東洋経済「給料はなぜ上がらない!」(1)

職場で「東洋経済」の3月29日号が回覧されてきました。表紙に大書された特集のお題は「給料はなぜ上がらない!」。
本文を読むと、まずは「…日本の民間給与総額は実に8年連続の減少だ。年初からはサブプライムローン問題で変調したが、現在の景気拡大期間は「いざなぎ景気」を抜いて戦後最長の6年に達し、企業収益も5年連続の増益を記録している。本来なら、これで給与が上がらないほうがおかしい。ところがこの間、企業は獲得した付加価値の配分の比率を大幅に変えてしまった。賃金として労働者に配分する比率(労働分配率)を大幅に減らし、代わりに株主への配当や内部留保への配分を拡大させたのだ。…労働サービスは人間の唯一の生活の糧であるという意味では、特殊な財・サービスだ。その価格が長期間低下している事実は、日本社会が激変していることを示す。」と世間でありがちな論調を紹介し、続けて「果たしてこれらは本当だろうか。」と切り返しています。そして、「給料はなぜ上がらない」のか、6つの仮説を提示しています。
具体的には、第一が輸入品の増加は間接的に労働力の輸入増であり、労働力が供給過剰になって価格が低下しているというもの。第二が、社会保険料の事業主負担などが増加していることで賃上げの原資が圧迫されているという、経団連のいわゆる「総額人件費」論。第三がIT革命で非熟練労働の需要が減っているというもの。第四が原油など輸入品価格が高騰したことで所得が海外移転し、その分賃上げの原資が縮小しているというもの。第五は納入価格の引き下げを求められている中小企業にはもう賃上げの余地はないというもの。そして最後に比較的低賃金の非正社員が増加して平均を引き下げているというのがきます。第五の仮説は必ずしも給料が上がらないことの説明にはなっていないような感はありますが、中小企業の労働分配率がむしろ高止まり気味なのは事実ですし、ほかにも個別には疑問の点はいくつかあるものの、全体として想像以上に事実ベースの冷静な記事になっているように感じました。
で、いくつか対策も論じられていて、第三の仮説については産業の高度化とうまくマッチした教育によるスキル向上、第五の仮説については中小企業の納入単価の引き上げ、第六の仮説については正社員より非正規労働者を優先した賃上げに言及されていますが、それほど力説されているという感じはありません。「企業経営者は「将来不安が強い中、賃金を上げても貯蓄に回る」と主張するが、年収300万円以下の賃金底上げは確実に消費に寄与する」という記述は、なかなか重要な指摘ではないかと思うのですが。
同じく、淡々と書かれているのでこちらも読み過ごしてしまいそうなのですが、「グローバルな製造業では海外事業が成長すれば、現地での再投資や人材確保に優先的に資金を振り向けるため、国内の労働分配率は低下しやすいとの指摘も多い。長期的にグローバル化が日本の賃金にどんな影響を与えるかは慎重な検証が必要だが、短期的には労働分配率の低下につながりやすいことは、企業の労使とも認識しているといえる。」との記述も重要なのではないでしょうか。企業経営はそれなりに中長期的な観点も踏まえて行われているわけで、給料を上げるというのも従業員の意欲・能力の向上を意図した一種の投資という側面もあるわけです。となると、給料を上げてリターンがどれだけ見込めるかというのが経営の観点からはおそらく重要で、短期的には景気が拡大しているのかどうか、中長期的にはわが国の潜在成長率、成長力がどのくらいあるのか、ということが大切になるのではないでしょうか。こう書くと、だから成長のためには賃金の引き上げが必要なのだ、という堂々巡りになってしまいがちですが、そこは政策の出番で、適切な経済・金融政策によって潜在成長率を高めることができれば、賃金も上がりやすくなるのではないかと思うのですがどんなものなのでしょうか。