KYな議論

きのう、18日に行われた第83回労働政策審議会雇用均等分科会の議事次第が厚生労働省ホームページにアップされました。議事要録はまだなので議論の内容はわからないのですが、配布資料をみる限り、「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会報告書」の内容をベースに議論されているのでしょう。
この報告書は以前も取り上げましたが、それほど多くの内容を含んでいるというわけではありません。私の主観的な受け止めですが、大きなものとしては次の2つで、あとは制度の使い勝手をよくしたり、意識啓発を行ったりといった内容が多くなっています。

  1. 育児休業後に、保育所等との送り迎えが可能となるような短時間勤務ができるようにする(3歳まで義務化)。
  2. 男性の育児参加、特に育児休業取得を促進するためのインセンティブづくり(育休期間の延長など)。

以前のエントリでも書いたように、従来の「仕事と家庭の両立」という考え方からはかなり逸脱した内容も多いのですが、それでもなお、研究会メンバーをみれば想像がつきますが、内容的にもかなり現実的なものになっているといえるようには思われます。短時間勤務の義務化は影響が大きいでしょうが、これには「「事業の正常な運営を妨げる場合」等、事業主が労働者の請求を拒否できる場合を認める」といった発想がきちんと入っていますので、現実には影響の小さい方向におさまるものと思われます。
それでもなお、今回の均等分科会の議論にはどうも違和感を覚えざるを得ません。なぜかと考えると、2点ありそうです。
一つは、育児支援、仕事と家庭の両立は、昨今のワーク・ライフ・バランス論議の盛り上がりを見るまでもなく注目のテーマであり、多くの企業が労使の協議を通じて法定を上回るさまざまな施策を実施している、という点にありそうです。つまり、今回の内容も、本来ならば各企業労使で、みずからの実情に応じた施策を労組が要求し、交渉し、経営が回答する、といった形で拡がって行き、ある程度世間で普及した段階で法制化していく、というのが取り組み方としては正論なのではないでしょうか。こうした一律に法で規定するやり方は、こうした労使の知恵を阻害し、全体の効率を削ぐように思われます。まあ、行政にしてみれば、少子化対策は待ったなし、政治的な要請も強いし…という事情もあるでしょうが…。
もう一つは、これは現場の人事担当者に共通の感覚ではないかと思うのですが、特に男性の育休促進の議論などは、昨今流行の表現(私はあまり好きではないのですが)でいえばいかにも「KY」な印象を禁じ得ません。なかなかうまく表現できないのですが、この報告書は基本的に「仕事なんか休んで育児をしましょう」という発想が非常に強いのではないか、と思うわけです。もちろん、長時間労働の抑制は大切なわけですが、そうでない場面まで含めて「働くな、休め」と言われてしまうと、人事担当者としてはやはり抵抗がある。とりわけ、現在はリーマン・ブラザーズワシントン・ミューチュアルが破綻するような非常時なわけで、経済全体としてみればしっかり働かなければならない局面でしょう。そういうときに「仕事なんか休んで育児をしましょう」などと言われると、いかに「少子化対策は待ったなし」とは言われても反射的に「なにを呑気に寝言を言っているのか」という反応になってしまうのではないでしょうか。これはコストアップとか規制強化とかいうものへの反対ではなく、ものの考え方、価値観として受け入れにくい、ということです。逆にいえば、経営状態が良好で人手の確保に苦労しているような状況であれば、こうした施策も比較的抵抗は少なかったように思うのですが。