津田弥太郎先生

先週金曜日に行われた参議院予算委員会において、民主党の津田弥太郎参院議員が質問に立ち、日本マクドナルド長時間労働問題を取り上げて政府を追及しました。ご存知のとおり、津田議員はゼンキン同盟出身の労組系議員で、面目躍如というところでしょうか。

○津田弥太郎君 これ、民主党が政権を取ったならば、必ずこの経済財政諮問会議は廃止されるであろうことを国民の皆さんにお約束をさせていただきたいと思います。
 さて、最近、偽装管理職名ばかり管理職という言葉が広く目に付くようになりましたが、福田総理はこういう言葉御存じですか。
内閣総理大臣福田康夫君) はい、聞いたことございます。
○津田弥太郎君 これ、どういう意味だと思っていますか。
国務大臣舛添要一君) 法律、つまり労働基準法管理監督者というのはきちんと規定があります。名ばかり管理職云々ということを今委員がおっしゃいましたけれども、企業内でいわゆる管理職と、これは企業がそういうふうに呼んでいるわけですけど、労働基準法上の管理監督者と、そう言うにふさわしい権限や待遇がないにもかかわらず管理監督者という扱いをしている実態が一部に見られることは承知しておりまして、それはよろしくないというふうに思います。
 具体的に言いますと、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある、そして労働時間などの規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、そういうのを労働基準法上の管理監督者というわけですから、ですから、実態に即していないようなまさに名ばかり管理職というようなことに関しましては、これは労働基準監督署による監督指導をしっかり行って労働基準法を厳守させると、そういう形で対処したいと思います。
○津田弥太郎君 もちろん、この偽装管理職名ばかり管理職は違法行為であります。典型的な例として、本年一月に判決が、一つの判決が出ました。訴えていましたのは、マクドナルドの店長、高野広志さん、四十六歳。午前四時半に自宅を出て、六時過ぎに店に入り、七時に開店した後は自ら調理、接客を担当、店長業務もこなしながら午前零時まで何と十八時間働き、その後、三、四時間の睡眠で朝を迎える。残業時間は月に百三十時間を超え、六十三日間の連続勤務もあったようであります。
 裁判で問われたのは、こうした働き方をしている店長が今舛添大臣がおっしゃった管理監督者に当たるかどうかということでありました。舛添大臣、東京地裁はどのような判断を下したでしょうか。
国務大臣舛添要一君) この案件に関しましては、本年一月二十八日に東京地方裁判所におきまして、当該店長は労働基準法第四十一条第二号の管理監督者に当たるとは認められないとして、時間外割増し賃金及び休日割増し賃金等の支払を命じております。
○津田弥太郎君 この判決は、まだまだ日本には、日本の裁判には正義が貫かれているというふうに多くの国民が安心をちょっとだけしました。マスコミ各紙も大体この判決を支持されているようでありますが、日本マクドナルド側は店長に残業代を支払う考えはないとして現在控訴を行っております。また、この高野さんとは別に、現在、元店長四人が未払残業代の支払を求めて提訴という運びになっているとも報じられているんです。
 さて、神奈川県のマクドナルドでは、所定労働時間が百六十八時間の月で、残業時間が一位の人が百六十一時間、二位の人が百五十五時間。同様に愛知県でも、残業時間の一位が百六十四時間、十二名以上が百時間以上の残業を行っておりました。
 大臣、百六十時間を超える残業が行われていた場合、その方の生活モデルってどんなふうに想定します。
国務大臣舛添要一君) 睡眠時間をほとんど取れない、人間らしい生活できないと、そういうふうに想像します。
○津田弥太郎君 この我が国の長年の伝統であります、我が国の最大の特徴の一つである勤勉であること、これは私は大変大事なことだと思うんです。しかし、この勤勉であることが悪用されるというようなことがあってはならないわけでありまして、私は、そういう本当に一生懸命職務を果たそう、結果としてそういう事態になってしまっている、このことを逆手に取っているマクドナルドについては大変問題があるというふうに思うわけであります。
 それでは、舛添大臣、月間八十時間あるいは百時間という残業時間は、労働安全衛生法上においてはどのように位置付けをされている労働時間ですか。
国務大臣舛添要一君) まず、多い方の一月当たり百時間を超えた場合を申し上げますと、これは、百時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合には、労働安全衛生法上の規定に基づいて事業者は医師による面接指導を実施しなければならないと、こうなっております。
 それから、時間外・休日労働時間が一月当たり八十時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められると労働者が申し出た場合には、八十時間の場合です、事業者は医師による面接指導を行うよう努めなければならないと、こういう法律の仕組みになってございます。
○津田弥太郎君 実は、昨年の十月、神奈川県内の四十代のマクドナルドの女性店長がくも膜下出血で倒れ、三日後に亡くなっています。過労死の疑いも濃厚な事例でありますが、この事例も、特定個人の問題ではなく、会社のずさんな労務管理の犠牲者と言わざるを得ません。
 実際に、これとは別に、愛知県豊田市内のマクドナルドの元店長が脳梗塞で倒れた事案に対し、今月の六日、労働基準監督署は、月八十時間以上の残業が続いていたと認め、労災認定を行いました。
 これ以上マクドナルドで犠牲者を生み出さないためにも、全店舗に対する労働基準監督署の立入検査を行い、労働時間の実態把握と、それに基づく会社への処分を行うことを強く求めたいと思いますが、大臣。
国務大臣舛添要一君) どのような企業であれ、この一連の労働基準関係法令を含めて労働者保護のこの法律をきちんと守るべき義務があります。今後、各地の、労働基準法に、その旨を徹底させて、この監督指導を実施する、どのような会社であるかを問わず全国的に厳しい指導をやっていくと、そういう立場で臨みたいと思います。
○津田弥太郎君 大臣、人の命というのは取り戻すことができないんです。健康も、いったん失われた場合、なかなか取り戻すことは難しいんです。だから、今対策を講じないと犠牲者が次々に生じていく可能性が高いんです。猶予がないんです。これ、是非とも基準監督署に指示していただきたいんです。もう一度、舛添さんらしい答弁してください。
国務大臣舛添要一君) 働く人の権利をきちんと守る、そのためにあらゆる施策を取る、これが厚生労働省の職責であります。そして、そのため、国権の最高機関である国会が決めた法律があります。法令の遵守を徹底させる、改めて指導をし、そういう指示を各労働基準監督署に対して申し渡したいと思います。
 そして、もう一言付け加えるならば、やはりワーク・ライフ・バランス、これ、私が強調しているのは、人間は、例えば八時間働く、そしたら八時間睡眠を取る、残りの八時間は趣味であれ家庭であれきちんとやっていく、それが生き生きとした活力ある社会をつくるべきだと思いますから、私たちも含めて、そして社会全体がそういう機運を生み出すように全力を挙げていきたいと思っています。まず隗より始めよということで、私は、先般、厚生労働省の全職員に対して、ワーク・ライフ・バランスしっかりやれと、夜中までこうこうと電気がついているというのは恥だと思えと、こういうことを申し上げました。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0114/169/16903140014008a.html、以下同じ)

