労働者(1)

「キャリアデザインマガジン」第102号に掲載した記事を転載します。すげー久々の発行(笑)。いや笑ってごまかしてる場合かという話なのですが、まあいろいろ事情がありまして滞っておりました。

「労働者」(1)

 「労働者」をWeb辞書三省堂大辞林」、http://www.sanseido.net/)で調べてみると「(1)労働に対する賃金で生活する人. (対)資本家 (2)肉体労働者.」となっている。似たようなことばに「勤労者」があるが、こちらは同じ辞書で「勤労所得で生活する者.農民・サラリーマン・商工業者など.」との定義が与えられている。労働者とはもっぱら雇われて働く人であり、農民や商工業者は含まれないようだ。「労働」は同じ辞書によれば「体(頭脳)を使って働くこと.」だというから、農民や商工業者(あるいはもっぱら家事に従事する専業主夫/婦なども)も「労働」をしているという自覚はあるだろうが、しかし雇われているわけでも賃金を受けているわけでもないから、労働者ではないということになろうか。
 法律上も、民法第三編(債権)第八節(雇用)において「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」と定められ(第623条)、その当事者を「使用者」「労働者」と称している。なお憲法は最低労働基準の法定に対しても労働三権の保障に対しても「勤労条件」「勤労者」の語を使用しており、「労働」「労働者」の語は現れない。
 労働法においては、「労働者」に定義が与えられているものもある。たとえば労働基準法は「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」という定義を与えているし(第9条)、労働契約法では「この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。」という定義が与えられている(第2条)。民法の雇用(契約)と労働契約法の労働契約が同一概念か否かについては論争があるようだが、いずれにしても雇用・労働契約およびその最低基準のルールを定めたものなので、現に存在する就労と賃金支払の契約の一方当事者が「労働者」だ、ということになろう。
 これに対して、労働組合法の定義は異なっていて、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」というものだ(第3条)。なにも違わないように見えるかもしれないが、労働基準法・労働契約法が「賃金を支払われる者」としているのに対して、労働組合法は「賃金…その他これに準ずる収入によつて生活する者」としている。つまり今現在は賃金を支払われていないが雇われて働くことを意図している失業者であってもこれに該当し、労組法上の労働者に該当することになるし、労働の対価として収入を得ているのであれば必ずしも雇用・賃金という形式をとっていなくても「これに準ずる収入によって生活」に該当して労働者とされる可能性もあるということだろう。国語辞典の定義はこちらに準拠しているようだ。