春季労使交渉回顧(4)

引っ張りますが(笑)、春季労使交渉回顧をもう1回続けます。まず、マスコミ各社が「重要」と指摘した中小企業について、連合は今年も「中小共闘」を組織して取り組みました。

 連合は21日、中小企業の労働組合で組織する中小共闘の平成20年春闘の妥結状況を発表した。月例賃金の1人当たり平均引き上げ額(単純平均)は、定期昇給相当分を含めて5782円と前年比で290円増え、引き上げ率も2・22%に達し、前年の伸び率(2・10%)より0・12ポイント上昇。円高、原燃料高で経営環境が厳しくなる中、昨年を上回る結果となった。
 調査は組合員数が300人未満の中小企業労組232組合の妥結結果を集計した。商業流通で引き上げ率が0・3ポイント上昇(756円増)し、製造業も0・11ポイント上昇(264円増)するなど昨年以上の成果を出した。

 同日会見した連合の高木剛会長は「1ドル=95円台となるなど交渉状況が厳しい中、頑張った」と評価。ただ、大企業も含めた平均賃金改定第2回集計は、前年実績より168円増にとどまったことから、「内需個人消費が改善するレベルではない。経営側にはもう少し対応してほしかった」と述べ、今春闘の主要テーマであった格差是正には至らなかったとの認識を示した。
(平成20年3月22日付産経新聞朝刊から)

内需個人消費が改善するレベルではない。経営側にはもう少し対応してほしかった」というのがなぜ「格差是正には至らなかったとの認識」なのか理解に苦しみますが、まあ別のところでそういうことを言ったのだろうと推測しておきます。それはそれとして、今年でたしか5回めになる「中小共闘」ですが、そもそも一定の回答を引き出せる労組しか参加していないのではという指摘はとみにあるものの、それなりに着実な成果を上げているといえるのではないかと思います。高木会長も指摘するとおり、労使に逆風の吹いている今年は、とりわけ共闘の効果があったとみてよいのではないでしょうか。もっとも、中小企業の中には人手不足に苦心している例も多いですから、人手確保の必要性から賃上げが進んだという面もありそうです。
連合が力を入れているパートタイマーの待遇改善についても一定の成果があったようです。

 連合がまとめた春闘の21日時点でのパートの時給引き上げ額は19・68円(妥結49組合平均)で、前年同時期より4・18円増えた。正社員への登用制度は、要求した253組合のうち154組合で前向きの回答を得た。交通費や慶弔休暇の改善でも成果があり、「格差是正の必要性が浸透しつつある」と評価している。
 パートの時給引き上げ額は、平均的な労働時間の人だと月3千円近い賃上げに相当し、経営側も格差是正に一定の配慮を示した格好だ。高木剛会長は「労組に入っていないパートにも波及効果が出てくる」と語った。
 交通費の正社員並み支給は、要求した94組合のうち73組合で、慶弔休暇の確保は93組合のうち55組合で前進があった。パート共闘会議の桜田高明座長は「前年以上に改善が進みつつある」と話す。
(平成20年3月22日付朝日新聞朝刊から)

朝日では「格差是正の必要性が浸透しつつある」「経営側も格差是正に一定の配慮を示した」ですか。どっちが本当なんでしょうか。それはそれとして、パートタイマーは依然として求人倍率も高いので、基本的には労組には追い風の交渉だといえましょう。また、交通費や慶弔休暇などで前進しているというのもご同慶です。もっとも、パートタイマーは職住近接のニーズがとりわけ強いわけなので、現実に支給する割合はそれほど高くならないでしょうし、通勤に多くの時間をさけないパートタイマーに通勤を求めるのであればその交通費は企業が支給するというのももっともな話だろうと思います。また、慶弔休暇についても、そもそも時給制で労働時間の柔軟性の高いパートタイマーがわざわざ「慶弔休暇」を取得するというのもどれほどあるのだろうという気もしますが、こちらは近年では基幹的職務に組み込まれてそうそう簡単に休むこともできないパートタイマーも増えているようなので、一定のニーズはあるのかもしれません。
中小企業にしてもパートタイマーにしても、本格的な交渉はまだまだこれから、というところも多いだろうと思います。労使の誠実な交渉を通じて誤りのない判断がなされ、実り多い成果が得られることを期待したいものです。