厚生労働省の若手提言と長時間労働

少し古くなりましたが、7月28日に厚生労働省の若手プロジェクトチームによる提言の報告会が開催され、新聞各紙で報じられました。毎日jpから。

 厚生労働省の若手職員のプロジェクトチーム(PT)は28日、省改革の提言などを長妻昭厚労相らに報告した。幹部の指導力に関する職員アンケートでは、48%が政務三役に「おごりを感じている」と答えた。同省の組織目標に「『おごり』の一掃」を掲げた長妻氏を皮肉るような結果に、山井和則政務官が「政治主導って、厚労省の職員にとっていいのか悪いのか?」と気にする場面もあった。
 アンケートは3200人の職員を対象とし、約750人が回答した。政務三役について「納得のいく指示がある」と答えた職員は2・9%にとどまるなど、民主党政権の「政治主導」ぶりに、多くが疑問を抱いている様子が浮き彫りとなった。
 また、六つのテーマに沿って報告された省改革の提言のうち、「業務改善・効率化」のチームは、同省のムダの多さを「メタボ状態」と指摘。タクシー券の使用が年間3万6000枚に及ぶこと、忙しい部署に人員が十分配置されていないために残業が生じ、その結果、券を使用する部署に偏りが生じていることなどを報告した。
 提言は、省内の公募に応じた34人(平均年齢33・2歳)が6チームに分かれ、約2カ月かけてまとめた。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100729ddm012010083000c.html

この報告会、厚労省のサイトでなんと前日に告知されhttp://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000gqo8.html)、本来非公開のつもりだったのがどこかに洩れて急遽公開に変更したのかなあなどと邪推していたわけですが、報告会を公開した割には(ざっとみたところ)報告書はまだ公開されていないようです。いや実はそのうちウェブサイトに載るだろうと何日か待ってみたのですが、一週間経ってもまだのようで…。このあたり、以前ご紹介した(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100420#p2財務省の若手の提言(http://www.mof.go.jp/singikai/mofpt/mofpt.htm)が発表日に掲載されたのとは対照的と申し上げざるを得ません。
内容については全文を読んで見なければなんとも言えないわけですが、その7月28日に、読売新聞は1面で霞が関の多残業を報じました。昨年も取り上げた霞が関国家公務員労働組合共闘会議が実施した国家公務員の残業実態に関するアンケート調査結果による記事です。YOMIURI ONLINEから。

 省庁の労働組合でつくる「霞が関国家公務員労働組合共闘会議」は28日、霞が関で働く国家公務員の昨年度の残業実態についてアンケート調査したところ、厚生労働省が1人当たり月平均70時間を超え、最長だったと発表した。
 政権交代後に残業時間が増えたとの回答も、厚労省が目立った。
 調査は今年3月、同会議に参加する22組合のうち、厚労省経済産業省など10組合を対象に行い、組合員3056人から回答を得た。
 平均残業時間は前年度比3・5時間減の月32・8時間。前年度より増えたのは厚労省で、旧労働省(73・4時間)系、旧厚生省(71・7時間)系で1、2位。3位の経産省(45・9時間)を大きく上回った。
 政権交代が残業に影響したか、という問いには、「変わらない」(72・3%)が最多。ただ、厚労省の組合員は52・9%が「増えた」と答え、理由として政務三役への対応を挙げた人が75・6%に上った。
 自由記述欄には「大臣の指示が細かくて、多すぎる」「職員は駒ではなく人だ」などの意見が寄せられたという。
 同会議は「労働行政を所管する省庁で、長時間労働が横行している」と批判している。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100728-OYT1T00836.htm