なかなかよく整理された議論ではないかと思います。まず、労基法上の管理監督者に該当しないのに、該当するといって残業代を払わないのはけしからんからキッチリ払え、という話がきます。高野店長の訴訟も「残業代をよこせ」というものでしたし、「現在、元店長四人が未払残業代の支払を求めて提訴という運びになっている」というのも「カネよこせ」という話でしょう。長時間労働でもいいからカネが欲しい、という人は相当割合いるでしょうから、これはこれで非常にもっともな話です。
で、「この判決は、まだまだ日本には、日本の裁判には正義が貫かれているというふうに多くの国民が安心をちょっとだけしました。」というのには(「ちょっとだけ」というのがなんとも味のあるところですが)じゃあカネを払えばいくらでも長時間労働させていいというのが正義なのか、と突っ込みたくなりますが、続けて「そうではない」という話がくるわけです。店長の神奈川県や愛知県の店長が脳血管障害をおこした事例をひいて、そういうことが起こらないよう労働安全衛生法の定めをきちんと守らせろと主張しています。これまたまことにもっともな主張と申せましょう。
続けて、津田氏は舛添大臣にマクドナルドを監督せよと迫っていますが、ここは舛添大臣は一般論でかわしています。さらに舛添大臣はワーク・ライフ・バランスに言及していますが、これはこの文脈では言わずもがなでしょう。もちろん大切なことですし、言って悪いわけではないでしょうが、5号館で残業している官僚からしてみれば誰のせいで残業してると思ってるんだ、おまえが言うかおまえが、という感じはおそらくあるのではないかと、これはまあ余計なお世話ですが…。

