パワハラ労災

このところ、パワハラ自殺を労災とする決定が相次いでいます。16日には、上司から繰り返し暴言を受けた部下がうつ病を発症して自殺したケースについて、業務外とした労働基準監督書の決定を覆し、労災と認める判決が東京地裁であったと伝えられました。

 製薬会社の営業担当社員だった男性(当時35歳)がうつ病になって自殺したのは、直属の上司の暴言が原因だったとして、男性の妻が国を相手取り、労災と認めるよう求めた訴訟の判決が15日、東京地裁であった。渡辺弘裁判長は「男性は、上司の言動により過度の心理的負担を受けて精神障害を発症し、自殺に及んだ」と述べて、男性の自殺を労災と認定し、国に遺族補償給付の不支給処分を取り消すよう命じた。

 判決によると、男性は1997年から、東京都内に本社のある製薬会社の静岡営業所で営業担当として勤務していたが、2002年4月に赴任してきた係長から、「存在が目障りだ。お願いだから消えてくれ」「お前は会社を食いものにしている、給料泥棒」「お前は対人恐怖症やろ」などの暴言を受けた。男性は02年12月〜03年1月、適応障害うつ病を発症し、取引先とのトラブルが続いた後の03年3月に自殺した。

 判決は、(1)係長の態度には男性への嫌悪の感情があった(2)男性の立場を配慮せずに大声で傍若無人に発言していた――などと指摘。「係長の言葉は過度に厳しく、男性の人格、存在自体を否定するものもあった。男性の心理的負担は、通常の『上司とのトラブル』の範囲を大きく超えていた」と述べた。
(平成19年10月16日付読売新聞朝刊から)

営業職の場合はどうしても営業成績で人事評価の大半が決まりがちなので、上司としては不成績な部下にイライラするのもわからないではありませんが、これは常軌を逸しているでしょう。
とはいえ現実には、管理監督者の中には「不成績は怠慢のせいであり、強く叱責すれば勤勉になり、成績も上がる」という単細胞な発想を根強く持っている人もまだまだいるということでしょうか。人間はどうしても自分の経験をもとに物事を考えてしまうので、努力することで成績が上がったという成功体験を持つ上司からみると、不成績=怠慢という単純な発想に陥ってしまうのかもしれません。
もっとも、「お願いだから消えてくれ」「お前は対人恐怖症やろ」という発言からは、「おまえは営業向きではないからさっさと会社を辞めろ」という意図が透けてみえるような気がします。とはいえ、営業向きでないから即座に退職しなければならないというわけではなく、そこにはたとえば業務に配置転換するとか、なんらかの対象方法があるはずです。係長といえば初級管理職でしょうから、課長なり営業所長なり、相談相手は必ずいるでしょう。彼が気に入らないなら気に入らないで、「彼は向かないから動かしてあげてほしい」といった相談はできなかったのでしょうか。というか、できなかったからこういう事態になったわけで、それはこの係長の問題なのか、あるいは組織のコミュニケーションの問題なのか、その両方なのか、どこかに問題があったのでしょう。
ただ、製薬会社というのは外資も多いので、ひょっとしたら向かなかったら辞めるのが当たり前、成績が悪ければクビ同然の退職を迫られるのが当たり前、という風土の企業なのかもしれません(外資に対する偏見)。それでも、取引先とのトラブルが増えるといった明らかな異常があるのに、上司だけではなく、周囲まで無関心だったとすると救われない話です。
さらに、今朝の日経では、やはり営業職が配置転換に長時間労働と上司の叱責が加わり自殺したケースで、こちらは国の労働保険審査会が業務外の決定を覆したと報じられていました。

 岩手県の自動車部品販売会社の営業担当で、自殺した男性(当時31)の両親による労災申請をめぐり、国の労働保険審査会は十八日までに、自殺は業務に起因すると認定する裁決をした。配置転換や長時間労働などのほか、上司が厳しくしかるパワーハラスメントパワハラ)も加わり、強度のストレスになったと判断した。
 両親の訴えを認め、盛岡労働基準監督署長による遺族補償給付などの不支給処分を取り消した。裁決は十五日付。
 裁決によると、男性は一九九九年十二月に自殺。部長だった上司が、男性を含め営業担当社員を毎日のようにしかり、来客の前でも容赦なかったとされる。
 男性は母親に「部長は怖い人だから電話がきたら何も言わずにつないで」と話したといい、裁決は「相当程度の恐怖を抱いていたと推認でき、単なるトラブルではなく、一方的にパワハラを受けている状況」とした。

これは最初の製薬会社のパワハラ自殺とは異なり、一人だけを集中攻撃していたわけではないようですが、それにしても「来客の前でも容赦なかった」とは非常識です。やはり、叱責すれば働くという貧困な勤労観の持ち主なのでしょうか。こういう職場・上司だと、長時間労働についても他の営業職もおそらくは同じだったと思われます。それでも他の人はまだ耐えられたが、この人は配置転換のストレスも加わったということで、たしかにこんな上司のところに異動させられてしまったのではたまらないでしょう。「他の人は大丈夫なのだから」という理屈は通じない、ということを銘記する必要がありそうです。