連合の見解と反論(1)

きのうまで経団連の『2008年版経営労働政策委員会報告』をご紹介してきましたので、きょうからはこれに対する連合の見解をみてみたいと思います(後述するように長いものですので、何回かに分けます。ブログがたまっていることでもありますし(笑))。全文は、http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/kenkai/2007/20071220_1198138599.htmlで見ることができます。
連合は毎年、経労委報告が出るとすぐに批判を発表していますが、今回はなかなか特徴的なものとなっています。主な特徴は次のとおりです。

  1. 前回は事務局長談話に格下げされたが、今回また連合見解に格上げされた。
  2. タイトルが例年どおり「〜に対する見解」で終わらず、「〜に対する見解と反論」と「反論」が加わっている。
  3. 「反論」が加わったせいかどうか、例年になく長文である。
  4. 同じく「反論」という意図なのか、例年を上回って上げ足取り的な論調が目立つ。

というか、何を言っているのかよくわからない文章が多いなぁというのが私の正直な感想です。もちろん、経団連と連合では利害も異なれば拠って立つ考え方も違うわけですから、意見の相違があるのは当然でしょうが、それ以前の問題としてわかりにくいのです。
最初からみていきますと、まず「1.総括」とあり、こう始まっています。

 今年の日本経団連が12月19日(水)に発表した「経営労働政策委員会報告」(以下「報告」)は、グローバル化のさらなる進展や人口減少など経済社会をめぐる環境変化のなかで、直面する課題として生産性の上昇・国際競争力の強化や全員参加型社会の必要性を掲げ、その早期実現をめざすべきとしている。こうした課題は、連合としても共有認識として持ち得るものである。
 しかし、雇用や賃金などに関する具体論では、「市場原理は万能ではない」と市場万能主義の限界を指摘しながらも、相変わらず「規制改革の一層の推進が必要」「コスト面の競争圧力が増大」としている。そして、そのためには更なる規制緩和の推進とコスト削減によって企業成長を促すことが必要との従来の主張を全く変えておらず、結論的には「国際競争力の強化」に向けた産業・企業における「総額人件費抑制」に終始している。

国際競争力強化は否定していないようなので、「総額人件費抑制」がいけない、ということのようです。であれば、市場万能主義とか規制改革とかに寄り道せずに(大切な論点であるにせよ)、「総額人件費を膨張させつつ国際競争力も強化する」ことが可能だ、という議論をすべきでしょう。連合総研が毎年そういう理論武装(「適正な」賃上げによって消費拡大、景気回復、経済成長するという試算)を発表しているのですから。

 「報告」は、日本の安定成長にとって企業と家計を両輪とした内需主導の経済構造の実現が必要と論じながら、労働者の可処分所得の低下や深刻化する格差問題などについての言及がされておらず、わが国経済・社会が直面する深刻な問題に正面から向き合い、克服していこうとの姿勢がみられない。
 また、経済成長率が高くなれば賃金格差は縮小に向かうなどとの論理は、成長すれど家計所得が減少する現下の実態を顧みない主張と言わざるを得ない。さらに、企業規模別・業種別・地域別の収益がばらつく現状において、「賃上げを困難とする企業数も少なくない」と指摘し、「市場横断的なベースアップはすでに過去のものである」との主張は、経営論理に拘泥するだけでなく、行き過ぎた分配の歪みによって格差拡大に呻吟する弱い立場にある者への思いやりを欠いた主張であり、社会の信認を到底受けることはできないものである。

表現のハデさに書き手の意欲は感じますが、「格差問題などについての言及がされておらず」と書いたすぐ後で「経済成長率が高くなれば賃金格差は縮小に向かうなどとの論理は」と批判しているのは理解に苦しみます(ちなみに実際には、このほかにも序文の最初のページに「格差」への言及があります)。
また、「収益がばらつく現状において」は、収益が悪い、あるいは悪化している企業も存在しているわけで、「賃上げを困難とする企業数も少なくない」(したがって市場横断的なベースアップは過去のもの)と指摘することがなぜ「経営論理に拘泥するだけでなく、行き過ぎた分配の歪みによって格差拡大に呻吟する弱い立場にある者への思いやりを欠いた主張」となるのかは不明です。まあ、「経営論理に拘泥」というのは定義と評価の問題だとしても、賃上げ困難な企業があることは事実で、あるものをないというのが思いやりだというのもおかしな話だと思うのですが。あるいは収益がばらつかず、横並びの賃上げができるような状況を経団連が作ることができると考えているのかもしれませんが、それはいくらなんでも過大評価だと思いますが…。
とりあえず今日のエントリはこのあたりまでということで。