  • 余計ついでに舛添大臣にもうひとつツッコミ。残業月160時間は、週6日・1日13時間勤務くらいのレベルですので「睡眠時間をほとんど取れない」はやや大げさかと。もちろん、健康被害が深刻に心配される、およそ避けるべき長時間労働であることは間違いないわけですが。

さて、津田氏のマクドナルドへの怒りはとどまらず、ここからはいささか乱調になってきます。

○津田弥太郎君 実は、このマクドナルドのビジネスモデルは、アメリカ本社に支払うロイヤリティー、これがまず一番なんです。これが売上げの二・五%、昨年でいうと百十億円、これをまず払うことが一番なんです。これを捻出するためにだれが犠牲になるかというと、労働者になるんです。
 これ、しわ寄せは実は労働者だけではなかったことが分かりました。昨年、都内の複数のマクドナルドにおいて、売れ残ったサラダの調理日時のシールを張り替えて販売していたことが明らかになったわけです。労務費の切り詰めが限界に来た場合、食品衛生の問題まで行き着かざるを得ないということだと思うんです。
 マクドナルドはファストフード業界のトップ企業です。この企業のビジネスモデルがこのような形になっている。これは、どうしてもこれは消費者を守るためにも、あるいは働く者を守るためにも、このビジネスモデルについて見直しが必要だというふうに思うわけでありますが、福田総理、いかがですか。
国務大臣舛添要一君) どのようなビジネスモデルでやるか、これは各企業が自由でありますが、しかし、労働基準法含め、それから私は食品衛生法の管轄大臣でもありますから、この国会で、国権の最高機関である国会で私たちが決めた法律、絶対に守っていただかなければなりません。法律に基づいて厳正な対応をいたしたいと思います。

これは大臣ご指摘のとおりで、これがダメだということになると、同じようなビジネスモデルで海外投資している日本企業も見直しが必要ということになってしまうでしょう。津田氏としては経営状況や従業員の就労状況の如何にかかわらず売上の一定率を米国本社に吸い上げられることに憤懣やるかたないようですが、だからといってそうしたフランチャイズ契約を禁止できるわけでもなし、なんとしても禁止すれば日本からマクドナルドがなくなるか、米国本社が直接乗り込んでくるかで、従業員にとってもさほどハッピーな話にはなりそうもありません。
で、批判の鉾先はふたたび原田泳幸氏に向かいます。

○津田弥太郎君 先ほど私が申し上げましたのは、このアメリカ本社に払うロイヤリティー、これは何が何でも取るぞと、そして残りでおまえらやれということになればどうなるか、このビジネスモデルは間違っていると申し上げているんですよ。だから、そこに対して何らかの対応をしていかなければ、ファストフード業界全体に大きくこの問題が発生しているんです。そのことをしっかり指摘しておきたいと思いますし、このビジネスモデルは、創業者であります藤田田さんのときにはこれほどひどくなかった。ところが、現在の違法残業あるいは労災発生というビジネスモデルは、現在の日本マクドナルドアメリカ本社の直轄になり、さらに現在の原田泳幸さんがCEOに就任し、徹底をされたんです。
 ここで皆さん、極めて不可解な事実が分かりました。福田内閣メールマガジンにおいて、昨年十月十八日の第二号に初めて民間人が登場をしております。その人物こそ、今申し上げましたマクドナルドの原田CEOなのであります。
 福田総理、福田内閣メールマガジンに民間人のイの一番としてなぜ原田さんが登場しているんでしょう。
内閣総理大臣福田康夫君) ちょっと記録見ないと分かりません。
○津田弥太郎君 それでは、可能性の高い話として鴨下環境大臣にお伺いします、可能性の高い話として。
 地球温暖化対策の中心的な役割を果たしている環境省は、平成十年から、地球温暖化の防止に関し顕著な功績のあった個人や団体に対してその功績をたたえるため大臣表彰を行っております。その中に日本マクドナルドあるいは原田泳幸さんという個人の名前は入っておりますか。時間掛かっても結構ですから調べてください。
国務大臣鴨下一郎君) 今、過去の表彰を受けた個人あるいは企業、このリストがございますけれども、このリストの中にはいずれもございません。
○津田弥太郎君 福田総理のメールマガジンのバックナンバー、これによると、このイの一番に取り上げた、日本マクドナルドを取り上げたのは、地球温暖化対策に取り組んでいるから、このバックナンバーによりますと、載せたということになっているんですよ。思い出しましたか。
内閣総理大臣福田康夫君) 思い出しません。
○津田弥太郎君 これ、御自分の、総編集長になっているんですよ。このメールマガジンの総編集長は福田総理御自身なんです。しかも、このメールマガジンにはマクドナルドの会社のホームページへのリンクまで張られているんです。これは、まさに福田総理自らがマクドナルドの宣伝を行い、原田CEOのビジネスモデルの後押しをしているように見える。しかし、先ほど私が申し上げたように、環境省は全然表彰も何もしていない。何でイの一番にこの会社が出てくるのか、これはどう考えても納得ができません。もう一度答えてください。
内閣総理大臣福田康夫君) 私もそのマクドナルドと特別の関係もあるわけでないんで、どうしてそういう名前が出たのか、会社名が出たのかよく分かりません。まあ、昨年の十月でしょう、十月の二日ですか。私が総理に就任してすぐでしょう。そのころのことは、もういろんなことがあったものですから、もうほとんど覚えていないんですよ、誠に申し訳ないことでありますけれども。
○津田弥太郎君 鴻池委員長にお願いを申し上げます。
 日本マクドナルドを取り上げた根拠について、福田総理から本委員会に対し、本日中に文書での資料提出を求めます。
○委員長(鴻池祥肇君) ただいまの津田委員の発言につきましては、後の理事会に諮りたいと思います。

