キャリア辞典「人間力」(1)

「キャリアデザインマガジン」第76号に掲載したエッセイを転載します。

人間力(1)
 いったい、「人間力」とはなんだろう。この小文を書くために、「人間力」をGoogleで検索してみた(平成20年7月7日7:00)。すると、100万件強がヒットした。これが多いか少ないかわからないが、報道などで頻繁に用いられる「国際競争力」がやはり100万件強のヒットなので、それなりに多いのだろう。
 それはそれとして、面白いのは「関連検索」の2番めに「人間力 定義」というのが表示されることだ。そのくらい、「人間力」ということばの定義ははっきりしていないのだろう。
 いきなり余談になるが、Google検索の「関連検索」は最初に「人間力 サッカー」が出てきた。これはアテネ五輪サッカー日本代表山本昌邦氏がこの語を好んで用いたことによるらしい(ちなみに「関連検索」の4番めはそのものずばりの「人間力 山本昌邦」だ)。アテネ五輪ではサッカー日本代表は予選リーグBで最下位となって決勝トーナメント進出を逃すなど成績がふるわず、サッカーファンの間では「人間力」は山本氏を揶揄する意味合いで使われることが多いのだとか。
 さて、日本経済新聞社の新聞記事データベースサービス「日経テレコン21」で調べてみると、この語が頻繁に用いられるようになったのは2002年に経済財政諮問会議が「人間力戦略」を取り上げてからのようだ。この時期には、当時ノーベル化学賞を受賞した野依良治氏が、研究者の資質としてしきりに「人間力」を強調していたので、それがヒントになったのかもしれない。それ以前はというと、スポーツ関係、それも高校野球の関係が目立っている。野球の技術だけではなく不屈さやねばり強さといった精神面、さらには礼儀や生活態度といったものも大切だ、といったような意味らしい。サッカーに限らず、「人間力」はスポーツ関係者に好まれる用語であるらしい。
 いっぽう、amazon.co.jpで「人間力」をキーワード検索すると、2002年以前に出版されたものだとビジネス関連書と教育関連書が多いようだ。こちらはその内容まではわからないが、書名に「人間力」を含むものを抜き出すと『衰退する子どもの人間力―「学級崩壊」にどう対応するか』『人間力を創る教育―沖縄尚学の挑戦』『リーダーシップ人間力の鉄則―部下の心に火をつける21の資質』『本物の生き方・人間力の経営』などがある。そういえば、沖縄尚学はスポーツ強化にも熱心ではなかったか。
 いずれにしても、経済財政諮問会議が「人間力」を提唱するまでは、「人間力」は「優れた人間性」といったものをなんとなく指す、あいまいで幅広い概念として、使う人がそれぞれに都合のいい意味で使っていたことばであったようだ。


…ということで、経済財政諮問会議での議論や、内閣府の「人間力戦略研究会」についての紹介は次回以降になります。これらについてコメントされたい方(いるのか?)は、それまでお待ちいただければ幸甚です。