時間外労働削減あれこれ

今朝の日経新聞から。

 大手企業がホワイトカラーを中心に社員の時間外労働削減への取り組みを強化している。近鉄エクスプレスは作業ごとに標準時間を設定して、社員に働き方の工夫を促す。キヤノン野村総合研究所など残業を届け出制にする企業も増加している。社員の意識改革を促し、生産性を向上。働き方を見直すことで、優秀な人材の確保・定着につなげる。

 社長直轄プロジェクトとして今年末までに時間外労働の二五%削減を目標に掲げる近鉄エクスプレスは、営業所や物流施設など全国七十八拠点での業務内容の見直しを進める。業務ごとに標準時間を定め、各社員の一日の行動を点検、標準より長くかかる社員には仕事の進め方を見直させる。社員の動きを実際に分析、コピー機の配置など効率を高められるオフィスのあり方なども探る。
 残業の一律禁止や時間管理の強化だけでは、自宅に仕事を持ち帰ったり、能力のある人の負担が増えたりするだけで、実効性がない場合もある。業務内容そのものを見直し、無駄な時間を省く工夫が不可欠だ。
 野村総研は午後十時以降の残業を届け出制にし、入退室記録をもとに十時以降の残業者のリストを電子メールで送るシステムを導入した。
 キヤノンは部下の申請を受けた残業が必要かどうか上司が判断。残業時間は十五分単位で報告させる。
 残業禁止にいち早く取り組んだトリンプ・インターナショナル・ジャパン(東京・大田)。一九九一年の開始時は毎週金曜日だけだったが、現在は原則残業はできない。二十年前より七割少ない約百五十人の人員(本社部門)で、売上高約五倍と、膨らんだ仕事量をこなすが、残業禁止に伴う生産性の向上が寄与していると同社では見ている。
(平成19年7月6日付日本経済新聞朝刊から)

 バブル経済の人手不足期に時短が進んだのと同じようなことが起こっているわけですね。
 さて「ホワイトカラー中心に」といいますが、近鉄エクスプレスの事例はどちらかというと現場の話でしょう。生産工学手法を使っているところをみると、燃料費高騰に苦しむ物流業界だけに、残業削減はコストダウン策という色彩がありありです。
 野村総研のケースは、そもそも野村総研シンクタンクですから、研究員は当然裁量労働制でしょうから、「残業」を届け出制にするというのもなんとなく妙な感じがします。あるいは、研究員ではない事務職の話なのでしょうか?しかし、だとすると「午後十時」という時間の遅さが不可解です。で、その時間の遅さからみて、これは健康確保措置という性格が強そうです。
 キヤノンの事例は、一般的に30分単位で申告させる企業が多いので、15分単位は珍しい、ということでしょうか。まあ、それだけ細かく見ようということなのかもしれません(ちなみに法的には、タイムカードの記録などを直接労働時間計算に使う場合は日々の労働時間は分単位で計上する必要があるようです。キヤノンのように自己申告なら15分単位でも30分単位でも悪くはないわけですが、細かいほど正しそうにみえるということはあるでしょう)。で、部下が申請した残業の可否を上司が判断するというのが珍しいかというと必ずしもそうではなくて、就業規則などでは残業は上司の命令で行うとしている企業が実は多数派ではないかと思います(たしか、旧日経連のモデル就業規則もそうなっていたような記憶があります←自信なし)。ただ、現実にはほとんどの場合は部下の裁量で残業を行い、上司が事後的に(多くの場合はまとめて)承認するという運用がされているものと思われます。キヤノンで本当に日々上司が残業の承認を行っているとしたら、これはたしかに珍しいでしょう。
 ところで、記事は「残業の一律禁止や時間管理の強化だけでは、自宅に仕事を持ち帰ったり、能力のある人の負担が増えたりするだけで、実効性がない場合もある。業務内容そのものを見直し、無駄な時間を省く工夫が不可欠だ。」と書いており、これはこれでまことにもっともなのですが、ワーク・ライフ・バランスの観点から考える際には、「自宅に仕事を持ち帰る」ことはある程度容認されてもいいのではないかと思います。自宅に帰りさえすれば、家事や育児などのかたわら仕事をすることもできるわけで、持ち帰り量が多すぎてそれもできないようでは問題ですが、それほどでないのならとにかく帰宅することを優先するという考え方も十分ありうるでしょう。トリンプのケースにしても、もともと家庭事情で早く帰りたい女性社員が帰りやすいようにという配慮で残業を禁止したわけですから、帰宅できれば自宅で多少の仕事をするのはかまわないという人が多いはずで、実際にも相当の持ち帰りは行われているのではないかと想像(私のまったくの想像です)します。会社で残業としてやれば残業代が発生するかもしれない持ち帰りを「生産性の向上」と呼ぶのかどうかは疑問ではありますが…。
 例の経済財政諮問会議の専門調査会でも、最近在宅勤務と労働法について議論が行われたそうですが、ワーク・ライフ・バランスの観点から在宅勤務を普及させていくには、一般的にイメージされがちな一日単位、半日単位といったまとまった時間の在宅勤務だけではなく、小刻みで使い勝手のいい「持ち帰り」の仕事をどう扱うのかも考えていく必要がありそうです。