原田氏の批判かと思ったら、鉾先はまたすぐに転じられ、原田氏を福田内閣メールマガジンに登場させた政府に向けられます。ちなみに、問題にされている原田氏の紹介記事はこういうものです。

● 地球温暖化対策に取り組んでいます。
 (日本マクドナルド株式会社代表取締役会長兼社長兼CEO 原田泳幸

 日本マクドナルドは一企業市民として様々な社会貢献活動を通じて、地域社会やお客様とのより強固な信頼関係と絆の構築を目指しております。環境問題への取り組みは、重要な活動の一つです。

 具体的な取り組みとしては、地球温暖化防止対策として省エネルギー機器を開発・導入し、1店舗平均1990年対比で約12%のCO2削減を実現したことや、「1人、1日、1kgCO2削減」応援キャンペーンの実施に貢献(全店で告知トレイマット700万枚の配布による協賛)するなど、企業として積極的に活動を行っております。

 そして現在は、10月1日からの「レジ袋・紙ナプキン削減」キャンペーンの実施や、地球温暖化防止イベントへの協賛参加などにも積極的に取り組んでおります。

 地球温暖化は、次世代へも影響を及ぼす重要な問題です。今後も全国3800店舗、年間来店数14億人のスケールメリットを活かして継続的な活動を実施してまいりますので、よろしくお願いいたします。

※ 写真を見る
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2007/1018e.html

※ 「私のチャレンジ宣言」はこちらから(チーム・マイナス6%ホームページ)
http://www.team-6.jp/try-1kg/tm6_co2-1kg01.html

※ 環境への取組(日本マクドナルドホームページ)
http://www.mcdonalds.co.jp/company/eco/eco.html

http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2007/1018.html

ご自分が総編集長を務めるご自分の内閣のメールマガジンなのですから、きちんと読んで覚えておいてほしいという気もしますが、まあ自分が編集した自分のメールマガジンというわけではないので、多忙多難な中ではお忘れになるのも致し方のないところでしょう。それはそれとして、ここに日本マクドナルドのホームページへのリンクがあるからといって「まさに福田総理自らがマクドナルドの宣伝を行い、原田CEOのビジネスモデルの後押しをしているように見える」というのは言いがかりでしょうが、たしかに環境問題に取り組む企業が多数あるなか、なぜ最初にマクドナルドなのか、というのは謎ではあります。しかも、これは「この人に聞きたい」という「人」に焦点を当てたコーナーですし、登場するのも公務員か公職者がほとんどで、大企業の企業経営者がそのものとして登場しているのは原田氏だけですから、なおさらです。まあ、たまたまでしょうが、日本マクドナルドは原田氏が経営にあたるようになってからなにかと無理な経営路線が話題になっていたわけで、いささか危機管理に欠いたかという印象もなきにしもあらずです。もっとも、単なる「定年前にも首切り宣言」に過ぎない可能性のある日本マクドナルドの「定年廃止」を厚生労働省は「高齢者雇用の好事例」と考えているフシがありますので、役所の問題意識はそんな程度のものだったのかもしれませんが。