キャリア辞典「人間力」(2)

「キャリアデザインマガジン」第77号のために書いたエッセイを転載します。7月15日のエントリの続きです。


人間力(2)


 「人間力」の経済財政諮問会議における初出は、平成14年5月13日に開催された平成14年第12回経済財政諮問会議に提出された民間議員ペーパー「経済活性化戦略中間整理とりまとめに当たって−6つの戦略、25のアクションプログラム−」らしい。その中で、経済を活性化するための6つの戦略として「技術力、人間力、経営力、産業発掘、地域力、グローバル化」が示されていて、「人間力戦略」は具体的には「大学の中の人材、日本的経営システムの中で十分に能力を発揮していない人材を活用するとともに、日本の明日を担う多様な人材の育成に今から着手する。」となっている。そのアクションプログラムとしては「大学改革」「時代の要請する人材育成」「個性ある義務教育」「生涯現役社会を支える労働法制、社会保障制度等の整備等」「挑戦者支援」があげられており、さらに重要施策例として「大学改革(競争的大学環境造り)」「新分野人材育成倍増」「IT国民皆教育」「障害者の自立支援」が示されている。
 この回の議事録をみると、この民間議員ペーパーは当時の吉川洋議員が説明していて、人間力戦略については「技術にしても、あるいは、それをニーズに結びつけるにしても、元にあるのは人間だということで、去年の小泉内閣の基本方針、いわゆる「骨太の方針」以来、広い意味での知恵、あるいは人間というのが結局は経済の一番底にあるものだということを言っているわけです。ここではそれを「人間力戦略」という形で表現して、大学の改革、新分野の人材育成倍増、ITの国民皆教育などが特に重要だということで述べております」と説明されている。現時点での「人間力」の印象とはずいぶん異なってみえるのではないだろうか。
 また、当時の小泉純一郎首相もこれにふれて、「要するに人が大事であって、日本というのは資源がないけれども、ここまで発展したのは人材、新しい言葉で「人間力」という言葉を使いましたけれども、学校においても、企業においても、政治にしても、結局は人」と述べ、「いかに人間が大事か、人材が大事か」「人の能力、魅力が大事か」など、「人の大事さ」を繰り返し強調した。これは結局「経済発展に資する優れた人材」といったくらいの意味であろう。これがさらに詳細な定義を得るのは、翌年の内閣府の「人間力戦略研究会」の報告書を待たなければならない。