福田内閣メールマガジン

本日配信された「福田内閣メールマガジン」第21号で、福田首相みずからが今春闘での賃上げを訴えていました。

 物価が上がっても、皆さんの給与がそれ以上に増えれば、問題はありません。しかしながら、働いている皆さんの給与の平均は、ここ9年間連続で横ばい、もしくは減少を続けており、家計の負担は重くなるばかりです。

 日本経済全体を見ると、ここ数年、好調な輸出などに助けられて、成長を続けています。企業部門では、不良債権などバブルの後遺症もようやく解消し、実際は、大企業を中心として、バブル期をも上回る、これまでで最高の利益を上げるまでになっています。

 これらは、さまざまな構造改革の成果であり、そうした改革の痛みに耐えてがんばった国民皆さんの努力の賜物にほかなりません。

 だからこそ、私は、今こそ、こうした改革の果実が、給与として、国民に、家計に還元されるべきときがやってきていると思います。

 今まさに、「春闘」の季節。給与のあり方などについて労使の話し合いが行われています。

 企業にとっても、給与を増やすことによって消費が増えれば、経済全体が拡大し、より大きな利益を上げることにもつながります。企業と家計は車の両輪。こうした給与引き上げの必要性は、経済界も同じように考えておられるはずです。政府も、経済界のトップに要請しています。
http://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2008/0306/0306.html

技術論で恐縮ですが、「物価が上がっても、皆さんの給与がそれ以上に増えれば、問題はありません。しかしながら、働いている皆さんの給与の平均は、ここ9年間連続で横ばい、もしくは減少を続けており、家計の負担は重くなるばかりです。」というのは、やや疑問の余地なしとはしません。「働いている皆さんの給与の平均は、ここ9年間連続で横ばい、もしくは減少を続けており」というのは統計的に正しいとしても、それは個々人の給与が下がっているということを意味しません。現実には、平均が横ばいであっても、個人でみれば、仮にベアゼロであっても、いわゆる「定昇」の分だけは上がっているというのが実態です。もし、個人でみても全員の給与が横ばいであるとすれば、比較的賃金の高い高齢者が定年などで退出し、かわって比較的賃金の高くない若い人が参入してくる分、平均はかなり下がります(とりわけ、団塊世代が多数定年するここ数年はその傾向は強く出るものと思われます)。そうならないのは、個人でみれば毎年のいわゆる「定期昇給」のようなもので上がっているからです。こうした効果を賃金用語では「内転」と言っていることは、人事担当者であれば周知でしょう。
現実には給与の平均は減少しているとしても、個人でみれば、とりわけ昇給のある正社員をみれば、定昇相当分は上がっていて、その上昇率は物価上昇率を上回っているものと推測されます。もちろん、特に昇給のない非正規雇用などの人にとっては物価上昇は打撃でしょうし、それはそれで問題かもしれませんが、「物価が上がっても、皆さんの給与がそれ以上に増えれば、問題はありません。」「家計の負担は重くなるばかりです。」といわれれば、個別の人、家計でみれば大半は物価上昇以上に給与は増えているはずだ、という反論は成り立ち得ます。もちろん、ベアが物昇を下回って実質賃金が確保できないのはマクロ経済にとってマイナスなのは明らかなので、言い方の問題に過ぎないといえばそうなのですが。
それから、「だからこそ、私は、今こそ、こうした改革の果実が、給与として、国民に、家計に還元されるべきときがやってきていると思います。」というのも、やや表現に問題ありです。「給与の平均は、ここ9年間連続で横ばい、もしくは減少」というのは国税庁民間給与実態統計調査の結果をふまえているのでしょうが、この調査における「給与」とは「給料・手当及び賞与の合計額」であり(厳密にはいろいろありますが)、賞与を含んでいます。ここ数年、業績好調な企業においては、それを反映して相当額の賞与が支給されているわけで、少なくともその限りでは「国民に、家計に還元され」ているといえるはずですし、今春闘においても業績好調産業・企業を中心に高い賞与が要求されています。ということは、今春闘で多くの産業・企業で賞与で高い回答が出て、給与の平均が上昇に転じればそれでよしということなのでしょうか。だとすると、連合などが「給料」の引き上げ、ベースアップを求めているのとはやや異なる主張になるわけですが、それが官邸の意図であるというならそれでもいいのですが…。
内容は別として、首相のメッセージなのですから、もう少していねいに書かれてもいいのではないかと思います。