育休主夫のために本当に必要なこと

一昨日のエントリとの関連で、日経ビジネスオンラインに今日掲載された記事をご紹介したいと思います。お題は「父の日、「オトコの育児」を考えてみませんか−“育休主夫”になって働き方を変えた父親」です。

 もうすぐ父の日。子育てを楽しむ若い父親が増えてきたとはいえ、男性の育児休業取得率は依然として1.56%(厚生労働省「平成19年度雇用均等基本調査より)と低水準。制度はあっても職場の理解が得られないことや、「育休を取ると出世コースから外れる」という不安が、この数字に表れている。
 しかし一方で、育休をきっかけに働き方を変え、子育てと仕事を両立させている男性もいる。2008年1月から3カ月半の育休を取得したNTTデータ法人ビジネス推進部(当時。現在は人事部)の堀川佐渡(ほりかわ・さど)さんもその1人。共働きの妻の産休・育休明けから、生後3カ月の次男の育児と家事をバトンタッチされた。

 しかし、復帰後の働き方はどうするのか? 入社以来10年以上営業職にいた堀川さんの本音は、「スピードを求められるIT(情報技術)の現場で、育休を取って3カ月半後に復帰することに対して、全く不安がなかったわけではない」だった。妻と同様、主体的に育児に関わりながらも、やりがいのある仕事を続けたい。「育休を取ったという経験を、キャリアのプラスとして生かせないか」。
 そこで思いついたのが、人事部ダイバーシティ推進室への異動だった。…そうなると育休は武器になる。男性で育休を取り、ワークライフバランスダイバーシティーを推進する仕事をする人材は希少価値だ。「育休を取ろう」「働き方を変えよう」という言葉にも説得力が生まれる。
 堀川さんは育休前に人事部に異動願いを出し、幸いにも認められて、復帰と同時にダイバーシティ推進室へ異動した。復帰後もほぼ毎日定時に退社し、次男を保育園に迎えに行って帰宅する生活を続けている。

 しかし堀川さんのように働き方を変えるのは、そう簡単なことではないだろう。彼自身も、営業時代は仕事が楽しくて、「そこまでやらなくてもいいのに、というくらい過剰に働いていたことがある」と語る。…
 生活のために働かなければならない、業績が厳しくて長時間労働になっているなど、やむを得ない事情があるのは承知している。ただ、自己実現のためや、結果がついてくる楽しさから仕事を優先しているのであれば、「今のまま仕事を続け、自分はこういう父親でありたいとか、子供にはこんなふうに育ってほしいという思いが実現するとか、一度じっくり考えてみてもいいのではないか」と提案する。その際には必ず妻と話し合い、お互いが抱く望みや将来像を確認することが大切だ。
 堀川さんは、子供の手が離れたら、また営業に戻るという選択肢もあると考えている。何といっても育児は期間限定だ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20090617/197834/

まあ、ダイバーシティ推進室も「育休主夫」を10人も20人も受け入れるわけにはいかないでしょうから、この人はかなり幸運に恵まれたと言っていいでしょう。それでもなお、営業のプロフェッショナルとしてのキャリアは中断しているわけですから、キャリアと引き換えに「今のまま仕事を続け、自分はこういう父親でありたいとか、子供にはこんなふうに育ってほしいという思いが実現する」ということを取った、という選択をしたわけです。
育児はしたい、でもキャリアは育児をしない場合と同じように獲得したい。そう思う気持ちはわかりますし、現実にそれをやってのけてしまう猛者も少数ながらいることも事実でしょう。しかし、多くの場合は、育児をしたいのであれば、キャリアの部分で失うものが出てきてしまう。何をとって、何をあきらめるのか、それがキャリアデザインというものなのではないでしょうか。実際、女性の育休取得者はそうした選択を行っているわけで、男性だって同じように考えて決めればいいだけの話なわけで。
そういう意味では、男性の育児休業(男性に限るのも変な話なのですが、社会の実情をふまえた言い方として)がどんどん増えてくるのであれば、ダイバーシティ推進室への異動といったイレギュラーな対応ではなく、各職場で、育児が可能な働き方ができ、かつキャリアも多少は遅れながらも伸ばしていくことができる、そうした仕事を増やし、組織体制を整備していくことが本当は大事なのではないかと思います。また、それにあわせて、本人自身は「キャリアは遅れたかも知れないけれど、その代わりに育児からいろいろなものを得ることが出来たから、自分はこれで幸せだ」とか、あるいは周囲も「あれはあの人なりの立派な生き方だ」といった前向きな評価ができるような意識の変革が求められるのではないかと思います。