日本マクドナルド事件(東京地判平20.1.28)をめぐって(4)

まだまだ続きます。ここでは、この判決を受けて店長の処遇を見直す、具体的には店長手当を廃止・縮小して時間外手当を支払うことについて、労働条件の不利益変更の観点から述べています。ここまでが、日本マクドナルド事件と具体的に関係のある部分です。

 元に戻りますが、こうした日本マクドナルドの取り組みに対し、日本マクドナルドユニオンは店長手当の廃止に反対を表明、結局折り合いがつかないまま、店長手当も時間外割増も支払うという形での見切り発車となったようです。労働組合としては、制度変更にともなって減収となる可能性があることを心配する組合員への配慮も当然必要でしょうから、こうした対応となることは理解できないわけではありません。
 労働法的に考えても、このような「店長手当廃止と時間外手当支払、業務改善による労働時間短縮」というパッケージは、これで減収となる店長が出てくる以上は、不利益変更の問題は避けては通れないでしょう。問題は、これが合理性のある労働条件変更といえるかどうかだろうと思います。現実の労務管理としては、おそらくは経過措置として調整給を設けるなどして減収となる店長が出ないようにするのが望ましい対応だろうと思いますし、実際多くの場合はそうするでしょうが、そうしなかった場合にどうなのかは論争がありそうです。
 今日的なトピックスとして特に興味深いのが、合理性判断の要素として「労働組合等との交渉の状況」を明記した労働契約法10条との関係です。経済学的にいえば、経営上の要請から許容できる総額人件費の上限が存在する状況においては、店長に新たに割増賃金を支払うということは、短期的には人件費増になるでしょうが、中長期的にはその上限の範囲内におさまるべく、賃金と雇用量で調整されることになります。つまり、これは店長と非店長の間の分配の問題なのです。少し長い目でみれば、店長に新たに割増賃金を上積みすれば、それはいずれ他の人の賃金が増えないなどといった形で調整されるわけです。日本マクドナルドにおいて店長への分配を増やすことが正義なのか、効率的なのか、といった観点から検討する必要があります。多くの人たちが、店長の仕事は大変なのだからとか、理屈はなんでもいいのですが、とにかく自分たちの賃金は上がらなくてもいいから店長の賃金を上げようと考えてくれるか、それとも、いやいや自分たちの仕事だって大変なんだからとか、これまた理屈はどうでもいいわけですが、店長だけ賃金があがるのはよくないと考えるのか、そこがポイントになるわけです。
 このとき、日本マクドナルドユニオンの代表性が問題になりそうです。日本マクドナルドユニオンは二百数十人の組織で、その多くが店長と聞いています。日本マクドナルドは社員だけで連結で約5,000人ということですので、組合員が全員社員だとしても組織率は数%です。ユニオンはアルバイトも積極的に組織化しようとしているらしいので、アルバイトまで含めた組織率はかなり低率にとどまるでしょう。しかもその多くが店長ということは、店長の利益を反映した活動となるのは当然としても、しかしそれが本当に日本マクドナルドの従業員全員の代表者として適格かどうかは議論があるところでしょう。もちろん、店長の労働条件変更について店長の代表の意見を聞くというのはもっともなのですが、今回のケースを「非店長への分配を減らして店長への分配を増やす、という労働条件変更」として考えれば、このユニオンとの「労働組合等との交渉の状況」があまり大きく考慮される必要はないのではないかと思われます。中長期的にそうなるだろう、というだけでは、法律的にはなかなか難しいでしょうが。

ということで、続きは来週ということで(笑)