子育てしながら働くことが普通にできる社会

えーと宣伝みたいなエントリばかり書いて手抜きするなと言われそうなので政策ネタをやります(笑)
先日取り上げた厚生労働省のシンボルマークが発表された同じ日に、「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会報告書」も発表されました。題して「子育てしながら働くことが普通にできる社会の実現に向けて」。内容は育児・介護休業法の改正に向けたものが中心です(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/h0701-6.html。報告書はhttp://www-bm.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/dl/h0701-6a.pdf)。
就労している女性の約7割が第1子出産を機に退職している現状では、子育てしながら働くことが普通にできているとはいえない、という問題意識はわかるのですが、当然ながらその対策にはさまざまなものがあるでしょう。理屈っぽい議論をすれば、育児休業というのは休業しているのであって就労しているわけではありませんから、本当に「子育てしながら働」いているのか、という言い方だってできるでしょう。もちろん、いったん中断したキャリアが再開できるということは非常に重要で、それはそれで政策的に対応していくべきものだとは思いますが。
とはいえ、それが第一の政策かといえば、おそらくそうではないでしょう。この報告書の最後のほうで申し訳程度に書かれているこの部分が最優先課題ではないでしょうか。

(3)保育サービスの充実等
 少子化の流れを変えるとともに、育児休業後も男性も女性も子育てをしながら働くことが普通にできる社会を実現していくためには、仕事と家庭の両立がしやすい職場環境の整備のみならず、保育サービス等の充実も不可欠である。とりわけ、低年齢児を中心とした保育所等の受け入れ児童数の拡大や、延長保育や病児・病後児保育などの多様なニーズに応じた保育サービスの拡充、さらには、学齢期の放課後対策として、放課後児童クラブ等の一層の充実を図ることが強く求められる。
 また、保育所から放課後児童クラブへの切れ目のない移行と適正な環境の整備についても十分留意されることが期待される。

まったくそのとおりで、報告書中でも触れられている「小1の壁」(小学校に入学した途端に放課後の預け先がなくなる)についても、だから短時間勤務を小3までできるようにしましょうというのも大事ですが(やらなくていいというつもりはまったくありません。為念)、やはり「放課後児童クラブ等の一層の充実」への期待も大きいのではないでしょうか。延長保育などを活用してフルタイム勤務を続けてきた人にしてみれば、子どもが小学校に入ったから短時間勤務に移行しなければならない、というのはやはりつらいのではないかと思います。
まあ、この研究会は育介法改正のための研究会ですからないものねだりをしてもしょうがないわけで、一応忘れてないぞということで一言だけでも触れているだけ立派なものだと考えなければいけないのでしょう。行政にはぜひともお忘れなく保育サービスの充実に取り組んでいただきたいものだと思います。
さて、それでは育介法をどうしたいのかということですが、さまざまなメニューが並んでいます。まず報告書の要約版(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/dl/h0701-6b.pdf)を引用します。大きく4点あって、第一がこれです。

(1)育児休業後も継続就業しながら子育ての時間確保ができる働き方の実現

(短時間勤務及び所定外労働免除)
○父親と母親が保育所への送り迎えを余裕を持ってでき、子育ての時間確保ができるなど、育児休業を取得した後の働き方を見通すことができるよう、柔軟な働き方を選べる雇用環境を整備していくことが重要。
○子を養育する労働者からの希望が高く、子育ての時間確保を容易にすることができる短時間勤務と所定外労働の免除について、3歳に達するまでの子を養育する労働者に関しては、原則としてどの企業においても、労働者が選択できる制度とすることが必要。

