雇用保険部会

政府・与党の追加経済対策「生活対策」に盛り込まれた雇用保険料の引き下げを進めようということか、昨日、労政審雇用保険部会が開催されたとのことで、日経新聞にそのもようが報じられています。

 厚生労働省は十一日、労働政策審議会厚労相の諮問機関)の雇用保険部会を一年ぶりに開き、失業者への給付のあり方の見直しや保険料率引き下げなどの論点を提示した。年末までに結論を出す。社会保障費の自然増圧縮の財源として浮上している雇用保険の国庫負担の削減については、労働側が強く反対した。
 失業給付を受けるには離職前二年間に保険料を一年以上払っていることが必要。倒産、解雇を理由とした離職なら、離職前一年間に六カ月以上が条件となる。
 ただ実際には雇用情勢の悪化で非正規社員を中心に雇い止めが増えており、雇用保険の適用対象から漏れ失業給付を得ていない。労働側から「非正規社員セーフティーネットを拡充すべきだ」との声が相次いだ。
 総賃金の一・二%を労使で折半している雇用保険料率の引き下げを巡っては、厚労省が政府の追加経済対策に盛った一年に限り最大〇・四%引き下げという案を提示。この日は労使から賛否の具体的意見は出なかった。
 雇用保険の国庫負担問題では、労働側が「国庫負担削減の話まで議論するなら、今後の審議に参加しない」とけん制した。
(平成20年11月8日付日本経済新聞朝刊から)

ふーむ、料率引き下げには「労使から賛否の具体的意見は出なかった」ですか。先日もご紹介しましたが、連合は事務局長談話で反対を表明していたはずですが…。経営側がどう出るかも注目されるところです。連合も主張するとおりで、普通に考えて、これから雇用失業情勢が悪化するときに雇用保険の料率を下げたり積立金を他用途に流用したりするのは愚策であり、いったん下がった料率が結局また上がるということになれば企業も事務コストが余計にかかりますから、それほどありがたい話でもないような気がしますが…。そういえば、積立金流用の話は出なかったのでしょうか。ちなみに、連合が有力な支持母体となっている民主党の「経済・金融危機対策〜「生活第一」で将来を切りひらく〜」には、さすがに雇用保険料引き下げなどは含まれていないようです(もっとも、全体をみると農業の戸別所得補償制度など、雇用保険料引き下げよりもっと筋の悪い内容がいくつも含まれているようではありますが…)。
非正規社員セーフティーネットを拡充すべき、との主張は、これからさらに非正規雇用の雇い止めなどが増えそうな情勢であることを考えれば妥当な意見と申せましょう。ただ、それをどこまで雇用保険の枠組みでやるのがいいのか、という点では議論がありそうです。雇用保険でやるとすると、その原資は労使が負担した保険料ということになります。まあ、労働側からそうした意見が相次いだということですから、労働サイドとしては労働者が負担した保険料が非正規雇用セーフティネットとして再分配することを容認した、ということなのでしょう。実際、正社員の雇用の安定は非正規雇用のフレキシビリティの上に成り立っていることは否定しようがないわけですから、正社員にそれなりの負担を求めることは妥当といえるかもしれません。経営サイドにしても、こうした人事管理を採用することで受益しているのであれば、やはり一定の負担はあってしかるべきとも考えられましょう。このあたりはよく議論してほしいところです。
雇用保険の国庫負担の削減については、労働側が「国庫負担削減の話まで議論するなら、今後の審議に参加しない」という強硬な姿勢をとっているようです。まあ、雇用保険の国庫負担は「国として失業対策に責任を持つ」ことの表明であるという説明がされているようですから、これの削減に対して連合が「国は失業対策の責任を放棄するのか」と憤るのはわからないではありません。
ただ、失業手当に国庫負担があるのは先進国ではむしろ例外に入るわけで、なにも国庫負担がないから国は責任を負わないということでもないでしょう。国庫負担の削減がそのまま保険料負担にはねかえるということなら労使とも反発するのは当然ですが、国庫負担の存在が必ずしも直接的な失業者へのセーフティネットとはいえない政策的支出(育児休業給付など)を正当化してきた側面もあります。雇用保険は失業保険に特化して保険料負担が増えない範囲に整理し、その他の事業は続けるなら別途一般会計で予算を確保する、ということであれば、検討の余地は十分にありそうに思われます。