民主党のマニフェスト

国会も事実上閉幕し、政界は参院選モードに移行したようです。参院選マニフェストがなじむのかどうかは私にはよくわからないのですが、とりあえず各党ともにマニフェストを出しているようですので、今回もその内容をみてみたいと思います。
今日はまず民主党から。「くらし」の中の「はたらき方」の部分をとりあげます。
まずはやはり「格差」ときました。

 格差是正の観点からの税改正 *所得税の正常化(再分配機能の復権

 格差是正のために、所得控除を整理し、給付・税額控除を組み合わせた制度の導入を図ります。消費税の逆進性対策についても、「戻し税」という形であわせて行います。なお、扶養控除や配偶者控除配偶者特別控除については、見直しによって生まれる財源を子育て支援策などの社会保障財源とします。また、資産性所得に対する課税水準の適正化を図りつつ、株式の長期保有に対する一定の配慮によって「貯蓄から投資へ」の流れを促進し、健全な市場の発展に努めます。

所得税の正常化(再分配機能の復権)」というなら、これまで緩和され続けてきた所得税の累進性を再強化するというのが普通の考え方のような気がしますが、そうではないようです。たしかに、なにかと複雑になっている所得控除を整理することは「正常化」といえるのかもしれませんが。扶養控除や配偶者控除配偶者特別控除を見直して子育て支援策の財源とするというのは、総合規制改革会議(だったか?)が提唱した「育児保険」の考え方に共通するもので、ありうる考え方でしょうが、これが「再分配機能の復権」といわれてもちょっとピンときません。
「戻し税」を消費税の逆進性対策に使うという考え方は有力だと思います。民主党マニフェストには基礎年金の財源は全額税とし、消費税はすべて年金財源とするとありますが、これも含めていずれ消費税の引き上げは避けがたいとすれば(避けがたいと思うのですが)、やはり逆人頭税的なしくみで逆進性を緩和することを検討する必要があるでしょう。
「資産性所得に対する課税水準の適正化」というのも具体的にどうするのかよくわかりませんが、格差是正というからには資産所得課税を強化するということでしょう。格差そのものではなく、格差の固定化は望ましくないという観点で考えると、資産所得課税の強化はなかなか有力な考え方ではないでしょうか。勤労所得が資産として定着し、それが資産所得を生み始めると、格差も固定化するように思われるからです。もっといえば、資産所得だけでなく、金融資産そのものに対する課税も強化してもいいのかもしれません。
ということで、「所得税の正常化(再分配機能の復権)」というお題目がなんだかわかりにくいわけですが、中身はなかなかにもっともな部分が多いように思います。
次はワークライフバランスと「はたらき方」の改革と、やはり流行のテーマを取り上げています。

 均等待遇とワークライフバランスで「はたらき方」を改革

 パート労働者はいまや1,200万人を超え、基幹的・恒常的な労働力としての役割を担っています。しかし、その処遇については、労働時間や仕事の内容が正社員とほとんど同じであっても、雇用形態の違いを理由に、その働きに見合ったものになっていないと指摘されてきました。民主党は短時間労働者や有期労働者であることを理由に、賃金その他の労働条件について、通常の労働者と差別的取扱いをしてはならないことなどを盛り込んだ、「パート労働者の均等待遇推進法案」や「労働契約法案」を提案しています。今後も「はたらき方」によって賃金その他の労働条件が著しく不利にならない合理的な原則づくりに取り組みます。
 また、労働時間と労働者の健康は密接に結びついており、長時間労働によるメンタルヘルスの悪化、過労死・過労自殺などを防ぐため、健康・安全配慮義務、健康確保のための労働時間管理を徹底することが重要です。民主党は、時間外勤務手当の割増率を現行の25%から50%に引き上げます。
 民主党は男性・女性を問わず、すべての労働者が、仕事と家庭生活の両立、健康確保、地域活動、自己啓発など、一人ひとりの意識やニーズに応じて、ワークライフバランスを保つことのできる社会、すなわち、男女ともに仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会をめざします。「仕事と家庭の両立支援法」(2004年159通常国会に提出)、「男女雇用平等法」(2006年164通常国会に提出)の制定に向けて取り組みます。
 さらに、「再就職奨学金」の創設により、育児や介護のために退職した人の再就職を支援します。政府調達事業の女性企業家への一定比率の発注枠確保やNPO等による起業を推奨し、女性企業家を増やすことなどを通じ、多様なはたらき方を実現し、日本の新たな活力を生み出します。