(在宅勤務)
○在宅勤務制度(テレワーク)を子育てや介護と仕事の両立に資する制度として、勤務時間短縮等の措置の一つとして位置づけるべき。

(子の看護休暇)
○年5日の看護休暇を子どもの人数に応じた制度とするべき。

短時間勤務及び所定外労働免除に関しては、現行法制では勤務時間短縮等の措置ということで、子が3歳に達するまで、短時間勤務、フレックスタイム制、始終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、所定外労働の免除、事業所内託児所の設置のいずれかの選択的措置義務が課せられているわけですが、報告書によれば「必ずしも労働者が利用したい制度が職場で用意されているとは限らず、また、いずれの措置も設けていない事業所が6割近く存在しているのが現状」だということです。義務にもかかわらず措置されていないのは困りものですが、まあそれは行政指導で徹底したとしても、「保育施設の送り迎えの都合で、本当は毎日勤務時間を短縮してほしいのだけれど、勤務先にはフレックスタイムしかない」ということはたしかに起こりうるでしょう。そこで、「子を養育する労働者からの希望が高く、子育ての時間確保を容易にすることができる短時間勤務と所定外労働の免除について、3歳に達するまでの子を養育する労働者に関しては、原則としてどの企業においても労働者が選択できるようにすることが必要」ということのようで、要するにこの制度の導入を義務化する、というわけです。
もちろん、こうした制度が導入されることでライフスタイルの選択肢が増えるのはけっこうなことではありますが、それでは働く人にとって、こうした制度が「ないよりはあったほうがいい」ですむかどうかは微妙です。もちろん、自分が利用する分にはいいでしょうが、同僚が利用した場合に自分の仕事や生活が影響を受ける可能性があります。誰かが短時間勤務をすればその分の仕事は別の誰かがしなければならないわけで、それはたとえば残業の増加などではねかえってきます。残業がふえれば残業代がふえて嬉しい、という人ばかりならそれでもいいでしょうが、私にも都合があって残業はそんなにできません、という人にとっては迷惑な話になるでしょう。とりわけ人数の少ない組織では吸収が難しいわけで、報告書もいうように「労働者にとっての柔軟な働き方の権利の確保と事業主にとっての負担との兼ね合いを考える必要がある」ものと思われます。
もっとも、出産・育児を行うということは数ヶ月程度前には判明するわけですから、そのときにどのような勤務の対応をとるのかも決めておけば、事業主としては準備の時間はある程度はあるわけですから、それほど強く制度の利用に制約をかける必要はないかもしれません。このあたりは報告書も今後の検討課題としていますので、今後労使の入った審議会等で議論が深まるものと思われます。
在宅勤務を選択的措置義務の選択肢に加えるのも基本的にはけっこうなことだろうと思います。導入が難しいと考えるなら選択しなければいいだけの話なので、さほど実害はないといえましょう。短時間勤務も所定外労働免除も、通勤時間が長くなればなるほどその意味はなくなってくるわけで、通勤時間対策として在宅勤務はまことに魅力的です。
報告書も、「子育てや介護を行う労働者にとっては、在宅勤務の導入により、通勤時間が削減される分だけ、子ども等と一緒にいられる時間が増えるなどのメリットが期待される」と書いているのですが、続けて「在宅勤務制度の活用に当たっては、保育サービス等の利用により、仕事に専念できる体制を整える…必要がある」と述べているのは、ここまで言わなければならないのか疑問です。育児期の在宅勤務というと、たとえば乳幼児が眠っている間などは仕事をして、起きて泣いたら授乳して…といった働き方も想定できる、というかこちらを想起する人も多いはずで、こうした働き方を排除するかのようにわざわざ「保育サービス等の利用により、仕事に専念」とまで書いたのはなぜなのか、興味深いところです。また、「通勤時間が削減される分だけ、子ども等と一緒にいられる時間が増えるなどのメリットが期待される」という書きぶりは、言外に「子どもと一緒にいられる分、育児休業拡充は保育サービス拡充より政策的に優れている」と言わんばかり…というのは勘繰りすぎでしょうか。まあ、「預けず自分で」ということを重視する人も多いことは事実としても、このあたりは政府の研究会としてはニュートラルな姿勢が望ましいのではないかと思うのですが…。
子の看護休暇については、小学校入学まで人数にかかわらず年5日となっていて、たしかに子どもの多い労働者にとって不公平感があるかもしれません。人数が増えるほと病気で休む日数が増えるだろうということはもっともなので、人数に応じた制度にするという考え方もあるでしょう。ただ、それでは5日の人数倍でいいかといえばそれほど単純とも思えません。このあたりも報告書は結論を出しておらず、今後の労使の検討が待たれるところです。
かなり長くなったので続きは明日ということで(笑)