェデックスキンコーズのレンタルパソコンで書いていて、時間切れになって途中でストップ(しかもタイトルもなし)してしまいました。で、そのまま放置せざるを得なくなり、かなり見苦しい状況が続いてしまいました。お詫び申し上げます。
ということで、続きを書きたいと思います。


さて次の「働けど働けど」については、表現はともかくとして「子育て・低所得就業者など、ターゲットを絞った負担軽減の仕組みの検討」と、必要な人に必要な支援、という考え方になっているのは好ましいと思います。給付付き税額控除ももちろんいいのですが、その前でアクティベーションを強調しているのですから、ここはやはり「勤労所得税額控除」であってほしいところです。それがいちばん「子育て・低所得就業者」にピンポイントで利いてくる効率的な方法だと思います。
「子育て家庭」について、保育サービス整備はもちろん重要ですが、「育児休業の拡充(特にゼロ歳児育児のため)」というのがよくわかりません。現行制度でも1年(以上)取得できるのですから、ゼロ歳児育児の期間をカバーすることはすでに可能だと思うのですが…。あるいは、ゼロ歳児期間は両親が同時に取得可能にしようということでしょうか。
最後の「修学困難な高校生・大学生」については、「公立学校の質を向上」というのも大切でしょうが、小中学校(これはこれで一段の努力は必要ですが、改善の余地という意味で)に較べると限界はありそうです。となると、どうしても「授業料免除や奨学金」という金銭支援になるわけですが、「親の所得の関係で修学困難なものの、勤勉な学生」の「勤勉な」というのが悩ましい。「学業優秀な学生」であれば試験を実施して測定できますが、「勤勉」の測定は難しいからです。まあ、授業に皆勤(に近く出席)すれば「勤勉」だ、という緩い定義でもいいのかもしれませんが、税金の使い道として本当にいいのかどうか…。あえて「勤勉な」とした気持ちも情においてまことにわかるものがあるだけに、悩ましいところです。