まあ、ここは何度も取り上げてきたところですが、「処遇については、労働時間や仕事の内容が正社員とほとんど同じであっても、雇用形態の違いを理由に、その働きに見合ったものになっていないと指摘されてきました」といいいますが、働く人に「あなたの処遇は働きに見合ったものになっていますか」と尋ねれば、正社員だって相当割合の人は「なっていない」と答えるのが現実でしょう。比較的処遇の水準が高くない人ほど、「なっていない」と答える割合が増えるでしょう。非正社員にしてみれば、「雇用形態の違いを理由に」「なっていない」と答えたくなるということも多いでしょう。で、こうした不満に対処することはあるいは政治の役目なのかもしれませんが、それが『「はたらき方」によって賃金その他の労働条件が著しく不利にならない合理的な原則づくりに取り組みます』というだけでは、なにをしようというのかわかりません。まあ、「はたらき方」(なぜ平仮名なんでしょう?気にするほうがバカなんでしょうか?)が違えば賃金も違うのは当然だ、という前提になっているところは評価できますが、なにをもって「著しく不利」とか「合理的な原則」というのか、まさか働く人本人の感想で決めるわけではないでしょうが…。
次の「また、労働時間と労働者の健康は密接に結びついており、長時間労働によるメンタルヘルスの悪化、過労死・過労自殺などを防ぐため、健康・安全配慮義務、健康確保のための労働時間管理を徹底することが重要です」というのはまことにもっともなのですが、それがなぜ「時間外勤務手当の割増率を現行の25%から50%に引き上げます」になってしまうのか…。まあ、時間外労働を高コストにすれば使用者は時間外労働をさせなくなるだろうということなのでしょうが、逆にいえばプレミアムを余分に払えば相変わらず長時間労働させてもいいよ、という政策なわけで、おカネが欲しい人にはうれしいでしょうが、労働時間を短くしたい人にはあまりうれしくないのでは…。そもそも、同じ1日10時間働いたとしても、軽易な事務労働と重筋作業とでは健康への影響はかなり異なるはずで、仕事の内容もふまえてうまく労働時間そのものにキャップをかけることを考えなければ効果はないと思うのですが。
それから、「男女雇用平等法」なるものがどういうものかは知らないのですが、少なくとも字面をみてイメージするかぎり、それは「一人ひとりの意識やニーズに応じて、ワークライフバランスを保つことのできる社会」とはあまり関係がないのではないかと思うのですが…(このあたり、均等法の理念に「仕事と生活の調和」はなじまない、という均等分科会での議論があったと思います)。一人ひとりの意識やニーズは無関係に、一律のワークライフバランスを保つ社会にはひょっとしたらつながるかもしれませんが…いやそんなことはないか。
さて次は最賃です。

最低賃金の大幅引き上げ
現行の最低賃金は年に1円から5円しか上がっておらず、地域によってはフルに働いても生活保護水準を下回るなど、ワーキングプアを生み出す要因の一つとなっています。民主党は、まじめに働いた人が生計を立てられるよう、最低賃金の大幅引上げを目指し、最賃法改正案を国会に提出しました。(1)最低賃金の原則を「労働者とその家族を支える生計費」とし、(2)すべての労働者に適用される「全国最低賃金」を設定(800円を想定)、(3)全国最低賃金を超える額で各地域の「地域最低賃金」を設定、(4)中小企業における円滑な実施を図るための財政上・金融上の措置を実施する――ことなどで、3年程度かけて段階的に地域最低賃金を引き上げ、全国平均を1000円にすることを目指します。

