キャリア辞典「テレワーク」(4)

「キャリアデザインマガジン」第68号のために書いたエッセイです。以下に転記します。


 この9月に発表された経済財政諮問会議労働市場改革専門委員会の第2次報告は、外国人労働に関わる制度改革とともに「テレワーク(在宅勤務)促進のための労働法制の見直し」が取り上げられている。
 実際、労働法制がテレワークの普及を妨げているとの意見は往々にしてみられるところだ。たとえば労働時間法制について、テレワークについては労働時間の算定が難しいため、労働基準法の「事業場外労働のみなし労働時間制」によることになることが多い。これは「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」「通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」においては「当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす」が、そのみなし時間は労使協定で定めるというものだ。
 ただし、テレワークならすべてみなし労働時間制が適用できるというわけではない。これを適用するためには「当該業務が、自宅で行われること」(したがって、広義のテレワークには含まれてくるサテライト・オフィス勤務にはみなし労働時間制は適用できない)に加えて「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」「当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと」が必要であるという行政解釈がある。これを厳格に解釈すれば、たとえば「勤務時間中は携帯電話の電源を入れておいてください」という指示をしただけでみなし労働時間制は適用できないということになる。これはさすがに現実的ではないので、専門調査会の第2次報告では「仮に終日、情報通信機器が接続可能な状態にあっても」「労働者が自由に持ち場(端末の前)を離れることのできるような状況にあれば」みなし労働時間を適用できることを明確化すべきだ、としている。「随時使用者の具体的な指示に基づいて」についても、「一般的な指示(業務目標や期限など)ではなく」「例えば朝夕に指示があるだけであれば、具体的な指示があったとはいえ」ないことを明確化すべきとしている。さらに、第2次報告では「今後の検討課題」として、健康確保措置も含めて、在宅でより柔軟な勤務が可能となるような制度的な工夫が必要だと述べている。実際、現行法制をみると、なるべくみなし労働時間制を使わせたくない、従って在宅勤務もさせたくないと考えているような印象すら受けるほどであり、在宅勤務を普及させるにはこうした労働時間法制の見直しは不可欠であろう。
 また、第2次報告ではとりたてて取り上げられてはいないが、在宅勤務における労働法制面での課題として、実務的に難しいものとして労働災害の問題がある。厚生労働省が出している「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」には「業務が原因である災害については、業務上の災害として保険給付の対象となる。したがって、自宅における私的行為が原因であるものは、業務上の災害とはならない」という当たり前の記述があるだけだが、現実には自宅での災害の原因が業務なのか私的行為なのかは判然としないケースも多いだろうから、わかりやすい整理が望まれる。安全配慮義務などについても、自宅には使用者の施設管理が及ばないことなどへの配慮が必要と思われる。
 他にも課題は散見され、労働者保護に欠けることがあってはならないが、在宅勤務の普及の妨げとならない法制度の構築が望まれよう。