そりゃ厚労省の残業が多いのは組織の建前上やった分を全部つけているからこらこらこら。いや実はそうではなく、どうやらこの数字はすべて実際にやった分、つまりいわゆる不払いも含むのだそうです。で、実際につけられているのは予算がついている月30時間分だけで、平均32.8時間との差を不払いと仮定すると数十億円にのぼるとか。ふーむ、霞が関不夜城ぶりを思うと不払いがこの程度というのも意外な感じがしますがそうでもないのかな?
さて、昨年の結果をみてみますと、旧厚生省が71・2時間、旧労働省が66・3時間で堂々の1位・2位を占めています。その前年も同様で、さらにその前年は1位労働・2位厚生と順位が入れ替わっただけで顔ぶれは変わっていません。少なくともこの4年間、旧労働省と旧厚生省が1位・2位を占め、かなり差のある3位が経産省という構図に変化はないようです。
まあ、この調査結果は組織率のあまり高くない労組が組合員を対象に行ったものですので、バイアスのある可能性は否定できないわけではありますが、それにしても厚労省はもともと多残業だったわけで、政権や大臣が変わって急に増えたということではなさそうです。もっとも、昨年までは他省庁同様に厚労省も残業が減少する傾向にあったわけですが、今年は他省庁が引き続き減少傾向なのに対して厚労省は増加したという図式になっているようで(このあたり、確実なウラを取ったわけではないので推測ですが)、そこには記事にもあるように政権交代の影響があるのかもしれません。というか、全体では7割以上が影響ないと回答しているのに厚労省では5割以上が増えたと回答しているということですから、これは政権というよりは大臣(ないし政務三役)の問題ということなのかもしれません。前の記事にある「政務三役について「納得のいく指示がある」と答えた職員は2・9%にとどまる」とか、後の記事にある「自由記述欄には「大臣の指示が細かくて、多すぎる」」とかから想像するに、どうも長妻大臣が納得のいかない細かい指示を多数出すことに問題があるようにみえますが…。
さて長妻大臣はこのあたりどのようにお考えなのか、大臣記者会見ではこのように回答しておられます。

(記者)
 一昨日ですが若手PTでの発表の中で、政務三役に対して厳しいアンケート結果が出ましたが改めてそれについて大臣のお受け止めをお願いいたします。

(大臣)
 若手チームの提言というのは6チームあって、いろいろな幅広い提言がありましたがその一点がかなりクローズアップされたということです。それぞれの提言については今担当部局で実現可能性や、どうやって実現すればいいのかということを検討しております。今おっしゃっていただいた件については、我々も役所文化を変えるということで、厚生労働省の方に聞くと政務三役から具体的な指示というのは今までに比べると非常に多いということで、これはもちろんそうだと思います。ただ、具体的な指示というのが、例えば、人事評価基準を変えるとか、省内事業仕分けをするための組織を作るとか、特に天下りについてはかなり厳しい措置をするとか、あるいは国民の声を聞くというのもこれまでそういう統計や、集計がなかったということでそれは新たな業務を生んでいると思います。ただ、それについては国民の声を聞くことで同じような御指摘をいただいて、それを改善することで御指摘がなくなるということです。それは業務量についても、国民の皆様にとっても非常にメリットのあることだと思っております。いずれにいたしましても、役所文化を変えるということで我々は取り組んでおります。幹部の方とは毎週月曜日に朝礼をして、何度も何度も意見交換をして発想を共有していると思っておりますが、まだまだ日本全国に多くの職員がおり浸透させる必要があると考えております。それについて、なぜこういう指示を出して、役所文化を変えるということを申し上げているのかと、これまで厚生労働省の信用は地に落ちた部分もありますから、それを立て直すということを申し上げて、今後は国民の御負担をお願いしなければならない時に天下りや、無駄遣いがたくさんあるということでは理解が得られないということです。我々が直接省内の皆様にお会いするということは難しいわけですので、幹部を通じてさらに強烈にその背景、考え方を伝えなければならないと思っております。
http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/2r9852000000io1q.html

まあ要するになんとも思ってないということですねこれは。「役所文化を変える」というのが3回も出てきますが、国民の負託を受けた自分たちが国民の声を聞いて国民のために官僚に多数の指示を出し、それが役所文化を変えることであり厚生労働省の地に落ちた信用を立て直すことなのだと。で、それをさらに強烈に伝えるというわけです。国民国民と連呼しているのをみるとだったらあの参院選の結果はなんなんだと言いたくなる感はありますが、それはそれとしても、納得が得られていないという現実があるのになんら顧みずに従来どおりに続けようというのでは「おごりを感じている」という声があがってくるのもむべなるかなです。どうも、長妻大臣は人事管理がお得意ではないようで…ま、それも信念ゆえで、ご自身の事務所では上手に人事管理されているのかもしれませんが…。