経産省、異例の賃上げ要請

週末の報道から。経済産業省が検討している日本経済の中期戦略の原案が明らかになったのだとか。

 日本経済の中長期的な成長力を高めるための「青写真」として、経済産業省が打ち出す新経済成長戦略の原案が明らかになった。原油など資源高への耐久力を高め、新興国などの外需を取り込む輸出や投資の促進が柱。省エネ対応を促す設備投資減税などの具体策を盛り込んだ。二〇一五年度までに物価変動の影響を除いた実質ベースで国民総所得(GNI)の年平均二・四%の伸び確保をめざす。

 今回の新戦略の副題は「ピンチをチャンスに変える」。(1)少ない資源でより大きな付加価値を生み出せるような「資源生産性」の抜本的向上(2)中東やロシア、豪州などの高成長の恩恵を最大限享受するための「グローバル化」の徹底――の二本柱を新たな基本戦略として盛り込んだ。
(平成20年9月9日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

で、資源生産性のほうは具体的にこういうことのようです。

 省資源化対応の具体例の一つが、設備投資減税による省エネの集中投資。例えば、石油コンビナート内の複数の企業が熱効率の悪い旧式ボイラーを共同で廃棄し、熱効率の優れた最新鋭設備を導入する場合に税制上の優遇措置を受けられるようにする。
 現在は単一企業による単一設備の入れ替えを目的とした税制上の措置が多いものの、複数の企業の業種間連携による省エネ化などの取り組みを後押しする。
 太陽光発電の設置支援や、港湾のコンテナターミナルの二十四時間オープン化などの物流効率化策も明記。…

グローバル化」のほうはこうです。

 もう一つの柱であるグローバル化への対応では資源国や新興国向けに輸出を増やすだけでなく、日本企業の海外現地法人による所得を国内に還流させることや、海外の投資資金を呼び込む必要性を強調している。
 海外投資家が日本に拠点を置くファンドを通じて日本企業に投資しやすくするファンド税制の導入や、日本企業がリスクの大きな資源国・新興国に投資しやすくするための投資協定の締結加速などを列挙。中小企業の海外進出も促している。

産業政策はよくわからないのでそんなものかなあと思いながら読むしかないのですが、実は記事の途中省略した部分、資源生産性に関する部分の「物流効率化策も明記。…」の「…」のところに、こういう記述があるのです。

 賃金が伸び悩む中で消費者物価が上昇し家計の購買力が低下しているため「大企業を中心に賃金アップを働きかける」と、異例の“賃上げ”も求めている。

とりあえず、賃金アップがどういう理屈で「少ない資源でより大きな付加価値を生み出せるような「資源生産性」の抜本的向上」に結びつくのかがまことに不可解ですが、これは記事のアヤということもあるでしょうし、オリジナルを見てみないことにはなんともいえないところかもしれません。
それはそれとして、たしかに政府の経済戦略で「賃金アップを働きかける」というのはまことに異例と申せましょう。普通に考えれば、経済成長→業容拡大、人手不足→賃金上昇というのが正常なプロセスのはずで、もちろんそれが購買力アップを通じてさらなる経済成長に結びつくというのが望ましい循環であるにしても、産業政策的には所得向上は結果であり、さらにいえば目標であるべきなのではないでしょうか。
まあ、経済産業省としては、今回の景気回復局面の状況をみて、経済成長から賃金上昇につながるパスが機能不全になっていて、好循環が回らなくなっているのではないか、という問題意識を持っているのかもしれません(記事をみる限りでは物価上昇に短絡的に反応しているようにみえますが)。ただ、それは企業に賃上げを要請すればすむ話ではなく、このブログでも繰り返し書いていることですが、企業が賃上げをできない阻害要因を取り除いてやることが必要になるでしょう。