キャリア辞典「ダイバーシティ」(6)

「キャリアデザインマガジン」第74号のために書いたエッセイを転載します。


 ダイバーシティ(6)


 近年、わが国では、性別や年齢、国籍といった働く人の属性の多様化に加えて、非正規雇用の拡大にみられるように、働き方の多様性も高まっているといえるだろう。もっとも、それらを統合した人事管理の体系としての「ダイバーシティ・マネジメント」は、まだまだ普及していないというのが実情のように思われる。ダイバーシティに関する比較的新しい調査として(株)三菱総合研究所経済産業省からの委託で2007年に実施した「高度外国人の活用方針と実態に関する調査」があるが、その結果をみると、ダイバーシティに関する基本方針について「以前から重要課題として取り組んできている」が4.7%、「喫緊の課題として目下積極的に取り組み中である」が6.7%となっており、あわせても11.4%に過ぎない。「中長期的な課題として受け止めている」が37.2%あるが、「とくに課題として認識していない」が38.9%と最多となっている。
 また、具体的な取り組みをみると「インターンシップの受け入れ」が32.5%で最多、次いで「障害者の法定雇用率の達成」が31.8%、続いて「採用時期の複数化」が25.9%、「中途採用の年齢制限の非設定」が24.6%、「オープン採用の実施」が24.1%となっており、比較的高い実施率となっている。いっぽう、より高度なダイバーシティ・マネジメントに関わる「女性社員・女性管理職比率の目標設定」や「ダイバーシティ委員会・検討会等の開催」、「ダイバーシティ関連研修の実施」といった施策となると、それぞれ3.7%、2.7%、1.5%ときわめて低い実施率にとどまり、上記でダイバーシティに積極的に取り組んでいると回答した11.4%の企業においても、それぞれ15.2%、19.6%、10.9%と低率である。経済産業省はこの調査結果を紹介した報告書において、日本企業のダイバーシティ・マネジメントについて「女性を含め、多様な人材の能力を最大限に引き出し、活用していこうという社内的な意識統一まで到達している企業は極めて少ない」と結論づけているが、それが実態なのだろう。
 もっとも、歩みは遅いながらも進んではいるようだ。今年(2008年)3月31日付日本経済新聞によれば「最近、日本の大企業で「女性活躍推進室」を「ダイバーシティ(多様性)推進室」へと変更する例が相次いでいる」という。記事は続けて「多様な人材を生かし企業の活力につなげる「ダイバーシティマネジメント」の考えは米国で生まれ、日本ではまず女性活用から始まった。その対象が外国人や高齢者、若者、障害者などに広がりつつある。女性などに雇用機会を均等に与えるのが第一段階。それが今や、多様化する市場に対応しグローバル競争を勝ち抜くために多彩な人材を生かす、第二段階を迎えた。」と述べている。紹介されている事例は日産自動車松下電器日本アイ・ビー・エムなど、おなじみのあの会社、この会社なのは残念といえば残念だが、こうした記事が出ること自体、事態は少しずつ進展しているということだろう。
 今後、一段の高齢化と人口減が避けがたいとされるわが国では、多様な労働力の活用の巧拙が企業経営のパフォーマンスに結びついていく可能性がある。いっぽうで、非正規雇用など働き方の多様性に対する政策的関心が高まっている現実もある。こうした中で企業の人事管理がどう展開していくのか、注目されるところだ。