高卒初任給を目安に最賃引き上げ

「成長力底上げ戦略推進円卓会議」で、最低賃金を高卒初任給並みに引き上げるという合意が成立したのだとか。

 政労使が参加する政府の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」は20日の会合で、地域別に決めている最低賃金を2012年度までに「高卒初任給」を目安に引き上げることで合意した。中長期的に引き上げていく方針を確認し、賃金増のすそ野を大企業から中小企業に広げる。ただ、目標とする具体的な引き上げ額については意見が分かれている。
 最低賃金は地域別に国が目安を定め、決められた水準を上回る賃金で雇用することを経営者に義務付けている。07年度の最低賃金は全国平均で時給687円。
(平成20年6月21日付日本経済新聞朝刊から)

日経は22日の社説でこの問題を取り上げましたが、それによると「労働組合側は、従業員10-99人の企業の高卒初任給1時間当たり「755円」を主張した。2007年改定後の全国平均の最低賃金687円を68円上回る」「中小企業団体の代表は難色を示し、中小企業基本法の「小規模企業者」の定義に合わせて「20人以下」の企業を指標に採用すべきだと主張した。この規模の初任給調査はない」のだとか。まあ、今後労働政策審議会に場を移して労使の折衝が続くということでしょう。平成19年賃金構造基本統計調査結果(初任給)によれば、「従業員10-99人の企業の高卒初任給」は154.7千円となっていて計算が合わないのですが、「高卒初任給の最低水準」に合わせるという報道もあり、賃金構造基本統計調査は初任給の第9・十分位と第1・十分位を公表していますので、小企業の第1・十分位を採用したのかもしれません(ウェブ上では規模別の十分位値は公表されていないようなので、確かなところはわかりません)。
ちょっと気になったのがなぜ「高卒」なのか、というところなのですが、実はこの賃金構造基本統計調査では、数年前までは中卒の統計もとっていたのですが、近年は中卒のデータがないのですね(裏をとったわけではないので実際にはあるのかもしれませんが、どうやら平成15年に産業分類が変更になった際に中卒の調査はやめたもよう)。まあ、高校などの後期中等教育への進学率は97%を超えているのだから、中卒のデータの必要性は低いだろうという考え方もありうるでしょうが、こういう文脈になると、中卒にも適用される最低賃金において高卒のプレミアムは本当に考慮されなくていいのか、というのが気になるところではあります(ちなみに平成15年の初任給は高卒152.9千円に対し中卒146.7千円とけっこうな差があります。http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-rou4/jikei/jikeiretsu-2.xls)。気にするほどのことではないんでしょうかねぇ。
あと、初任給というのは、調査の定義によると「通常の勤務をした新規学卒者の所定内給与額」ということらしいのですが、まず正社員が念頭におかれていると考えていいでしょう。ということは、非正社員にも適用される最低賃金において、比較的高度な仕事に従事することが多いだろうと思われる正社員(傾向としてであって、当然ながら個別のばらつきは存在する)のプレミアムは考慮されないのか、という疑問もあります。ただ、わが国の長期雇用慣行においては、新卒者は未熟練が前提なので正社員と非正社員の職能には差はないとの考え方もできるわけで、であれば正社員の初任給にあわせるのが同一職能に同一賃金でいいのではないか、という考え方もありえなくはないのかもしれません。現実には、正社員と非正社員には初任給には表れない「賞与」でかなりの差があることが多いので、そこの部分に正社員のプレミアムが事実上現れていると思っておけばいいのかもしれません。
いずれにしても、高卒初任給を目安にするという考え方はありうるにしても、それほど筋のいい発想という感じもしませんので、当面の中期的な引き上げ局面においては考慮するにしても、その後はあまりこだわらずに考えていくことが望ましいのではないかと思います。