「現行の最低賃金は年に1円から5円しか上がっておらず」ということですが、最賃の水準そのものは別として、このデフレの中で上がり幅が小さいのは当然ではないかと思うのですが。
それはそれとして、最賃を生計費原則のみにして、地場の相場や企業の支払能力を考慮しないものとするというのは、本来なら国が責任を持つべき国民の最低生計費確保を企業に転嫁するわけということですから、あまり理にかなっているとは思えません。「まじめに働いた人が生計を立てられる」というのはもっともといえばもっともですが、それは福祉政策によって、まじめに働いていることを条件に最低生計費に届かない部分を国が福祉的給付によって補充するというのがまっとうな考え方ではないかと思います。
ときに、なんらかの方法で無理やりに最賃を全国平均1,000円にしたとしたら、それが価格転嫁されて物価がかなり上がるのではないかという気がします。それは経済にも国民生活にもあまりいいことではないのではないかと思うのですが、これはそれほど大したことはないのかもしれませんが…。
もうひとつ、若年雇用対策が取り上げられています。

若者の雇用就労支援

 バブル崩壊後の不景気に伴い、若い世代が学校を出ても、就職先がない、正社員の職に就けない、厳しい雇用状況が続きました。そうした「就職氷河期」に社会に出た40歳未満の方にとって、景気が回復しつつある現在も正規雇用への転換は狭き門で、職業能力開発の機会も乏しく、正規雇用者との格差が広がっています。民主党は国会に「若年者職業安定特別措置法案」を提出しました。自立を希望する若者が安定した職業に就けるよう集中的に支援するため、(1)「若年者等職業カウンセラー」による職安での就労支援、(2)「個別就業支援計画」を作成し、職業指導、(3)民間企業等での職業訓練等を用意し、必要に応じて就労支援手当(一日1,000円、月30,000円相当)支給――を行います。職安には若者が集まることのできる場所を提供し、ピアカウンセリング等も行います。また、全国の中学2年生を対象に、5日以上の職業体験学習を実地します。

まあ、それなりにもっともな内容なのかもしれません。せっかく人手不足感が強いわけですから、なんとかこの状況が続くうちに事態の改善をはかることが必要です。そのためには、人手が欲しいと思っている企業に、正社員として採用したいと思わせるような存在に「仕立て上げる」努力も大切だろうと思います。それほど簡単ではないかもしれませんが…。なお、やや唐突感はありますが、「キャリア・スタート・ウィーク」がまだ生き残っているのもいい感じです。
「はたらき方」は以上なのですが、続く「教育」のところから気になったところを。

 学校教育力の向上

…教員の質と数の充実のために以下の措置を行います。
 教員が、その崇高な使命を果たし、職責を全うできるように、人員を確保し、養成と研修の充実を図ります。 教員の養成課程は6年制(修士)とします。
 教員の資格、身分の尊重、適正な待遇の保障については国が責任を持ちます。
 教育行政の体系を簡素にし、現場の主体性を尊重することにより、教員を煩瑣な事務から解放し、教育に集中できる環境をつくります。

「教員の資格、身分の尊重、適正な待遇の保障については国が責任を持ちます。教育行政の体系を簡素にし、現場の主体性を尊重することにより、教員を煩瑣な事務から解放し、教育に集中できる環境をつくります」と至れり尽くせりですが、本当にそれでいいんでしょうかねぇ。まあ、不要で面倒な事務仕事があるなら(ありそうですが)それがなくなるのはいいことでしょうが、勝手にやらせて国立や所沢みたいなのが増えても困ると思うのですが。労組の言い分をそのまま引き写したような感じで、やる気が感じられません。

 希望者全員が生活費も含めて借りられる奨学金制度の創設

 大学、大学院等の学生を対象として、希望者全員が、最低限の生活費を含めて貸与を受けられる奨学金制度(借り入れ限度額を年間300万円と想定)を創設します。このことにより、親の仕送りゼロでも、誰もが大学等で学ぶことができ、さらにいったん社会人となった人でも意欲があれば大学等へ行きなおすことができます。

年間300万円で「親の仕送りゼロでも」誰もが大学等で学ぶことができるもんでしょうか?まあ、学校の寮や公的施設で住居費は格安ですませるとしても、森永先生じゃないですが、300万円で学費や教材費までまかなえるのでしょうか?もちろん、不足分はアルバイトなどで稼ぐ、ということなのかもしれませんが…。しかし、希望者全員に300万円を無担保(希望者全員ということはそういうことでしょう)で貸すというのもずいぶん無謀なやり方のような気がしますが、大丈夫なんでしょうか?